煉獄さんと⬛️⬛️さんの話  …全年齢、現パロ、一
祖父の遺品を整理した、孫の杏寿郎に渡す物があるから本家へ来て欲しい。
その電話を受け取ったのは本家を出た父だった。普段、ソーシャルゲームの課金額を母に叱られては無邪気に笑う人だったのに、そんな態度はいっさい消え、電話相手にむかってひどく怒鳴っていたのに驚いた。
 父が本家と仲が悪かったとは知らなかった。考えてみれば、俺が大学生になっても、夏休みはいつも母方の実家に数日帰省するばかりで、父方へ帰ったことはない。理由もとくに聞かなかった。それほど『本家』の気配は消えていた。
父はもちろん母もやんわり止めていたが、俺は結局その電話を折り返し、数日以内には取りに行くと連絡した。大学はまだ夏休みで、課題は終わったものの遊ぶような友人たちはバイトに明け暮れている。ようするに暇だった。
 父の過去を探ろうだとか、ばくだいな遺産を期待していたわけじゃない。
 登山用リュックに収まる程度の着替えと財布、携帯を持って、朝五時の新幹線に乗った。途中鈍行に乗り換える。駅に止まるたび車内の人は減っていく。ドアが開くたびに流れ込むむっとした熱気は、車内の過剰な冷房ですぐに感じなくなった。外を見ると住宅はまばらに、その間を埋めるように緑色の田が広がっている。山が近かった。
 ホームと看板しかない駅には、本家の人間だという男性が立っていた。俺にとっては大伯父にあたるそうだ。年頃は父と同じくらいだが、体格はがっしり引き締まっている。祖父が剣道の師範で、本家に出入りする人間はみな体を鍛えているのだという。
 荷台にシャベルを乗せたままの軽トラックに乗せられ、でこぼこした畦道を本家へむかって進んでいく。
 ちょっと山を見て行こうか。
 ふいに大伯父がそう言い、車が大きく右折した。
「山?」
「そうだよ。お父さん言ってなかった?」
どうやら俺が継ぐものは山も含まれていたらしく、思いがけない規模に思わず笑ってしまった。本家は相当に裕福だったらしい。
 どういう家だったのか、それとなく聞いてみるが曖昧に濁された。なんとなく気まずい沈黙のまま、俺のものだという山をぐるりとまわり、小さい社のそばの自販機の前で車を止める。
「父からどうして家を出たのか、教えてもらえなかったんですが」
「うん、まあ、俺もよく知らないが……似ていたからじゃないかい。祖父さん、亡くなった兄貴がいたらしいが、一枚だけ残ってる写真と君はそっくりだよ。
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初公開日: 2020年04月25日
最終更新日: 2020年04月25日
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