交流する座布団のくりんばのタイトルは『傷だらけの愛を』
煽り文は『君を愛するために僕がいるんだよ』です
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『傷だらけの愛を』  あんたを愛するために俺がいる by山姥切国広
『女遊びのひどい大倶利伽羅が画家志望の山姥切国広の目の前で刺される話』
大倶利伽羅には彼女が多い。本人曰く彼女ではないらしいのだが、女性たちは皆、私が彼女だと言い張るのだ。
大学ではそのうちに刺されるんじゃないかと噂になっていて、幼馴染としては少し心配になる。時々、大倶利伽羅に向かって女性が大きな声で罵倒しているのを見ることもあるので、あながち間違いではないかもしれない。
「この腐れインポ野郎!」
「そのインポでアンアン言ってたのは誰だったか」
「サイテーよ!」
そして大倶利伽羅は頬を叩かれるか殴られるかするのだ。遠目から見ているがかなり強い拳が大倶利伽羅の頬を強打した。
大倶利伽羅は目を閉じない。まるでお前を忘れないぞとでも言うかのように目を開き叩かれたり殴られたりしても開いたまま相手をじっと見る。だいたいそうなると相手がひるんで逃げてしまう。今回もそうらしい。
俺は鞄からティッシュを取り出して、大倶利伽羅に近づく。わざわざ近づいてるんじゃない、このあと大倶利伽羅と約束があるのだ。
「大倶利伽羅、拭けよ」
「ああ、すまない」
もう何度もこんな場面を見ているので、お互い慣れてきた。最初は俺も大倶利伽羅が傷つけられるところを見るのは嫌だったが、自業自得のようなので、何も言わなくなった。
「このあとどうする」
「さっきの女の元カレが来るらしいから、逃げる」
「じゃあ俺の家だな」
横目で大倶利伽羅の顔を見ると、赤く腫れてきている。家に帰ったら保冷剤か何かで冷やさないとだ。
大倶利伽羅は顔がいい。この顔につられて女性が寄ってきているようなものなんだから多少凹んでもいいんじゃないかと思ったりする。
大学から帰る途中で購買に寄った。そういえば家に帰っても何も食べるものがなかったはずだ。俺は焼きそばパンにおにぎり三つ。大倶利伽羅はカップラーメンを買っていた。一緒に会計をして、俺がレジ袋を持った。
大学のレポートを写させてもらう予定なので、大倶利伽羅は暇だろう。まあ、頬を冷やすのと、元カレから隠れるという目的があるだろうから今日は止まっていくだろうか。
大学を出て徒歩五分のアパート前まで来た。狭い道を車が走ったので俺たちは縦に並んでそれを避けた。その時は大倶利伽羅が後ろだったのだ。
「死ね!」
大きな声に振り向くと大倶利伽羅も振り返って後ろを見た。誰かと大倶利伽羅の距離が縮まって、ぶちっと鈍い音がした。
大倶利伽羅の黒いTシャツが濡れたように染みているのはなんだろうか。どうして大倶利伽羅は呻いて膝をつき、目の前の誰かはほっとした顔で両手を赤く染めているのか。
大倶利伽羅が刺された。
情報のピースがハマった時、俺は大倶利伽羅を刺した人間を渾身の力で殴り飛ばしていた。宙に浮いて人間は沈黙。赤く染まったナイフを蹴飛ばして遠くでカランと音がした。
大倶利伽羅はわけがわからない目と痛みに耐える眉で表情はめちゃめちゃだった。内臓は出ていない。振り返った瞬間だったから目測が逸れ、皮膚が切れただけのようだった。それでも深く切っているので、安心はできない。大倶利伽羅を地面に寝かせ、ハンカチで圧迫止血する。端末で救急車を呼ぶので精いっぱいだった。
「大倶利伽羅、そんなに傷は深くないぞ大丈夫だ」
「いたい」
「大丈夫、ゆっくり息をしてくれ」
「くにひろ……」
警察は大倶利伽羅を刺した人間をすぐに捕まえてくれた。俺が一発殴ってしまったと言うと、正当防衛の範囲だろうと教えてくれた。法廷で発言をしないといけないかもしれないらしい。まだ未定だ。
新品のナイフで切られたから傷口も綺麗だし、ちょっと縫っておけば治るぜ。注射しとくから養生してくれよな。
背の低いメガネの外科医はそう言って大倶利伽羅の腹にテープを貼ってくれた。それだけでいいのかと心配になったが、真っすぐ切れたので他にやることがないそうだ。
だから、大倶利伽羅はすぐに帰ってきた、なぜか俺の部屋に。
「大倶利伽羅はいつまで俺の部屋から登校するんだ?」
「もう俺はここに住む」
「一人暮らしの契約だから、大家さんに睨まれてるんだが」
「じゃあ引っ越そう」
「こんなに絵具で散らかしても何も言わない大家さんもなかなか他にいないと思うんだ」
「俺はここに居たら駄目か」
「難しいな」
大倶利伽羅は舌打ちして俺のベッドに寝転んだ。ふて寝だ。こうなるとしばらく起きやしない。
寝転んでいる背中をスケッチさせてもらう。大倶利伽羅はタンクトップを着ていて、いつの間にか入れていた背中の龍のタトゥーと目が合う。刺した女性も大倶利伽羅の裸を見て、この龍を見たことがあるんだろう。渦巻く龍の手で優しく触れられたりしたのだろう。目の前が歪んで、大倶利伽羅がうまく見えない。紙に描かれた龍のスケッチを見て、あーあ、とスケッチブックを放り出した。鉛筆の先が丸くなっていたからうまく描けなかったんだ、そう思うことにした。
その日から、大倶利伽羅は女遊びをぱったりやめたのだ。
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くりんば書くマン
初公開日: 2020年04月10日
最終更新日: 2020年04月10日
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