足立さん争奪戦
薄いレースカーテンは風に揺られ、暖かい光がフローリングを照らしている。そんなお出かけ日和の中僕は子猫用のミルクを作っていた。
「にいぃ!」
「はいはい、今出してあげるからね」
僕が猫用の哺乳瓶を持ってゲージのそばに座ると、その奥で寝ていた黒い塊がのそりのそりとゆっくり歩いてくる。いつも扉を開けて、マガツが辿り着くまで待ってやるのだ。僕がさっさと手をいれて抱き上げた方が早いんだけど、頑張るところを見ていたい。
「よくできたねえ」
もっそもっそと外までやってきて、床に降り立った。そいつを抱き上げて、さあミルクをやろうかとすると、背中にどっしりとした重みが乗っかってきた。
「……どうしたの」
「ママァ……」
低い声でそう囁かれて鳥肌がたった。キトンブルーが可愛いこの子に言われるならまだしも、アラサー近くの男に言われるなら話は別だ。
「キモいよ晃汰くん」
「ひどいです。傷つきました」
くすん、と泣き真似をする彼を放ってマガツにミルクをやる。ちゅっちゅっと一生懸命飲んで、足をゆっくり動かしているのがとても可愛らしい。
「そろそろミルク卒業のために離乳食を食べさせなきゃねえ」
「歯が生えてきてますしね。足立さんのママ姿見納めですか……」
「見て楽しいの? それ」
「いえ、なんだか嬉しいなあって。足立さんがお世話してるところを見れるなんて思っていませんでしたから」
十年前の話をされると言葉が詰まってしまう。晃汰は分かってやっているのだろうか。まあ、僕の人間的成長を喜ぶのと、ママ呼びをするのは話が別だけども。そうこうしている内に哺乳瓶は空になってしまった。
「いっぱい食べたね」
晃汰が背後から手を伸ばして狭いおでこをゆっくりと撫でる。マガツは気持ちよさそうに目を細めた。お腹がいっぱいになったからか、そのままぷうぷうと寝息を立てている。
「足立さん、次は俺の番です」
ぱちん、とゲージの鍵をかけたところで晃汰が頰にキスをしてきた。床についていた手が腰を這って強く抱きしめられる。
「こら、まだ昼間だっての」
「二人がいれば時間なんて関係ないですよ」
もう少しで唇が触れる。その時だった。
「みゃあん」
ポトリ、と床を叩く音と同時にイザナギがやってきた。彼の前にはお気に入りのおもちゃが置いてある。僕も晃汰もポカン、と眺めていると僕の袖を噛んでくいくいと引っ張り始めた。
「あ、ちょ、伸びるって」
「次は俺の番だぞ、ってことか……」
晃汰はため息をついて腰に回していた手を離す。僕がおもちゃを持つとイザナギは満足そうになん! と一鳴きした。やっぱり似てるよ、君たち。
おしまい