黒尾さん猫パロを書いていきます!
4話まで公開しているので、5話からです。
(5)猫も殺せば七代祟る
黒尾さんはわたしが好き。
「響子が好き」って、言ってた。
「…うへ…」
「変な顔」
「ぎゃ」
お山の、新緑の木が真緑に、そして、真っ赤な紅の葉をつけてきた。何回目かに見るそれを、お山に来たばかりの頃は背伸びして取ろうとしていたけれど、今では木登りして葉に指をかけることができるようになった。
太い枝の上に乗って、真白い尻尾をひゅるりと巻きながら動かせば、葉を撫でる風がわたしのほっぺも滑っていった。目の前で揺れてる葉っぱみたいに、わたしの顔も真っ赤なんだろうな。今日の朝も、黒尾さんが口づけしていったほっぺた。触ったらほんのりあったかい。
にへぇ、とだらしなく垂れ下がったときだ。いつの間にか、わたしよりもずっと上の枝に上っていた研磨が、たらんと三毛の尻尾を垂らしてそこに座っていた。
「鼻の下伸びてるよ」
「のっ伸びてない!」
「伸びてる」
「伸びてないもん!」
「どうだか」
「まあいいけど」と呟いて、研磨はそっぽを向いた。見れば掌で将棋の駒を弄っている。次の対戦の戦略でも考えているんだろうか。研磨は名うての名手だから、次に餌食になる人は可哀想だ。
ぼんやりしている研磨を眺めていたときだった。ぱたぱたと、木下を誰かが通り過ぎた。なんだろうとしたを向けば、また、誰かがぱたぱたと通り過ぎる。猫魔のみんなが、お屋敷やお山の奥を行ったり来たりしているみたいだった。
「…なんかみんな、騒がしいね」
「そうかな」
みんなちぐはぐに動いていて、駆けっこしているようには見えないし、弓も持ってないから、狩りに行っているようでもない。研磨を見れば、やっぱり興味ないらしくて、お空の方を向いたままぽけっとしているみたいだった。
木の上から見るみんなの姿が楽しくて、何も言わずに観察してたけど、しばらくすると飽きてくる。誰も構ってくれるわけでもないから、つまんない。研磨はこっちを向いてくれる様子すらないし。
とろとろと落ちてきた瞼だったけど、すぐさま視界が開けた。一際背の高い、長い着物を纏って現れた男の人が、丁度木ノ下をウロウロし始めたのだ。黒尾さんだ。
研磨と同じように、黒尾さんの目はこっちを向いてくれない。頭の上にわたしがいることすら気づいてないみたいで、両の手に広げた巻物に目を落としている。時々それを指して衛輔と何やら話し始めたり、時に向こうからやってきた走に指示を出したりしている。何を話しているのかは、流石にここからでは聞くことができなかった。みんな真剣な表情で、あんまり首を突っ込んじゃいけない雰囲気だ。
黒尾さん、こっち見てくれないかな。黒尾さんの手付き、黒尾さんの足の動き、身振り手振り、微かに聞こえてくる声、目線の行先。いろんなことが気になってしまう。そして、それがわたしに向いてないのが、ちょっぴり寂しくてもどかしい。
こ、これが恋ってやつなのか。意識した途端にすごく恥ずかしくなって、とたんに黒尾さんの顔を見てられなくなる。ぽやぽやするほっぺたを抑えて見た先は、黒尾さんの黒いお着物だった。ああ、そういえば。
「…研磨、お買い物に付き合う暇ない?」
「なんか買いたいの?」
「うん。黒尾さんの、」
いつもは真紅のお着物だったのに、この頃は黒か、黒と赤の縞々しか着ていない。それもそのはず、この前わたしを海で庇った時に破けてしまったからだ。あれから繕ってないらしく、あの着物を着ているところを見たことがない。
「く、黒尾さんの、着物。前、海に落ちた時に、破けちゃって」
「ふーん」
「この頃着てないから。繕ったりしてないんじゃないかな…って…」
「へえ」
「黒尾さんに内緒ね? ヒミツね? びっくりさせたいから。わたしもこんくらいできるんだよってしたいだけだから。ほんとにそれだけだから」
「なにもじもじしてんの」
「し、してない」
前にわたしを庇って破いた着物、上等な着物だった。お陽様に照らされると真紅に輝いて、明かりのない夜は蛍の光に艶めいて見えた。いつも着ているくらいのお気に入りだったのに。
