ビュン! ダン! ビュン! ダン! とキャロットちゃんは飛んでは跳ねてを繰り返して、ぐんぐんと登っていく。
あっという間に最上部まで登りきる。こんなにすぐに登れるなら、最初からこうやって連れてきてくれたらよかったのに。
階段も残るは数えるほどというところで、キャロットちゃんは私を下ろす。
「最後くらいは自分の足で登るのじゃ」
私はキャロットちゃんに言われるがまま、階段を登る。塔の天井には扉がひとつ付いていた。私はそれを開けようとするけれど、手で押すだけじゃビクともしない。重い。
私は一度キャロットちゃんを見る。キャロットちゃんはニッと笑うだけでなにも言わない。だから、今度は身体全体を使って扉を押し上げる。
ギッと音がして、ゆっくりと扉が持ち上がっていく。
「うおおお」
唸り声を上げて、最後のひと押し。重さが消えて、ガン! と扉が天井――屋上の床に激突する。開けたらどうなるかとか多分全然考えずに作ったのだろう。
一気に光が差し込んできて、一瞬なにも見えなくなる。塔の中は明り取りが少しあるくらいだったから、目がびっくりしてる。
目が光に慣れてから、私は扉から顔だけを出す。屋上には天井も手すりもなにもなかった。ただ、空があるだけ。見渡す限り空しかない。どれだけ高いのだろう。
私はゆっくりと四つん這いで屋上に這い出る。立つ勇気はなかった。だって、落ちたら絶対死ぬ。
私が出ると、それに続いてキャロットちゃんが平気な顔で出てくる。当然、立っている。
「んー。風が心地良いのー」
いや、全然。むしろ風が怖い。びゅうびゅうとずっと風が吹いている。立ったら絶対煽られる。
「タドコロも立つのじゃ」
「無理」
「大丈夫なのじゃ。落ちたら助けるのじゃ」
たしかにキャロットちゃんなら落ちても助けてくれるだろうし、着地も余裕で決めると思う。だけど、出来れば落ちる前に助けて欲しい。
「ほれほれ」
キャロットちゃんに言われるがまま、私はゆっくりと立ち上がる。少しずつ腰を上げて、手を床から離す。完全に腰が引けているけれど、私はなんとか立ち上がる。だけど、怖くて床しか見てない。前を向くことが出来ない。
「ほら。ちゃんと周りを見るのじゃ」
キャロットちゃんが私の前に来て言う。床だけの視界にキャロットちゃんの足が追加される。
「……空しかないから見ない」
見たところでどうせ空しかない。お空綺麗するために登ってきたわけじゃない。情報が増えないのなら見る必要もない。
「他にも見えるぞ。ほれ、おぬしが落ちた大滝もよく見えるのじゃ」
「ほんと?」
「本当じゃ」
キャロットちゃんは多分、嘘はつかないだろう。地形が見えるのなら見たほうがいい。だけど、やっぱり怖い。
「キャロットちゃん。手、握ってもいい?」
「良いぞ」
「ありがと」
私はキャロットちゃんの小さな手をぎゅっと握って、それからゆっくりと前を見る。正面にはキャロットちゃんの可愛い顔。金色のツインテールが風で棚引いている。
「大滝は後ろなのじゃ」
「振り返れない」
「しかたがないの」
キャロットちゃんはゆっくりと私の周りを回る。手は握ったままだ。それに合わして私も回る。すり足で、足が床から離れないように、私は足元から目を離さない。
「ほれ。もう良いのじゃ」
キャロットちゃんの言葉で私はまた前を向く。キャロットちゃんが少しだけ脇に逸れる。
私の目に飛び込んできたのは大パノラマ。
「わぁ……」
一番遠くに小さく滝が見える。そこから川沿いに森が広がっていて、森を抜けるとお城まではずっと草原。その光景が全部眼下に見える。
「すごい綺麗……」
語彙力。
「やばいじゃろ?」
自慢気にキャロットちゃんは言う。私はそれに思わず笑ってしまう。
「うん。めっちゃやばい」
だけど、たしかにギャルならこっちのほうがいい。
ぶそあさん終わってる……