帝都騎殺版ワンドロライ
ぼく/立ち止まる/あいたい
龍馬が自分のことを、「ぼく」と言う声が好きではない。
なにが「ぼく」だと。
すましている、わやにすな、と声を大にして言いたい。
そんな、表面に一枚貼られた布越しにこちらを探るような声を出されたって、はいそうですかと受け入れられるはずがない。
幼馴染だからって、昔馴染だからって、何でもかんでも話が通じると思ったら大間違いだ。
それなのに、どこか悲しそうにこちらを見るのはやめろ。
「いぞうさん」なんて弱々しい声で呼んで、哀れっぽく眉を下げるな。
そんなにわしに受け入れて欲しいのなら、せめて国の言葉にせい。余所の土地の言葉なんぞで伝わると思うな。
ああもう、嫌になる。
「いぞうさん、ありがとう。わしいぞうさんのことすきながよ」なんて、そんな目で見ながら言うな。
勘違いしそうになる。
ぼくは以蔵さんが、僕を呼ぶ声が好きだ。
たとえ、その表情に隠しきれない不快感が表れていても。
それでも、全くの無関心よりは百倍はいい。
本当に心から僕のことを鬱陶しく思っていたとして、それを隠さずにぶつけてきてくれる以蔵さんの真っ直ぐなところが愛おしい。
憎い、憎しみで塗れた相手を不快に思いながらも相対してくれる。いつものように態度で、時々心底嫌そうな顔で。
それが嬉しいんだとお竜さんに言えば、『ニンゲンはよくわからん……が、リョーマがいいなら、それでいい』と呆れながらも抱きしめてくれた。
そう、それでいいんだ。
ここで再び会えたから。
長い長いときの中で、いつかまた会えたならと願った相手だから。
たとえ、以蔵さんが僕にもう会いたくないと思っていたとしても。
ここにいる間は、彼のそばにいたい。
どんな表情も、ひとときも逃さないように。
「以蔵さん」
「……なんじゃあ」
「そんなに警戒しなくても」
「いっつも言うとるじゃろ、おまんの笑顔は怪しいし……何ぞ企んどる顔じゃ、ち」
「やだなぁもう」
そんなことないよ、と丸腰であることを示すように、龍馬は両手を胸の前でひらひら動かした。
以蔵は、笑みを浮かべたままの龍馬を睨んでから、舌打ちをして話を促す。
「ほいで……なんじゃあ、すっと言え」
「うん、あのね、いいお酒が手に入ったから一緒にどうかなって」
「……」
「エミヤくんが都合してくれてね、『きみたちの故郷の味だろうから』って」
そう言う龍馬の背後で浮かぶお竜が腕の中に抱えているのがそうなのだろう。眠そうにあくびをしながら、一升瓶とともに蛙の入ったカゴをしっかりと腕の中に抱き込んでいる。
「明日は特にレイシフトとか、種火集めとか呼ばれてないって聞いたし……どう?」
「……」
どう、とは何だ。
そもそも以蔵のスケジュールを知っているということは、マスターから聞いたのだろう。どうせうまいこと言いくるめて聞き出したに違いない。そうして周りから地盤を固めて追い込む。こいつのいつものやり口だ。
「ああそうそう、もし来られるなら、おつまみも用意してくれるって言ってたよ。なんだっけ? あの……以蔵さんの好きな、揚げ出しとか、寄せ湯葉とか。いいお塩もあるんだ。この前ドレイク船長に分けてもらって──」
以蔵が黙っていても、龍馬は誘いの言葉を止めない。
むしろどう籠絡しようか考えているのかもしれない。
以蔵の好きな酒。つまみ。話題。
どれも魅力的である。
だが、すぐに頷いて誘いに乗るのはいただけない。とても癪である。
多少昔のあれこれは和解したとして、のこのことついていくと思われたらたまったものではない。以蔵は一筋縄ではいかない男なのだと龍馬に知らしめないといけない。
そうしないと、以蔵は龍馬を好ましく思っているのだとバレてしまう。
本当は仲良くしたいのだと知られてしまう。
それは少しだけ……ほんの少しだけ、嫌なのだ。
「──ね、いぞうさん……聞いてる?」
「おん」
「じゃあ、僕の部屋で……」
「いやじゃ」
「えっ」
「前も言うたじゃろう、……国ん言葉使えち」
「──あ」
龍馬は一瞬、うろたえたように表情を変え、しかしすぐに戻してへにゃりと笑った。
「いぞおさん、お願いやき、わしんくきとおせ」
「……」
「な? えいろ?」
「……」
「いぞうさん……あかん? にゃあ、どうしてもだめち言うなら、いつならえい? わし、いぞうさんとまけまけいっぱい呑みたいながよ」
にゃあ、と猫なで声を出すその姿。
末っ子の甘ったれ。
なきみそ。
ありったけの罵声を心の中で投げつけて、以蔵も相好を崩す。
「……ふ、しゃあないのお、甘ったれの言うこと聞いちゃろうかの」
「いぞーさん!」
おあ、と変な声が漏れた。廊下だというのに龍馬が抱きついてきたからだ。
「おま、なにしゆう……」
「嬉しゅうて我慢できんかったよ」
「…………あほ」
「ひどいなあ」
はは、と目を細める龍馬は、いつものよそ行きの顔ではない。
以蔵はそれに満足して、しかしそれを相手には見せないようにして、ふたりゆるりと、龍馬の部屋へと足を運ぶ。
珍しくおとなしくふたりのやり取りを聞いていたらしいお竜に視線を投げると、ぱちりと目が合った。
「なんじゃあ」
「……いや、ニンゲンはよくわからんと思っていただけだ」
「ほおん」
それからお竜は、カゴの蓋をちょいっとずらして、カエルを一匹手にとった。それを丸呑みする姿はまだ慣れない。見ないように視線を逸らしながら、以蔵は隣で何やら話を続ける龍馬の横顔を見る。
凛とした顔立ち。幼い頃の面影がほんの少し残る眼差し。
その視界の中に、いられる日々。
いつまでか分からない、消えてゆく泡の中の夢のような日々。
その中で、昔叶えられなかった願いが報われるときは来るのだろうか。
ちっとも分からない、けれど、こんな時間は悪くない。
戦いの中の、こんな穏やかな日を過ごすことは、何物にも替え難い。
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ワンドロライ書いてたよ(4/11)
初公開日: 2020年04月11日
最終更新日: 2020年04月11日
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コメント
試しにワンドロライ書きます お試しなので音声なしで
4/18帝都騎殺ワンドロライ
ワンドロライのやつをぐだぐだ書く
つゆくさ
筋トレ
アヤカさんはミモザがこぼれるように咲く頃、動物園のペンギンの檻の前で懐かしいおもかげを見た話をしてく…
瀬をはやみ