そういえばあのお礼をしていないし、お返しもしていない。お金はあんまりないから、元のと同じくらい高価なお着物は上げられなくても、お小遣いで賄えるくらいのものだったら買ってあげられるかもしれない。恩返しだ。これはちょっとした、恩返し。
だけど、本当のことを言ってるのに、なんてこんなに恥ずかしいんだろう。これも、恋、ってやつなのか。うわぁ。ほっぺたがかゆい。
「村に降りればあるんじゃない」
ほっぺたをむにむにしていたわたしに「何やってんの」と窘めながら、研磨が気だるげに提案してくれた。
「村?」
「村」
「人間の?」
「うん」
「…、じゃあ、人間に化ければいいかな」
「まあ、そうだね。あ、でも…」
「わかった!」
「え? ちょっと、」
そうとなれば、すぐに行かなくちゃ。さっきまで眠たかった目は、もうきらきらと太陽の光を浴びていた。黒尾さんが立っていた場所にぴょんと降り立ち、みんなと屋敷に入っていったその背を追う。
村に降りれば、反物も、着物も手に入る。お賽銭のいくらかをお小遣いに貰って、箪笥の角にしまってある。人間に化けるのは、小さい頃、人間のお爺ちゃんの家の屋根裏に住んでいた頃からよくやってた。近頃やっていないけど、勘さえ取り戻せばすぐにできるはず。
「黒尾さん!」
屋敷に飛び込んで、大広間の襖を開けた。すぱん、と小気味良い音が響く。その音は中にいた黒尾さんと、話し込んでいた衛輔の背筋をぴんと伸ばす程には大きな音だったらしい。びっくりした二人の目が、ぎょろっとこっちを向いて離さない。どうやらお取り込み中だったらしい。
「…あ…、ご、ごめんなさい、邪魔だった? 後にしたほうがいい?」
「いや、平気だよ。もう終わったし。なあやっくん」
「…おう」
半ば強制的に話を終わらせたような雰囲気だ。悪いことしちゃった。
けど、衛輔は嫌な顔一つしないで、そそくさと広間を出ていった。わたしの顔を見ないで、黒尾さんは足元に広げていた巻物を手際よく片付けていく。何も言われないけど、なんだか怒られたような気分だ。所在なく黒尾さんの様子を伺っているだけのわたしを、だけど黒尾さんがちょいちょいと手招きしてくれた。黒尾さんの大きくて、暖かい手付きはいつも、ほんわかとわたしを包んでくれているみたいで、大好き。すぐに機嫌を良くして、大きな体に近づいた。
「なんか用?」
「うん。あの、わたし、村のほうに降りてみたい」
けれど、暖かだった黒尾さんの手は、わたしの頭に降りた瞬間にぴたりと止まった。微かに笑みを携えていた顔からは優しさが消えて、細い切れ長の目は見開かれる。
今日のわたしは、間が悪くて、空気が読めなくて、人を悪い気分にさせてしまうらしい。明らかに様子が変わった黒尾さんは、ふうと一瞬重い吐息を吐いた。
「…なんで?」
「え、えー…っと…、お山は全部見ちゃったんだもん」
「だから?」
「おじいちゃんのおうち、…前のおうちで、人間に化けて歩いたりしてたの。あれもっかいやりたい。楽しいよ」
「ダメ」
村に行きたい本当の理由を言えばよかったのかもしれない。そうしたら、黒尾さんも快く応じてくれたのかもしれない。だけど、黒尾さんの着物を買ってあげたいから、なんて理由は、秘密にしておきたかったし、何よりなんだか恥ずかしくて言えなかった。
なんとか言葉を濁したわたしに、黒尾さんはそれ以上の言葉もなく突き放してきた。いつも、黒尾さんはわたしのお願いや提案を、こんなふうに否定したりしない。否定するとしても、ちゃんとわたしがわかるように諭してくれるものなのに。
言い方もきつくて、そっけない。それが、かちん、と頭にきた。
「なんで?」
「ダメったらダメ」
「わたしもう大きいし、大丈夫だよ」
「ダメっつってんだろ」
「でもわたし、化け猫だよ。大丈夫だよ! 人間に化けるの、慣れてるから。だから、」
「響子」
だんだん口調が早くなる。頭の回転より、口が回るほうが早い。こういうときは、いつもよくないことを口走ってしまう。「バカ」とか「嫌い」とか口走ってしまって、黒尾さんを傷つけることもいっぱいあった。その度に、次はやらないようにって思うのに、何度も同じことをやってしまう。「バカ」はわたしだ。わたしだ、けど、険しい表情になっていく黒尾さんの前で、どうしても口は止まってくれなかった。
