・至真が付き合ってるせいでちょっと割を食う千景の話。
大変申し訳ない。こちらが伝え間違えていたようだ。
いいえお気になさらず。
というやり取りがあったために、千景のこの度の出張は本来の日程よりも一日早く終わることとなった。
そうと決まれば、速やかに家に帰ることにしよう。
空港からMANKAI寮へ、そして玄関から談話室へと実にスマートな足取りで進み、ただいまというお決まりの挨拶と共に顔を出せば、途端にまだ起きていたらしい何人かの悪い子たちがわっと迎えてくれる。
どうしたんですか、明日じゃなかったんですか、と口々に不思議そうにしながらも、彼らが返してくれるのもまた、決まって『おかえりなさい!』という温かな言葉だった。
こういう結果になるとわかっているからこそ、千景は到着が夜の十時を過ぎるだろうとわかっていても、帰宅先をこちらに選んだのだ。
さて、今回は早く終わったんだという丁寧な説明とお土産をセットで渡すと、今度はキッチンの番人たちが千景を呼び止めてくれる。
後片付けに勤しんでいたらしい綴と臣が言うには、今日の夕飯だったカレーはすっかり綺麗に完売してしまったとのことで、辛党としては非常に残念な事態であるだろう。
しかし、そこへパンとスープくらいならすぐに用意しますよと畳み掛けてくれるのが、臣がMANKAIカンパニー自慢のシェフである所以になる。
ならば無下に断るはずもない。
ありがとう、という深い礼でもって、千景は素直に二人の好意を受け取ることにした。
そうして準備が整うまでの数分間、せっかくだから荷物を置いて着替えてこようと向かった先の自室でのことである。
休日の前夜、ともなれば、ルームメイトたる茅ヶ崎至は絶賛ゲーム中に間違いないだろう。
声をかけて生返事を寄越される程度ならともかく、まるで天地をひっくり返したかのごとく部屋中がちらかっている惨状は勘弁して欲しいな、と早くも溜め息を漏らしながらドアを開けた。
直後、部屋の中から勢いよく飛び出して来た者がいる。
「ちょっ……ちょっと待ってください先輩!」
「茅ヶ崎!?」
そりゃいくら千景だって、不意を突かれれば目を白黒させるほど驚くのは当然のこと。
おまけに、ただ出迎えられただけならともかく、目の前に立ち塞がる件の男が通常では考えられないような姿をしていたら、こちらも普段以上に狼狽えるものだろう。
数日ぶりに再会した茅ヶ崎は、今スウェットを穿きました、と言わんばかりの恰好だった。
つまり上を着ていない。上着も、シャツも、何一つ。
おかげでこれっぽっちも鍛えられていない体躯が惜しげもなく晒されているこの現状を千景は、いつもは嫌がるくせに珍しいなと感じる一方、眼前のあまりの状況にさすがに慌ててしまった。
「悪い、着替え中だったのか……」
気遣いのつもりで視線を逸らしてやって、しかしそこで、はたと気付く。
なぜ俺はたかが着替え一つで入室を止められているのだろう。
一つ屋根の下、同じ部屋の住人となって既にそれなりの時間が経っているのだから、お互い、今更服を着替える程度で恥じらうような柄では無かったはずだ。
じゃあなぜ、と余計に疑問に思ったところで目敏く思い当たる。
これはきっと、服を着る途中、ではないのだ。
むしろその逆で、上を脱ぎ、続いて下を、という最悪のタイミングだったことだろう。
そうとわかれば千景は悟らずにいられない。
心底からの呆れと建前上のお怒りをじっくり煮込んだような低ーい声でわざわざ尋ねてやる。
「茅ヶ崎……お前、中で何してるんだ?」
「あの………………今、真澄が服着てます……」
end
というところで今回は終了です。
お付き合いくださりありがとうございました。
アイム
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至真の短いの。200428
初公開日: 2020年04月29日
最終更新日: 2020年04月29日
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