「ねえ、葵!」
「………何、」
「ちょっと待って、なんで頼む前からそんなに嫌そうなの?!」
最近すこし明るい色になった髪を軽くかいて、葵はため息をつく。周りの他の友人たちの、我慢しきれない笑い声も息になって漏れていた。
「お前、中学から知り合いだからってオレにばっかり変な頼み事してくるだろ。ロクなことねえってわかってんだよ」
「え、そんなに? 記憶にないんだけど……」
「ねえのも腹立つ……」
「まあまあ! ちょっと、今日はほんとに大事な日だからさー!」
両手を合わせて頼みこめば、葵は渋々と言った顔で頼みを聞いてくれた。掃除当番の交代ぐらい、もっと軽い調子で聞いてくれたらいいのに。
「部活は?」
「今日は一か月前から休み貰ってますぅ」
「察してやんなよ古川。瑠璃、今日はタケルくんなんだから」
「はーん……好きな男に会うために一刻も早く家に帰りたいと」
「その通り! タケルに会えるのなんか、今日と夏休みぐらいなんだから。部活終わりのぐちゃぐちゃな顔見せるわけにはいかないの!」
本当は先月楽屋で会ったけど、企業秘密だし、あんまり会話もできないし。疲れてるところに喋りかけても申し訳ないしで、ちゃんと会えるのはほぼ半年ぶりだった。
「たくさんお祝いしてもらって、いちゃついてきなね!」
「任せて。今日は絶対言質とる」
「怖いわ!」
目が本気すぎ、と冗談交じりで注意されたが、実際本気だし、今日が勝負なのは間違いないのだ。
皆がお気に入りの親戚と遊ぶような感覚で私とタケルのことを話すのは、年齢差を考えれば仕方がない。けれど、じゃあ恋って年齢差でするものなのかと言ったら私はそうではないと思う。一目惚れは理屈じゃないって、誰よりも私がよく知っている。
「じゃ、また来週ね!」
「おー!」
「瑠璃おまえ、ちゃんとコーラ奢れよ!」
「わかってるって! ありがと!」
年の離れた妹のような優しさを向けられ続けてきた。華やかで、それこそ私なんかじゃ絶対手が届かないぐらい綺麗な人たちがいっぱいいる世界で二十年近く生きてきてるのだ。対象に見られないことなんか当たり前だ。
それでも、今日まで彼は独身だった。なんの噂も、二人から聞かなかった。スタートラインに立てたのだ。これまで、意図せずでも彼は待っててくれた。
ならばもう、逃げ道なんかつくらせない。そう、決めていた。
「――よし、」
気合を入れ直して、ローファーを履いて学校を出る。マフラーに顔を埋めなくても、刺すような冷気は気にならなかった。あと数時間もすれば、世界で一番大好きな人に会えるから。
今日は、数日遅れの誕生日パーティー。父と同じユニットメンバーの、大河タケルとの合同開催。五日違いなものだから、私が生まれてからはずっと一緒に祝ってもらっている。変わらない習慣のようで、今年はひと味違う。
私――円城寺瑠璃は、十六歳になった。
合法で、結婚だって申し込めるのだ。
「