なんで名前を言ったのだろう。誰も聞いていない。ていうか、フィッシュ・ビーフオアチキンってどんな名前なの。この世界はキャロットちゃんといい名前が食べ物縛りなのだろうか。いや、マーマさんは違うか。でも、マーマさんはキャロットちゃんがめっちゃ適当につけただけだからこの世界の名前ルールと違っているかも。ほら、元の世界でも犬とか猫にマロンちゃんとかつけたりするし。人間に栗とかまあつけないしね。それとは逆にここでは人間が食べ物名前つけるのがわりとポピュラーなのかも知れない。多分、ここでもキャロットは人参で、フィッシュは魚だと思う。それが私の頭がそう認識しているだけだとしても、私が人参のつもりでキャロットと言ったら、それはキャロットちゃんにも多分人参としてのキャロットとして伝わるはずだ。根拠はない。まだこの世界に来て、人参に出会っていない。ひょっとして人参ないのだろうか。いや、野菜スープに入ってた気もするけど、あれは人参に似たなにか別の野菜かも知れない。じゃあ、ひょっとしてこの世界には人参はないのだろうか。じゃあ魚もいない? 魚はまだこの世界に来て一度も見ていないと思う。え、魚いないの? マジで? お寿司ないのかな? あ、お寿司食べたいな。仮に魚が居たとしてもお寿司はないか。大体、『スシ。聞いたことがあるのじゃ。遥か東の国で食べられている料理らしいのじゃ』とか言うに決まっている。なんで、異世界でも寿司は東にあるのかは謎。東には大体東洋の神秘的な国がある。黄金の国的なやつ。まあいいや。どうでもよかった。そんなこと。
「キャロットちゃん。人参って知ってる?」
「知ってるのじゃ」
「人参ってキャロットとも言うよね?」
「言うのじゃ」
 やっぱりそうじゃん。キャロットちゃんは人参ちゃんじゃん。ということは魚も多分いる。お寿司はまあいいや。じゃあ、大滝から続く川にも魚いるのかな。釣りとかしないのだろうか。私はしたことないけど。でも、まあ無理だな。だって、多分餌が虫だろうし。虫とか触れないし。マジムリだし。あ、網でなら行けるかも。キャロットちゃんなら水面を思いっきりぶん殴れば衝撃で魚が気絶して浮いてくるとかそういうのもできそう。そうしたら魚捕り放題じゃん。あ、でもやっぱ無理かも。私、魚ってまともに触ったことない。ぬるっとしてるのがキモい。手の中でビチビチと暴れられたらと考えるだけで背筋がゾゾっとする。キャロットちゃんとマーマさんに捕まえてもらって、さらに捌いてももらって、私はそれを美味しくいただこう。うん。それがいい。
「マーマさん。今日、お魚食べたい」
「いいぞ。だけど、捕りに行かないとない」
「魚か。良いの。じゃあ今から捕りに行くのじゃ」
 お。やった。家でも魚ってあんまり食べなかったし、楽しみ。ひょっと川魚って食べたことないかも?
「わたしくの名前はフィッシュ・ビーフオアチキンですわ!」
 ぷるぷると震えながらフィッシュ・ビーフオアチキンちゃんは泣きそうな声でもう一度言った。 
 あ、すっかり忘れてた。ごめんなさい。
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