※ワンライなので1時間で終わります
お題:ツバメ
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桜の花も散り始め、枝に緑が付き始めた頃。
鳳瑛二は今年に入って初めてツバメを見た。
もうそんな時期か、と季節の速さを実感する。
ついこの間、年が明けたかと思ったらあっという間に暖かくなり、桜の見頃を迎え、今はもう新緑の季節になろうとしている。
今年もあっという間に過ぎてしまいそうな気がした。
瑛二が見たツバメは低く飛んでいた。
(そういえばツバメが低く飛んだ日は雨が降るっていうよなあ)
と昔聞いた話を思い出す。あれは誰に言われたんだっけっか?兄さんだっけ…?
そんなことをぼんやりと考えながらツバメを目で追うと、ツバメは巣に戻るところだった。
5羽ほどの雛に順番に餌を与える親鳥。
その様子を眺めていると何だか巣のにぎやかさが自分の住んでいる家を思い出させて、つい頬が緩む。
「そうだ、早く帰らなきゃ」
自分がおつかいを頼まれていたことをすっかり忘れていた瑛二は荷物を抱えて急ぎ足で自宅へと向かったのだった。
「ただいま」
少し息を弾ませながら帰宅した旨を知らせると、珍しい人物がエプロン姿で現れた。
「おかえり、えーじちゃん。どないしたん、そんなに慌てて」
桐生院ヴァンだ。彼がキッチンに立つのは割と珍しく、しかも自身のメンバーカラーであるオレンジ色のエプロンまできっちりと着用している。
汗拭きや?と差し出されたタオルを素直に受け取り、額を拭う。思わずふう、と一息もれた。
「ツバメを見ていたんだ」
瑛二はキッチンへと戻っていったヴァンを追いかけるように歩みを進めた。
ツバメ?と返事がくる。
「そう、ツバメ。何だか懐かしくてうっかり見入っちゃって」
あはは、と自ら手に頭を当てて苦笑する。
「だから急いで帰ってきたんか。そないに急がんくてもよかったんに。おおきにな、えーじちゃん」
ヴァンは瑛二の頭に手を乗せる。
瑛二はヴァンのその行動に何だかくすぐったい気持ちを覚えて、また頬を緩ませた。
「そういえば」
瑛二が購入してきたものを確認していたヴァンがふと何かを思い出したように切り出す。
「えーじちゃんはツバメの『鳥言葉』って知ってる?」
瑛二はヴァンの言葉に目を数回パチパチさせた後、首を横に傾げる。
「鳥言葉?」
花言葉ならよく耳にすることがあるが、鳥言葉とは初耳だ。
「せや。花言葉と同じで鳥にも『鳥言葉』っちゅうもんがあるんや」
瑛二はへえ、と感嘆の声を漏らす。
「ちなみにツバメの鳥言葉は何?」
興味を持った瑛二の瞳は好奇心で煌いていた。
「ツバメの鳥言葉は『幸福の予感』や」
ヴァンはお得意のウインクと共に答える。
「幸福の予感…」
瑛二はヴァンから聞いた言葉をそのまま繰り返した。
「せや。と言うことでこの汗ばむ陽気の中、頑張っておつかいしてくれたえーじちゃんにええもんがあるで!」
突然の話題の切り替わり方に瑛二は驚いた。
どうしてツバメの鳥言葉からそこに繋がるんだろうと頭の中に疑問符を浮かべる。
「じゃーん!どや!」
冷蔵庫からヴァンが得意げに取り出したのはカップに入った水羊羹であった。
「水羊羹?どうしたのそれ」
瑛二はヴァンのテンションに未だに若干呆気にとられながら問う。
「こないだのロケでいただいてん。食べよう思ってたんやけど、見つかると面倒なことになるやろ…」
テンション高く話し始めたヴァンが最後のほうになると消え入るような声になっていったのが瑛二には面白くて、くすりと笑う。
「でもヴァンが貰ってきたんでしょ?悪いから俺はいいよ」
瑛二がそう言うとヴァンは大丈夫やと即答した。
「大丈夫やで、えーじちゃん。2つある!!!」
先ほどの消え入る声は何処へやら。
じゃーんという効果音が聞こえてきそうな勢いで水羊羹をもうひとつ冷蔵庫から取り出し、再度テンション高く宣言するヴァン。
「…じゃあひとついただこうかな。ありがとう、ヴァン」
瑛二がそう告げると、待ってました!とでも言うかのようにヴァンが水羊羹とスプーンを瑛二に手渡した。
キッチンで立ちながら水羊羹を食すという他のメンバーに見つかったらきっと怒られるであろうスタイルで水羊羹に匙を入れる。
暑くなってきたこの時期に冷たくて喉越しの良い水羊羹は素敵なご褒美だった。
「…みんなには内緒やで?」
水羊羹とスプーンを握りながら一口頬張った水羊羹の余韻に浸っていると、急に意地悪な表情でにししと笑いながらヴァンがそう告げる。それを受けて瑛二も同じ表情で勿論と返したのだった。
「そういえば、どうしてツバメの話から水羊羹になったんだっけ?」
二人だけの秘密のおやつが終わった後、ヴァンの手伝いをしながらふと話の流れを振り返る。
「ツバメの鳥言葉からやろ?」
ヴァンが少し離れたところからそう告げると、瑛二の脳内に二人の会話が再生された。
そうだった、鳥言葉からだ。そう瑛二が独り言のように呟く。
「ツバメの鳥言葉は『幸福の予感』や。…幸福来たやろ?」
ヴァンがまるで悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべながら瑛二に問う。
「そうだね」
瑛二は先ほどの二人だけの秘密のおやつを思い出しながら、ヴァンの言葉を肯定するのであった。
終
おまけ
「あ、そうだ。明日の天気予報はっと…」
スマートフォンで確認したところ明日の天気は雨だった。