やり直します
「あぁーーーーん‼︎」
 けたたましい泣き声。この前の嵐よりもうるさい。いつもぴいぴい泣いているが、今日の泣き声はここ最近で一番かもしれない。
「もう、泣かなくたっていいだろ……保険にも入ってたんだから」
 十四が携帯電話を壊した。
 ポケットに入れたままトイレに座り……とまぁよくあるパターン。水没させてしまったのだ。用を足す前で良かったじゃねえか、なんて慰めのつもりで言ったら本気でキレられた。そう言う問題じゃないって。
 近頃は携帯の保険というものもあるので買い換えも少額で済む。ちょうど古い機種だったし、買い替え時だったんだろ。続いての慰めも十四のお気に召さなかったらしく、結局自宅に連れて帰るまで延々と泣きじゃくっていた。コイツが泣くのにはもう慣れたが、やっぱり好きな奴には笑っていてほしいっつーのが男心。雨よりも晴れの方がいいに決まってる。
「ほら、クッキー。お前の好きなチョコチップだぞ」
「ゔっ、ゔぇ……ぐじゅ……」
「紅茶、ミルクたっぷりだから、な」
「ぞ、ぞんなんでぇ……ご機嫌になるほどっ、ゔっ、子供じゃないぃ……」
 とか言ってめちゃくちゃ齧り付いてるじゃねぇか。泣きながらモグモグとクッキーを頬張る姿を見ていると、心のどこかがウズウズとしてくる。ああ、きっと愛しいってこういう瞬間に湧き出てくるんだと知る。
「連絡先はバンド関係ならSNSとかでどうにかなるんだろ? 俺と空却のは俺から送るし。まぁ、ゲームは諦めろ」
「ゲームはっ、えっぐ、引き継ぎのIDが、あるから……」
「じゃあ大丈夫じゃねえか。便利な世の中になったもんだなー」
 携帯電話の進化と共に育ってきた世代の俺からしたら、本当に今のガキは恵まれていると思う。携帯電話の出始めなんて、本当サイトに飛ぶのとか待たなければいけなかったし。今みたいに定額制じゃないから、友達と馬鹿みたいに通話して翌月の請求に目玉が飛び出たり。今はないけど某携帯会社から定額制の通話プランがある色とりどりの携帯が出たときなんか流行ったな。カップルで待っていたりした。あの頃に付き合ってたら、コイツとお揃いで持っていたんだろう……いや、その当時、十四は何歳だったのだろう。そう考えたら歳の差を改めて痛感して悲しくなってきたのでやめた。
「携帯とか、連絡先は……いいんすよぉ」
「じゃあ何がそんな不満なんだよ」
「……メッセージ」
「え?」
「獄さんとの、やりとり……消えちゃった」
「復元出来ねえの?」
「メッセと画像は無理っす……」
 ああ、それが泣いていた理由か。ようやく合点がいった。自分の事で泣いている。そう思うと急に嬉しさがこみ上げてきた。十四には申し訳ないが実感すればする程、頬が緩んでしまう。それを悟られないようにギュッと抱きしめてやる。この状態ならニヤけた顔も見られない。
「そんなの、俺の携帯にもあるよ」
「ゔっ、わがっでまずげど」
「画像も送る。二人のやつ全部」
「自分の……獄さんセレクションのフォルダ、なくなっちゃった……ゔっ、ゔぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「だぁ!耳元で泣き叫ぶなっ!」
 いきなり耳元でギャアギャア泣かれて耳がキーンとなる。なんだよ、獄さんセレクションって。さてはコイツ……隠し撮りしてたな?
「新しい携帯が来たら、好きなだけ撮っていいから」
「ほんと、ですか?」
「ああ、カッコよく頼む」
「獄さんはいつもかっこいいんで」
 本当、無自覚に可愛いことばかり言うのは罪である。上向きになった機嫌を、更に良くするために泣き虫小僧の唇にチュッと音を立ててキスをした。涙のしょっぱさにチョコチップクッキーの甘さ。なんでだろう、やけに甘さが際立っている。
 余談だが。
 どうやら十四は知らない間にクラウドサービスに登録していたようで、画像は新しい機種にちゃんと移動出来たみたいだ。
「おい、お前がこの前言ってた獄さんセレクション、見せてくれよ」
「だ、だめっす!」
「なんでだよ。俺の画像だろ? いいか、十四。肖像権というものがあってだな……」
「わ、分かったっすよぉ……」
 おずおずと差し出された携帯電話。「♡ひとやさん♡」なんてタイトルの小っ恥ずかしいフォルダを開くとそこには。
 涎を垂らして寝ている俺。
 風呂上がり、身体を拭いている俺(もちろん全裸である)
 酔っ払ってあられもない姿で潰れる俺。
 そして、俺の……大事な部分ドアップ。
「お、お前っ! 今すぐっ! 今すぐ消せっ!」
「だから見せたくなかったのにぃ!」
「バカガキッ! こんなの他の奴に見られたらどうすんだよっ!」
 泣いて抵抗する十四を振り切って消した。そして説教。もう二度と盗撮はしない。次発覚したら誓約書を書かせるぞと半ば脅すような形に十四は泣きながら頷く。
「……いつでも見れるだろうが」
 慰めのつもりで言ったら、肌身離さずにどんな俺も持っていたいなんて言われた。俺はお前が画面の中の「天国獄」に熱視線を向けるのすら嫌なんだよ。絶対に口にはしないけれど。
 ここだけの話。
 俺の携帯には「十四」というタイトルの画像フォルダがある。
 中身? それは誰にも言えねえなぁ。
こんな感じかな?
文字数を図ります
2045文字でした!書き直しもありオーバーしましたがお付き合い頂きありがとうございました!
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ひとじゅしワンライお題「携帯電話」
初公開日: 2020年04月19日
最終更新日: 2020年04月19日
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4/19のひとじゅしワンライに挑戦です。