目が覚めたのは、体が重かったから。うまく寝返りが打てなくて、寝づらかった。なんだろう、と思いまぶたを押し上げて目を開くと、目の前にはまだ目を閉じたフィガロ先生が眠っていた。ちらりとシーツの中の自分の体を見下ろすとフィガロ先生の腕がお腹にまわっていた。この腕が重かったんだ、と気づいて、なんとかその腕を持ち上げて退かせようとするのに、一度退かせてもすぐにフィガロ先生はまた僕のお腹に腕をまわす。トイレに行きたいわけでもないし、何か急ぎの用事があるわけでもない。ちょっと重たいけど、あったかいしいいか、と諦める。
じっとフィガロ先生の顔を見つめてみる。昨日はなんだか恥ずかしさから顔が見られなかったけど、眠っているところならフィガロ先生の顔をじっと見られる。身近だと兄様なんかはまつげが長くてバッサバサなんだけど、フィガロ先生って、そんなにまつげ長くないんだ。こういうのを男らしい顔立ちっていうのかな。少し小ぶりな鼻をつまんでも全然起きない。
「本当に寝てるんですか?」
小さい声で、ひそひそ話するみたいに声をかけても、何の返事もなかった。
じゃあ、と思ってフィガロ先生の髪を触る。僕よりずっと背が高いフィガロ先生の髪に触れることなんてないから、何だか新鮮。
「わあ……ふわふわ」
少しクセのある髪は優しく触れるとふわふわと手触りがいい。ずっと触っていたいなと思ってふわふわの髪を堪能していたけど、だんだん腕が疲れてきた。
「疲れた……」
もっと触りたいけど、もう腕が疲れてしまったから、また今度触ろうと腕を下ろす。
「……撫でられるって気持ちいいね」
急に声が聞こえてびっくりしてフィガロ先生を見上げる。
さっきまで眠っているように目を閉じていたはずのフィガロ先生は、にやにやと笑っていた。
「起きてたんですか!?」
「今起きたんだよ」
僕のお腹にまわっていた腕をどかせてフィガロ先生が起き上がる。ぐーっと背伸びする背中に、少し傷があった。変なところ怪我してる。
「フィガロ先生、背中怪我してますよ」
掌で引っ掻き傷みたいな跡をなぞると、先生は自分では見られないからなぁとまた笑っていた。きっとお風呂入る時に痛いだろうな。
「魔法で治しますか?」
「いや、これはこのままにしといて。男の勲章ってやつだからさ」
勲章?と首を傾げていたら、フィガロ先生はいつか分かるよって言っていた。きっとまだ知らないことの方が多いから、いつかフィガロ先生の言ってることわかるようになるんだろうな。
「ミチル、喉乾いたでしょう。まだ朝食にははやいし、ココア飲まない?」
「あ、欲しいです!」
手伝おうとベッドから降りようと足を下ろして、床に立った瞬間に、腰から崩れ落ちた。痛いわけでもないのに、立てない。思わずフィガロ先生に視線を向けると、二人分のマグカップを持って笑いながらベッドのそばまで歩いて戻ってきた。ベッドサイドにココアを置くと、よいしょ、と言いながら僕を抱き起こしてベッドに座らせてくれた。
「うーん、腰砕けにしちゃったかな」
さすがにこの意味はわかった僕は真っ赤になって、ただココアを飲んでいた。だって、初めてだったから。フィガロ先生の小さいわけじゃないアレをア、アソコに受け入れるんだから、腰が立たなくたって当たり前だし、仕方ないと思う。なのにまだフィガロ先生は笑ってる。
「朝食の時間が近くなったら治してあげる。それまでは、この感覚を楽しんでよ」
「痛いわけじゃないのに立てないって、変な感じです」
ちょっとぶすくれて言うと、フィガロ先生は少し膨らんだ僕のほっぺたを人差し指で突っつく。
「ふふ、そうかもしれないけどさ、この感覚って、慣れてきちゃったら多分なくなるし」
フィガロ先生は自分がこうなってるわけじゃないから笑ってられるんだ。ココアをベッドサイドに置いて、ごろりとベッドに寝転がる。目を閉じると、すぐに眠気がやってくる。うとうとしている僕の髪を、フィガロ先生が撫でてくれる。
「ねえミチル、また撫でてよ」
「……また、僕が先に起きたら、いいですよ」
半分寝ながら答えると、フィガロ先生が嬉しそうに笑った気がした。
おわり!