「……ってことがあったんだけどサ」
久しぶりに夢ノ咲学院に登校してきた休み時間。廊下ですれ違った逆先夏目にみかは先日あったというES横断企画の話を聞かされたていた。ESが出来てからというもの、夢ノ咲学院に登校する頻度自体が少なくなっていたため、夏目と会うのはひどく久しぶりだった。おそらく、夏目も同じことを考えていたのだろう。お久しぶりだね、と切り出し始めて、少しES全体の話を踏まえて雑談をしていたら、彼が参加したというデートプラン考案の話になっていた。
「子猫ちゃんの采配も、まあ悪くはなかったネ。何より、羽風先輩がいたことで事は順調に運んだ。時々予想外もしないことはあったけれども、まあ何とか、この企画は無事成功を収めたよ。だけど、何だか今後も色々起こりそうだな、と思ったし、折角だから君にも情報共有しておくネ」
「んあ、何かESも随分な舵取りをするんやねえ。まさかシャッフルユニットを組ませるなんてことをしとるなんて」
「ミカ君も次どこのユニットの誰と組むことになるのかわからないから、覚悟しといたほうがいいんじゃない」
「んん、あんまり気が進まんけどねえ」
廊下で始まった井戸端会議で、そんな話をされて、みかは考えあぐねる。
元々、Valkyrieは少数精鋭のユニットだ。これまでだって、宗がユニットを設立して以来、人数は多くてもなずなを含めた三人だった。かつてみかが単独で出演したsaga計画の臨時ユニットBa-barrierだって、補佐役はいたものの三人での活動が主であった。だが、夏目の話ではそのシャッフルユニットはおそらく各事務所から最低一人は抜擢されることになるであろうし、そうなると人数は四人以上にはなると考えられる。そんな大所帯で、果たして自分はやっていけるのだろうか。仮に、何かしようと思っても、宗なしにそのようなところに放り込まれたら、面子によっては何も貢献できないまま終わってしまうのではないか。横断企画の内容よりも、そちらの方が心配だった。
「何はともあれ、案ずるより産むがやすし、のこともある。いざ飛び込んでいったら、あれこれと考えているうちに何とか形になるものだと思うけれどもネ」
夏目はそんな風に纏めて嘆息した。相性も分からない他のメンバーと突然ユニットを組まされて、そう言い切れる彼を、ある意味みかは尊敬する。自分が彼の立場だったら、どう振る舞うことができただろう。正直、悩みの種が一つ増えた。そんな気分だった。
「ところで、宗にいさんは元気?」
「んあ?」
突然変わった話題に、みかは沈鬱な面持ちから顔をあげる。彼の名前が出たことで、咄嗟にこれまでの考えが吹き飛ぶ。笑顔になって夏目を見返すと、少し苦笑いで出迎えられてしまった。
「おん。昨日のお昼も電話かけてきてくれたんよ。なんやちょっと疲れてそうな声やったんやけど、おれが夕飯の支度の実況、っていうん? 料理しながら話してたら、あれこれと味付けについて事細かに教えてくれてな。それで元気になってん」
みかは昨晩、宗とした会話を思い出す。夕飯の支度中に掛かって来た電話に関して、ちょっと今手が離せなくて、というと宗に切られてしまいそうだったために、慌ててそのまま聞いていてくれないか、と付け加え、スピーカーモードで会話を続行した。まな板を包丁で叩いている音を聞くのは新鮮だ、とか、味付けが物足りないならば塩を多めに入れるといいなどと言った雑談やアドバイスが飛び交っていただけだったのに、何だかそれを聞いていると妙に安心できて、すぐ側で宗が自分の手つきを見守ってくれているような気分になれたものだ。
「ああ、宗にいさん、向こうじゃあ誰に指示を出すこともできずにいて退屈なのかもしれないネ。運がいいのか悪いのか、ミカ君その発散の相手になってあげたわけだネ」
「発散、というか。おれも楽しかったからええねんけども。やっぱり一人暮らしは寂しいしなあ。自然と会話する機会も減るって、おれらお互いに連絡取り合って安心しあってる、みたいなところあるわ」
ここ数日間の自室でのことを思い返してみると、時差が許す限り宗に電話をかけていることに気づく。宗はそのたびに毎回、機嫌よく答えてくれてはいるのだが、こんなに頻繁に電話をかけていて鬱陶しく思われないだろうか、などと思わないことはない。なるべく、宗に負担を掛けていなければよいのだが、と話すと、目の前で夏目がふっと微かに息を漏らした。
「君たち、まるで家に居てもデートしてるみたいだネ」
「んあ!? こんなん普通やないの?」
「君たちにとってはそうなのかもしれないけど、相手の都合を考えたり、何でもない音に安心したり、ってそれはもうお家デートの域だと思うヨ」
おうちでえと、とみかはしどろもどろになりながら、夏目のいう事を反芻する。
「デートプランなんて、考えるまでもなく君たちは常に一緒にいる、ってことだネ」
羨ましいねえ、と両手をひらひらあげて、夏目は冷やかす。
「ほ、ほんとうに、そんなつもりはないで! 参考にせんといてよ!?」
「大丈夫、もう企画は終わってるからサ。君こそ、そんな宗にいさんにしか通じないようなデートプランは、企画で答えちゃだめだヨ」
わかっとる、わかっとるよ、と内心穏やかではなく夏目に返事すると、目の前の魔法使いは不敵な笑みを浮かべて去っていくのだった。
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ヴァ版ワンライ治療室
初公開日: 2020年04月18日
最終更新日: 2020年04月18日
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コメント
テーマ:デートプラン
(多分宗みかになると思われます)