ノープランで書き始めます
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春の嵐に桜は散って、下界でも木々には花弁を支えていた赤茶けた萼だけが残った。
新緑の若芽も彩を添えながら季節は移ろっていく。
辰神である宗の領域内でも季節は移ろい、みかの本体である桜の木は花弁をわずかに残すのみ。
間もなく多くの桜の実がたわわに実り、その種子は下界に旅だち多くの新たな同朋を生み出すだろう。
最盛期を過ごし、宗の神域の中で穏やかに暮らすみかは普段は野山を元気に駆け回り、沢で水遊びをし、ひとしきり遊べば宗にくっついてお勉強をしたり刺繍を習ったりするのだがここ数日はこんこんと眠り続けていた。
その表情に苦痛は無く、ただ身を丸めて宗が髪を梳いても、おはようと声を掛けても瞼は開かない。
冬眠の時期でもここまで深くは眠らない。
初めての事に動揺しつつも、みかの神気は安定している。
いずれは目覚めるだろうと、薄布の張り巡らされた寝台の中眠る子に一つ口付けを贈って、宗は一先ずは自分の領内の見回りへと出かけた。
近頃下界では妙な疫病が流行している、疫病は人の心を蝕み土地を荒らす。
信仰心が糧となる土地神にとっても見逃せない事案。
既に土地神として信仰している者はほとんどいないが、それでも一度は自分が治めた土地。
気を配ることは宗の中では当然であった。
「斎宮君」
みかの前では殆ど人型でいる宗も基本は辰神、空を飛び人間の前に姿を現す時は龍の姿となる。
真珠色のうろこと桜色の鬣、毛先の方は菫色に彩を変える姿はみかにはたまにしか見せないが見せるとはしゃぎすぎて疲れ果ててしまうからでもある。
そんな本来の姿で山の頂から下界を眺めていると、不意に声が掛った。
甘く余裕のある声、数少ない昔馴染みの声に宗はスイと山の端に降り立った。
風になびく黒髪と、紅柘榴石の瞳。
黒を基調とした着物に身を包み、不敵に微笑むその姿は見た目は人間と大差ないがその実この一帯を過去に取り仕切っていた鬼神の頭領である事は神々だけが知っている。
「零、久しぶりだね」
宗が一度酷く弱り消えかけた時、この鬼神もまた遠方の地へと追いやられていた。
異国で彼にしか収集の付けられない不測の事態が発生したとこの国から遠ざけられ、その間に土地を奪われたかつての土地神は多い。
今ではそれぞれ落ち着き、新しい場所でそれぞれの道を歩んでいるから過去の出来事もまた必要な運命だったのだろう。
そんな、かつての仲間に会うのは随分と久しぶりで宗にも思わず笑みが浮かぶ。
真珠色の鱗は融け、人型へと姿を変えて隣に降り立てば紅柘榴石の瞳が微笑んだ。
「久しいのう、元気そうで安心したぞい」
「君は随分と耄碌した喋り方をするようになったね」
皮肉を込めて言えば一笑される。彼の方が精神的にも実際の年齢的にも随分と大人なのだ。
声をかけて来たのは零の方だが、彼は口を開かない。
宗も語り始めれば止まらなくなる部分はあるものの、自分から色々話題を振る性質ではない。
風になびく森の木々が葉を揺らす音が暫く響いたころに、ぽつりと零がこぼした。
「愛し子が……」
「うん?」
「斎宮君の所の愛し子は元気かえ?」
「なぜ……君が知っている?」
まるで事情を知っているかのようなタイミングでみかの名前を出す零に、動揺を隠すことが出来ずにうろたえる姿を見せてしまった。
彼は昔からこうなのだ。
何もかもを見透かすような目を持っている。
実際には昔取った杵柄、と笑っているが。とにかく彼には優秀な人材が周りに沢山いて色々な情報が耳に入ってくるのだという。
「ちと、我がいとし子達が最近お気に入りの桜の木があっての……斎宮君の神域の木だというから気になってのう」
みかが宗の神域に入ってしばらくして、みかの枝葉に二羽の鴉が遊びに来るようになった。
ただの鴉ではないことは解っていたが、みかが随分と楽しそうに喋っていたし零の気配も感じていたため放っておいたのだが、どうやらあの二羽の鴉が零の使い魔だったようだ。