そんなわたしを知ってか知らずか、黒尾さんはいつものように優しく宥めようなんて思ってくれないらしかった。
「ダメだ」
一言。ぴしゃりと。頭ごなしに。
ダメって言われたんだから、やめればいい。悲しいけど、またいつか許可してくれることを信じて、今日は引き下がればいい。
だけど、黒尾さんの言い方が、とっても嫌で。バカにされてる、気がして。悲しくて、寂しくて。
売り言葉に買い言葉だった。むかむかした頭に熱がこもって、あらぬ想像ばかりが膨らんで、そして勝手に怒り始めた。
「わたしがちっちゃいから、ダメって言ってるの?」
「響子」
「…っわたし、もう大きいもん」
「おい」
「黒尾さんが良いって言わなくても、行くんだから!」
意固地になって叫んだ言葉が、今度こそ、黒尾さんの勘に障ったらしい。
「ふざけんなよ」
聞こえてきたのは、今まで聞いたこともないくらい、低くて、鋭くて、怒っている声だった。
ぎり、と黒尾さんの手がわたしの手首を締めてくる。ぎゅうぎゅうに掴まれたそれは、通っている血が止まっちゃうんじゃないかってくらい、痛い。
見上げたところには、黒尾さんの目があった。ぎらぎら輝くそれは、いつもの優しい雰囲気はどこにもない。怒ってる。黒尾さん、本気の本気で、怒ってる。
「黒尾さん、いた、いたい、」
「俺がどんだけ気いつけてやってっか、わかってねえだろ」
「黒尾さん、」
「また狼にやられでもしたらどうするんだよ」
「う、」
手首を掴む力は、どんどん増していった。爪の先の感覚がなくなっちゃいそう。「離して」と言えば一瞬緩むけど、すぐにまた力が込められる。黒尾さん自身も、力の加減がわからなくなっているみたいだった。
けど、手首より何より、黒尾さんの言葉が、引っかかった。
「また、って、なに…?」
「また狼にやられでもしたら」って、言った。
「また」ってなんだろう。わたし、狼に襲われたことなんてないよ。狼の遠吠えは、怖くて、切なくて、大嫌いだけど、けど、一度も会ったことはない。遠い遠い、お空の雷のようなものだ。
なのに、「また」、って、なんなの?」
黒尾さんは、ふいと目を逸らした。まずいことを言ったとき、わたしに知られたくないものを隠すとき、黒尾さんは目を逸らす。
「…なんでもねえ」
「黒尾さん」
「とにかく、山から出んな。いいな」
「ねえ、」
「おまえが山に入ることを選んだんだぞ」
黒尾さんは何も説明してくれないみたいだった。何も言わないで、わたしの手首から手を離した。真正面からわたしの顔を見ることも避けて、大股で大広間を横切っていく。
「ぜってえ出んな」
一言、それだけ。
背を向けたまま、また、低くて鋭い声で、怒鳴った。
何も説明してくれないで、わたしの言うことも聞いてくれないで、黒尾さんは大広間の襖に手をかけた。
なんでそんな、邪険にするの? なんでそんな、意地悪なの?
いつもの黒尾さんじゃないみたい。いつもの、優しい黒尾さんの方が好き。
意地悪な黒尾さんなんて、嫌い。
「…っ、黒尾さんの、ばかっ!」
出ていった黒尾さんに届くように、大きな声で、負けじと怒鳴った。
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5話目終了です! ありがとうございました!
この後サイト更新します。
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kuro夢
初公開日: 2020年04月10日
最終更新日: 2020年04月10日
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コメント
tskさん夢小説書きます
音声ありでやってみますたまに変なこと言ってるかもしれません(猫の相手など) よろしくお願いいたしま…
みつ
hqの夢小説を書いてみる
hq!!澤村大地くんの夢小説を書きたい書き方など普段どおりでいきます 最近書いてないから誤字脱字言…
みつ