青々とした草原を渡る風が頬を撫で行く。
草いきれの香りが鼻をくすぐる。
あれから幾年経ったのだろうか。今でも彼の声は私の耳に木霊する。
彼の面影も思い出せなくなった今、私に生きる意味はあるのだろうか。
「なぜ、貴方の顔すら浮かばないのでしょう」
悲しげな声を拾うものは何もない。
さっきまで晴れていた空には雲が浮かび、陽光を遮る。
「なぜ、貴方は今ここにいないのでしょう」
泣きそうなほどの曇天は、やがて雨に変わる。
「どうして、なぜ」
崩れ落ちた視線の先には、粗雑な木の枝を合わせて作られただけの墓。
一見するとそれは子供が気まぐれに作った寄せ集めのガラクタの山のようだった。
「ふふ」
零れ落ちる乾いた笑いは誰にも拾われることはない。
ふと、誰もいないはずの後ろから気配がした。
ぐしゃり、という水たまりを踏む音に振りかえる。
「あ、なた」
そこにはもうこの世にはいないはずの彼が居た。
「やぁ」
そういって気さくにほほ笑む貴方は昔と変わらない。
だというのにどうしてこんなにも、
......寒気が止まらないのだろう。
「どうしたんだい」
彼は不安そうに瞳を揺らしながら、こちらを見遣る。そのしぐさは生前の彼と同じだった。
恐る恐る、彼の手に触れてみる。
雨に濡れ冷えた冷たさの中にじんわりとした暖かさを感じる。
「......ぇ」
驚きに目を見開き、思わずというように頬をつねる。
......確かに、痛い
頬から伝わるじんじんとした痛みは確かにこれが現実だと分かる。
「なんで、生きて」
思わず、と私がこぼすと彼はただただ優しく微笑んだ。
「僕がいつ死んだというんだい」
彼は昔のままの笑みで答える。
......昔のまま、本当に?
「貴方は、先の大戦で死んだでしょう?」
確かに遺体を見たわ、と私は震えながら言った。
「ははは、そんなはずないだろう? 今、ここにいるんだから」
彼はそういって、私の頬をそっと撫でた。
その手の温かさに違和感を覚える。
......彼の手はこんなにも暖かかっただろうか?
記憶にある彼の手は常にひんやりとしていたはずだ。
「貴方は、誰なの」
彼ではないわ、と言うと目の前の彼のようなナニカがにたりと笑った。
「何を言ってイるんダい」
いびつに発される言葉は、やはり彼のものにしては君が悪い。
「貴方は誰なの」
二度聞き返すと、彼はやっと答えた。
「俺ハ、ぼくは.....いや、私は」
誰なんだろうね。
そう言った声は途方に暮れていた。
カット
Latest / 22:33
カットモードOFF
文字サイズ
向き
チャットコメント通知
タイトル未定一時創作
初公開日: 2020年04月26日
最終更新日: 2020年04月26日
ブックマーク
スキ!
コメント
この前アンケ取った結果一時創作配信になったので一時創作します。内容は特に何も考えてないです。