奴の攻撃をいなした隙に、あいつの指示を受けた孔明とマーリンの援護がこの身にかかる。全身の筋肉に力が漲り、クラレントに込める魔力も増していく。溢れる魔力が赤雷となって剣に纏わりつき、ばちばちと爆ぜる音が鼓膜を揺らす。暴走さえしそうな魔力の高まりの中、精神を研ぎ澄ます。そして眼前の敵を見据えれば、奴の急所が見える。狙うべき場所がわかる。――さあ、これで最後。オレはその号令を待つ。
「モードレッド、これで最後!!」
わかりきった幼い指示に、今は反抗している時ではない。オレは足元からも魔力を放出させて地を蹴り、一瞬で奴の懐に飛び込む。そして、強化された身体と魔力をその身に全力で打ち付ける。
「そこで寝ていろ、永遠にな!!」
とどめの一撃を浴びせれば、そいつは断末魔の声もなく、金色の粒子となって消えていく。ただひとつ、満足したような安らかな笑みを残して。
そしてオレの背後からは、苛つくほどに呑気な歓声が聞こえてくるのだった。
*
「良かった良かった! 一時はどうなるかと思ったけど、モードレッドがいてくれて本当に良かったよ~!」
カルデアへの帰還後、先ほどの呑気な歓声の持ち主――マスターはそれはそれは機嫌が良かった。いや、こいつが機嫌を悪くしているところはまだ見たことがないが。長引いた一戦で魔力を枯渇させ、巻き上がり続けた土埃で顔を汚しながらも、にこにこと満足そうだった。手には伝承結晶という、高純度の魔力結晶を携えて。これが欲しいが故に一度修復を終えた微小特異点に足を運んだのだという。だがそれは非常に希少なもので、当然そういった物は力のあるサーヴァントーーかつ、こいつがレイシフト先で縁を結んだサーヴァントがこいつの力を試すために守っていて、勝てば渡してくれるらしい。希少なものである上に、それぞれのサーヴァントも矜持があるものだから、一度縁を結んだといっても遠慮する奴はいない。だからこそ持てる限りの戦力で挑まなければならないのだとこいつが話していた。
「当然だろ。オレを使っといて勝てなかったらポンコツだ。いやそうでなくてもお前はポンコツだが」
「相変わらず手厳しい!」
「マスター、今回も例のやつ、あるよな? な?」
「もちろん! レイシフト前に厨房組に伝えておいたけど、もう準備できてるかなあ」
「それはいい。私は人間の食事を必要としないけれど、宴の席は実に良い。特に祝宴の席となれば最高だ」
「例のやつ?」
孔明とマーリンが楽しげに語り始めたが、オレにはピンとこなかった。それに気付いたマスターが、汚れた顔のままにっこりとこちらに笑顔を向ける。
「そうそう! モードレッドには言ってなかったね。カルデアでは伝承結晶とか聖杯を手に入れたあとはみんなでパーティやるんだよ。大変な戦いをした証拠だからね」
「はあ? パーティ?」
人理を守るための戦いをしているのに、何を呑気な。そんな感想しか出てこなかった。こいつらの口ぶりだと、きっとサーヴァントも総出で馬鹿騒ぎでもするんだろう。英霊ともあろう存在が、そんな下らないことに時間を割いているとは。思わずため息をつきそうになった。
しかし――遥か遠い昔、オレが円卓の騎士と呼ばれていた頃。確かにその時も、戦に勝った後の馬鹿騒ぎはあったか。兜を外せないオレはその中に混じったことはなかったが、普段の血縁関係やしがらみ全てを忘れて騒ぐ奴らは、確かに楽しげではあった。時代と場所が変われど、変わらないものはあるのだと実感する。今は兜を被り続ける必要はないが、とはいえ宴に参加する必要だってない。仲良しこよしをするために召喚に応じたわけではないのだ。
「下らね。オレは部屋に戻――」
る、と言おうとしたところで、後ろから二の腕にかかる力があった。思わずオレは足を止めて、右後ろを振り返る。マスターが唇を尖らせて、オレの袖を掴んでいた。
「だめだよ」
「は? なんだよお前――」
「いつものクエストならともかく、今日は絶対モードレッドも参加して。モードレッドがいなければ勝てない戦いだったんだから!」
「どうだっていいだろそんなこと!」
「どうでもよくない! 一番頑張った人がいないなんて意味ないから! せっかく美味しいもの用意して待ってくれてるみんなに、モードレッドがどれだけ頑張ってくれたかどれだけかっこいいか話すんだから――!!」
マジかこいつ、こんな意地を張ることあるのか! 幼い子どものように駄々をこねるマスターにオレは絶句した。いや確かに、頑固な奴だと思うことはあった。でもまさかこんな、人理に何も関係のないところでまで発揮されるのかよ!
最初は見ていた孔明とマーリンは、いつの間にか遠い後ろ姿になっていた。あいつらすぐに興味なくしやがったな! 他の奴らが通りかかっても笑うばかりで誰も助けてくれやしない。袖を掴むマスターの手をなんとか振り払ったと思ったら、今度は後頭部から後ろに引っ張られる。なんだよその意地。その頑固さ。なんだよその――!
「髪を引っ張るな、ガキかてめーは!!」
魔術師ともマスターとも、人理を背負う存在とも見えないような子どもっぽさは!!
「わかったわかった、行けばいいんだろ行けば!!」
オレが折れてそう言えば、ぱっとオレの髪を解放してこいつは嬉しそうに笑う。
「良かったー!」
「てめーの分まで全部食ってやるからな、オレを参加させたこと後悔させてやる」
「いいよ!」
オレの憎まれ口にも気を留めない。それどころかオレが参加すると折れたことを、心の底から喜ぶように。
「髪、引っ張っちゃってごめんね。痛かった?」
「そう思うならやるんじゃねェよ……」
廊下にふたつの足音が、再び響き始める。オレはなんて奴のところに呼ばれてしまったんだと、隣にいる奴に聞こえるようにため息をついたが、気付いているのかいないのか――マスターはただ、にこにこと楽しげに笑うだけだった。
完成です。ありがとうございました~~!!!