ライブ会場はビルの地下一階にあった。階段を降りると、次第と歓声が大きくなっていくのを感じられる。それにしても、こんな場所で行われているライブって、いったいどんんなライブなんだろうか?
扉を開けると、さらに声のトーンが大きくなった。もはや洪水みたいなものだった。人でいっぱいになっていて、かなり湿度も温度も高い。
正直、出来ることならあまり居たくない――なんて思ってしまったけれど、ここまで来たのなら少しは見てみるのも一興かもしれない。
「さーてっ! モモカのライブに来てくれて、みんなありがとーっ! 今日はこれで最後の一曲になるよっ!」
「ええーっ!!」
歓声――観客が一斉にリアクションを取る。
「それじゃ、最後の一曲行くよっ!」
そして、けたたましいイントロとともに曲がスタートするのだった。
曲を聴き終えると、まあ、悪いものではなかった。こういうジャンルの曲も悪くないな、と思ったぐらいだった。
先程のアイドルと思われる女性が言ったことが正しければ、これでライブは終わり、ということになる。確かに、曲が終わると、少しずつ人が出口に向けて歩き出しているように見えた。
俺も例に漏れず、その流れに従って動きだそうとしたのだが――。
そこで、ふと、ライブ会場の奥に居た一人の少女に目が行った。
少女は黒のハーフツインテールに、ゴスロリチックな黒い衣装を身に纏っていて、最初はステージに立っている彼女と同じく、アイドルの一人なのだろうか? なんて思ってしまった。
しかし、ステージを真剣に見つめている、その素振りからして、寧ろマネージャーの方が近いのかもしれない。
――と思っていたら、その彼女と目が合った。
急いで目を背けようとしたが、それよりも先に向こうが気づいてしまい、ずかずかとこちらに向かって歩いてくる。
不味い。何て言って誤魔化そう――などと思っていたのだが。
「ちょっと、アナタ。いったいどうしてリリアのことを見ていたのかしら?」
「え、あ、いや、あのー……」
正直、しどろもどろにしているのが恥ずかしい。っていうか、不審者感が半端ない。
ああ、出来ることなら直ぐ終わって欲しいのだが――!
「……ふふん、リリアが可愛いならそうと言えば良いのに」
そう言って、彼女――リリアは胸を張って笑みを浮かべていた。
……は?
何を言っているのかさっぱり分からなかったが、少しの沈黙を置いて、何となく理解した。……このリリアという少女は、どこか自分が一番というプライドがあるのかもしれない。
「リリア様、どうしたの?」
そんなことを思っていたら、いつの間にかステージに立っていたはずのアイドルもやって来ていた。あれ? 様付けしているってことは、マネージャーとアイドルの関係性ではないのか?
「ここに居た青年が、リリアのことを可愛いと思っていたのですわ」
いや、そんなこと思っていないが――なんて言ったら逆鱗に触れそうなので言わないでおく。
「へえ! リリア様を可愛いと思うなんて当たり前のことだと思っていたけれど……、まあ、実際可愛いから仕方ないでしょ?」
ここにはツッコミ役が居ないのか……。
俺は取り敢えずこの場をどう乗り切るかと考えていた。適当に会話をして逃げるのも不味い、今から踵を返して走り去るのも不味い、と考えると――。
「……リリア様が気に入ったのなら、仲間に入れても良いんじゃない? だって、男手は欲しいでしょ?」
「まあ、確かに必要なのは必要ですわね……。アナタが行う計画を遂行するためにも」
「あ、あのー……?」
不味い。どうやら俺が考え事をしている間に、二人の間でどんどん話が進んでいるようだった。可も無く不可も無く進んでいくつもりだったのに、これはある意味最悪のルートではないだろうか――!
「じゃあ、決まりですわ」
リリアはぐい、と俺の右腕を引っ張りながら言った。
「ちょうど時間もありますし……これからご飯でも食べながら、少々リリア達に付き合って貰いますわ」
その言葉に、俺は頷くことしか出来ないのだった。
アジアタウンの一角にある大衆食堂に俺達はやって来ていた。
アイドルと言いながらも、意外と食生活は普通なんだな……なんてことを考えていたら、
「すいません」
右手を挙げたのは、リリアだった。
「はい。何にしましょう」
「ええと、Aセット一つ。アナタは?」
そう言ってアイドル――ええと、名前はモモカって言っていたか――にメニューを見せる。
「これと、これ」
モモカは無愛想に、メニューを二カ所指す。それを見たリリアは、いつも通りといった感じで頷くと、
「ええと、Bセットと、ソフトクリームを一つ。……アナタは?」
俺はずっとメニューを見ていないのだが――などと思いながらも、ここで時間をかけると悪い印象を与えてしまう、と思い適当にメニューを選んだ。
「Aセットもう一つください」
「はい。Aセット二つとBセット一つ、ソフトクリーム一つで宜しいですかー」
「問題なしですわ」
リリアが頷きながらそう言うと、店員はそのままカウンターの奥へと捌けていった。
「……それじゃ、自己紹介から行きますわ」
リリアは自らの手を胸に当てながら、続けた。
「私はリリア。そしてこちらは……」
「モモカ。……花峰桃香」
そして俺も名前を言って、自己紹介を終える。
「ところで、アナタはどうしてこのプラチナアイランドに?」
「……観光だけれど。それ以外に何か理由があるのか?」
「いや、ちょっと気になっただけですわ。プラチナアイランドに観光や仕事以外でやって来る人間なんて居るのか、ってちょっと思っただけですわ」
「そりゃそうかい。……それで気になったんだが、さっき言っていた、男手が必要になる、ってどういうことなんだ?」