なんとなくここ数日寒い日が続いていた。膝掛けをしても、少し多めに何かを着てみても肌寒さは消えなかった。どうしたものかと出た中庭に夜風が吹き抜ける。肌に刺さる冷たさに、頭がはっきりとしていく。吐き出す息が白い、指先が悴む。
寒い、と思うもそこを動くことができなかった。部屋に戻ってもまだきっと寒い。どこにいても、何をしていても、その寒さが消えることはなかった。気温とか室温とか、きっとそういう類のものではないのだろう。
自分が少しずつ我儘になっていく自覚はあった。だからといって直そうとかそんなことを考えたりはしないけれど。待っていれば来てくれる、信頼にも似た自信。徐々に冷えていく身体。ぎゅっと縮こまり、ベンチの上で丸くなる。持ってきた膝掛けを肩に掛け、ゆっくりと夜空を見上げた。
「なにしてるのぉ、てんま〜?」
ばっと現れた見慣れた顔に目を見開く。待っていた、それは間違いではないがいきなり現れれば流石に驚いてしまう。は、と丸く口が開く。間抜けな音を発し、金魚のようにぱくぱくと声もなく開閉を繰り返す。
ん?と小首を傾げられると、淡い髪の毛が目深にかかる。しかしその奥のオレンジの方がもっと濃かった。透き通る淡さから覗くオレンジは柔く溶け、優しく弧を描いている。月明かりに青白くなっている頬に触れれば、それはとても温かかった。
びくりと三角の肩が跳ねる。その反応に自分の指先が悴むほどに冷たかったことを思い出す。あ、と思い出し、咄嗟に手を引いた。引こうとした手は彼の手に絡められ、もう一度その頬に触れることになった。
じくりと広がっていく三角の体温。温かいそれが、じわじわと指先から全体に広がっていく。あんなに寒かった身体が指先からの熱だけで温まっていくのを感じた。その心地よさにとろりと瞼が落ちていく。
「さむくて、ねむれなかった」
微睡みに沈むように、浮かんでは消えていく言葉を追う。舌足らずな言葉。うまく眠れなかったはずなのに、今になってその睡魔が顔を出す。最初からこいつのところに行っていれば眠れたのかもしれない。プライドが邪魔して待つことしかできなかった自分にちょっとだけ後悔した。
こくりこくりと舟を漕ぎ始めた俺を三角は暫く見つめていた。夜風が冷たいはずなのに、外気もどんどんと下がっているはずなのに、部屋にいた時よりも温かいのはなぜだろう。
ねむたかったの、てんま?とぎゅっと抱きしめられる。眼前を覆う淡い青。こくりと頷けば、そっか〜とこれまた間延びした柔い声が落ちてくる。耐えていた睡魔ももう限界だった。落ちた思考の端でおやすみと声が聞こえた気がした。
おわり