「可愛い鴉天狗の双子じゃよ、仲良くしてやっておくれ」
「向こうからきちんと正体を明かすのならば邪険にはしないよ」
零が把握していたことに合点がいく。
昏々と眠り続けるみかの事を、色々な知識を持つ彼ならば知っているのかもしれないと話を聞くことにした。
「それで?話題を振って来るからにはなにかしっているのだろうね?」
ただの好奇心なら僕はすぐさま帰るよ。と宗が告げると、零はクックックと独特な笑い方をする。
「そう焦るでない、斎宮君の所の可愛い子は随分と寵愛されたそうではないか」
零の言葉に少し前の嵐の晩を思い出す。
強い雨風に散りゆく同胞に心を痛めたみかを慰め、花を色付かせようと夜を過ごした。
そんなことまで知っているのかと頭が痛くなる思いで眉間の皺をほぐしていると、楽し気な零は意地悪をするつもりはないのかすんなりと続きを話してくれた。
「小さな桜の精に過ぎないあの子に土地神の神気を取り込むのは難しい。今は体の中に溜め込んだ斎宮君の神気と自分の神気を馴染ませるのに精いっぱいといったところじゃろう」
だから眠り続けているのだという彼の言葉に動揺する。
彼の花を次世代に残すために注ぎ込んだ神気が、今彼を苦しめているのだと思った。
「僕のせいで……」
「別に悪い事ではない、苦しんでもいない筈じゃよ。ただ体力をすべてそっちに持っていかれるので起きていられないだけじゃよ。うまく自分の神気と混ぜ合わせられればすぐに目を覚ますじゃろう」
零の言葉にほっと肩の力が抜ける、ひょうひょうとした口ぶりではあるが彼はいつだって仲間を想い言葉をくれる。
「あの小さな器では抱えきれなかったものは、形となって外に出されるじゃろうが」
これからが楽しみじゃのう
付け足された言葉に含みを感じながらも、みかが眠り続けてる原因が解って胸を撫で下ろす。
時間はかかるかもしれないが、いずれは目覚めるのならば憂えることはない。
「ありがとう零……僕はみかが気になるから失礼するよ」
そうとわかれば傍に居たいと途端に龍の姿に変化する友に苦笑を零しながら、ひらひらと優雅に手を振る。
「今度愛し子達に会わせておくれ」
「目が覚めたら伝えておくよ」
達…?と疑問に思いながらも気がせいている宗は深く追求することもなく空を舞う。
淡い光の粒子を撒きながら空へ消えていく友の姿を見送りながら、零はぽつりと告げた。
「絶対意味わかっとらんじゃろうな……驚いた顔が見たいが、これ以上は野暮かの」
どこからか二羽の鴉が飛んできて零の肩にとまる。
「あ~あ、辰神様の驚くところが見たかったなぁ。ねぇ?ゆうたくん」
「ん~、でも多分驚いた後に見せつけられちゃうだろうから遠慮しといたほうがいいと思うよ、ひなたくん」
両肩で楽しそうに語る二羽の鴉の頭を撫でて、零は山の端、宗と会話していた崖の上からふわりと飛び降りた。
「さて、お節介もしたことじゃし吾輩たちは帰るとするかの」
落ちるはずのその身はふわりと宙を舞い、足元から光の粒子となってその身は掻き消える。
神域に身を投じれば、どこへ行くのも思いのままだ。
「楽しみですね、俺はさくらんぼになるとおもう」
「え~辰神様の力の方が強いから卵じゃない?」
そんな声を残しながら。
宗が自分の神域に戻ると、みかは変わらず寝台の中で丸まって眠っていた。
零に言われたことを意識してみかの神気を探ってみると、なるほどみかの神気と自分の神気がぐるぐると渦巻いてお腹のあたりに溜まっている。
桃色と菫色が交じり合ったような塊は、少しづつ密度を濃くしているようだ。
もう少し小さく纏まればみかは目を覚ますだろう。
理由が解れば何という事は無い、胸を撫で下ろして宗はみかの髪を梳いて蟀谷に口づけた。
「早くまた元気な声を聞かせておくれ」
普段はやかましいのだよ、と小言を漏らしながらもあの元気にお師さんお師さんと呼ぶ声が無いのはやはり寂しいのだ。
ぐるぐるぐぐるぐる、渦を巻くような神気の流れに宗はそっと手を当てる。
「君と僕の気が交じり合って、まるで僕たちの卵のようだね」
みかに受粉させてあげると揶揄したが、あわよくば本当に身籠ればいいと思っていた。
これだけ大きな力の凝縮、神である自分が望めば夢物語ではないかもしれない。
言葉は力となる、言霊にのせて、宗はみかのお腹をそっと撫ぜる。
みかが目覚めるまで、それは日課となった。
みかが眠り続けて2週間ほどしたころだろうか、穏やかな顔で眠っていたみかの眉間に皺が寄る。
腕の中にみかを抱いて眠る彼を眺める事が日課になっていた宗はみかの表情の変化に気付くと慌てて声をかけた。
「どうしたんだい……? 苦しいの?」
「んぁぁ……」
瞳を閉じたまま、みかはじっとりと汗をかき始める。
普段の寝汗などとは違う、滲むような脂汗とよばれるものだ。
琥珀と瑠璃がうっすらと開かれる、2週間ぶりに目覚めた彼に喜ぶ間もなくその表情は苦悶に染められた。
「ぅあ…、ぁ! おしさ、おなか……痛い……」
宗の服をぎゅっと握りしめる指先は真っ白で、おなかが痛いと身をよじる様は見ていられない。
寝間着にしている肌触りの良い着物がはだける程にみかは体を丸くして、宗の胸元に縋った。
「みか……みか……!」
急に苦しみだした愛しい子に成すすべなく、宗は背中を摩る。
自分の神気を送り込んで、少しでもみかの苦痛が薄れるようにしてやるしかない。
「あかん……うまれるぅ……」
みかが両腕を伸ばして宗の首に縋る、抱きしめるように背中を抱いてやればみかは膝立ちになって宗の肩に顔をうずめた。
首に回された腕にこもる力は強い、この細腕のどこにこんな力があるのかと思う程に強く首に抱き着かれる。
宗は息苦しさを覚えたが、みかの苦悶に比べれば些細な事と彼の背中を懸命に摩る。
「おしさん、腰……腰撫でてぇ」
みかの叫ぶような声に宗は言われた通りに腰を摩る。
ハッハッと短く浅い呼吸を繰り返しながら、みかが何度も抱き着く力を強めたり弱めたりを繰り返す。
「んぅぅ~~……!」
唸る様に息をつめて、しばらくすると浅い呼吸を繰り返す。
そんな事を何度繰り返しただろうか。
「あ、お師さ……、っ!」
ひと際強く抱きしめられて、みかが身を固くすると足元にボトッと何か大きいものが落ちる感触があった。
途端に弛緩し、崩れ落ちるみかを支える事に必死で宗はすぐには気付かなかったが、みかが気を失ったのだと気付いて横たえた宗は足元に桜色と菫色の混ざった真珠のような色をした殻に包まれた卵がコロンと転がっていた。
「……え?」
一瞬呆けてしまうが、みかがこの卵を産み落としたのだろう事は状況から言って間違いない。
二人の神気が綺麗に混ざったその卵は、暖かく本能的に抱きあげなければと悟った。
宗の趣味から綺麗な布には事欠かない。
気を失ってしまったみかの傍を離れるのは気が引けて、彼の部屋の中、お昼寝をしてしまったみかにいつも掛けてあげる細かな刺繍の入った膝掛けでとり急いで卵を包む。
胸の中に抱けば、中に命が宿っているのが解る。
とくりとくりと感じる息吹。
みかは2週間の間、おなかの中でこの子を大切に育てていたのだ。
冷やさない様に、卵を掛け布と枕とで囲ってみかの頭の近くにそっと置く。
短時間であれば手を離しても大丈夫だろう。
宗の拳二つ分ほどの、小さな卵。
それでもみかの身体の大きさを考えれば随分と苦しかったことだろう。
汗に濡れるみかの髪の毛をかき分けて、けぶるまつ毛に縁どられた瞼に口付ける。
力を送り込んで、目が覚めるように願いながら。
「……ん、」
みかの瞼が震える。
ゆっくりと開く琥珀と瑠璃がぼんやりと宙を見つめ、そして覗き込む宗に気が付くとふにゃりと笑みの形を作った。
「お師さんやぁ……」
疲れ切った擦れ声、それでも宗の姿を見つけると嬉しそうに笑う。
そんな健気な姿に胸が締め付けられる。
「みか、解るかい? 今、何が起こったのか」
ずっと眠っていたみかが、自分が今卵を産み落としたことに気付いているのだろうか。
急に色々なことを言って混乱させてもいけないと、宗はそっと問いかける。
「ん、わかっとるよ。声、聞こえとった。おれ……おしさんの卵、ちゃんとうめた?」
力が入らないのか、みかの瞳がきょろきょろと辺りを見回す。
身体に力が入らないようだ。
「ああ、とても…とても綺麗な卵だよ」
宗がみかの身体を抱き起して、上半身を起こす様に支える。
反対の手で、頭元に置いた卵を抱き上げればみかが両腕を伸ばして卵を胸に抱いた。
「んぁぁ……よかった。割れて無い……」
抱いた卵にスリスリと頬擦りをする。
温かいその卵は、意識がない間もずっと自分の中に感じていた大切な気配。
「お師さんに貰った神気な、無駄にしたくなかったん。ずっと心ん中でたまごになれたまごになれって祈っとったんよ」
大切に卵を抱えながら無邪気に笑うその姿に、込み上げてくるものがある。
それは喜びだったり、愛しさだったり。
喜びがあふれると、涙がにじむのだとその時初めて知った。
「おれはしがない桜の精やけど、お師さんは立派な龍やもん……この子も綺麗な龍になってくれたらええなぁ」
たまごを大切に抱きながら、宗の胸に甘えるように擦寄ってくる。
抱き締めたい、慈しみたい、口付けたい、褒めてあげたい……
色々な感情が渦巻いて、宗はみかを抱きしめることしか出来なかった。
「大事に……育てようね」
声が震えていたことに気付かれなかっただろうか。
「君が目覚めてよかった……」
たまごが生まれ事は驚いたが嬉しい、それよりも何よりも、久しぶりにみかの目が開いて言葉が交わせたことが嬉しい。
一度消えかけた自分を神として信仰し続け存在を保ってくれた唯一の眷属、大事な大事な愛しい子。
彼が目覚めて、彼との間に新しい命を授かった。
まだ受け止めきれていないところもあるけれど、今は唯々、みかと卵が無事であったことが嬉しい。
「みか……目覚めてよかった、卵を産んでくれてありがとう」
絞り出すような声で言うと、みかは宗の顔を見上げていつものようにへにゃっと笑った。
「おれも、久しぶりにお師さんの顔見れて嬉しい」
まだまだ稚いと思っていたその笑顔が、今はこんなにも眩しい。
もう一度、腕の中の卵を潰さないように気をつけながらみかを強く抱きしめた。
それから更に1ヶ月、卵を温め続ける日々は続き雨の季節が始まる頃。
真珠色の殻は罅を走らせ、宗とみかが見守る中…
真っ白な体に口先と爪先、尻尾に桜の色を乗せた小さな小さな龍が顔をのぞかせた。
「んなう」
子猫のような鳴き声を上げて殻から転がり出た小さな子は桜の色を纏った美しい体をふるふると震わせて、よたよたとおぼつかない足取りながらも懸命に宗とみかの方に向かおうと体を前進させる。
みかがそっとすくうように抱き上げた。
腕に抱かれて安心したのか、「みゃう」と小さく鳴いて体を摺り寄せてくる。
壊さない様にそっと抱きしめるみかごと腕の中に囲って、宗は腕の中の大切な二人の幸せを祈った。
土地神の祈りは風となって駆け巡り、下界にも暖かな風が吹き渡った。
おわり
こんな夜中までお付き合いくださってありがとうございました!
ノープランで書いてるのであちこちおかしい部分があってすみません!!
また修正加えていきたいです。
遅くまでありがとうございました!!
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76:32
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76:39
一希
あ、ハートありがとうございます。くれくれになっててすみません::見てくださってる方いた!!良かった!このライブ配信の難点は見て貰えてるか解らないところなんですよね;;
77:06
一希
みずきさん!!ありがとうございます、もうすこしです!
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辰桜 卵が出来ました
初公開日: 2020年04月25日
最終更新日: 2020年04月26日
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