キリル・ヴルーベリは理系である。
キリル・ヴルーベリは若干お金の使い方が下手である。
さて。
「……うん。これなら節約になると思う」
キリル・ヴルーベリは割と馬と鹿がデートしたがる方向に頭がいい。
「……」
ダグラスが彼の部屋に単独で先に入ったのは、たまたま「牛乳切れてた!すぐ買ってくるから先部屋入ってて!」と相棒に言われたからだ。
言われたのに入口でつったっていればこの集合住宅の女王が興味本位で訪れかねない。
そうなると流石のダグラスとて割と色々ダメージというか気恥ずかしさというかまぁ色々アレなので素直に先に入っていることにしたのだ。
家主公認なので合鍵も気軽に使える。大体一緒に上り込むか迎えてもらうのがお約束なので使う機会は少なかったピカピカの合鍵だ。因みに若干だまくらかす形で彼には自分の家の鍵も渡してある。
当初は入院の際の荷物を頼んだだけだったのだが――いやはやなにもかもみな懐かしい。
そんな割とどうでもいいことを思い出したのはダグラスが本当に驚いていたからだ。現実逃避ともいう。それはそうだろう。長四角い彼の部屋にあって、こんなものおけば狭いことのうえなかろうに。
それは床にあった。
いや、あるというべきなのか。ダグラスは若干これに関する趣味もたしなむがそういえば数え方をしらない。
台なのか本なのか個なの棟なのか。
とりあえず黄緑色の若干蛍光系な色彩は悪目立ちを感じるところだ。
「……うーん」
とりあえず自分が推理するようなことではないと思い直し、荷物を冷蔵庫にしまうところから始めた。殆どはすぐに取り出して晩飯になるが。
「うーん」
彼の部屋で過ごす時、大体がベッドがソファ代わりになる。
だから別に腰を落ち着けるのもそう難しいことではない――と思われる。
「うーん」
だがどうにもこうにも悩ましく、だからダグラスはとりあえずしまったばかりの冷蔵庫からビールを一本取り出してカシュッと開けた。ほんのり苦味の効いた香りと冷気、そしてしゅわしゅわと耳に心地よい音が彼のひねった首にほどよいのどごしを与えてくれるためにぱちぱちとはじける。
ごくり。
あぁ、美味い。どこぞのCMが如く声を出したりはしないが幾分自分が落ち着いたような錯覚に陥った。生憎混乱させてくれた要因は錯覚ではなく目の前に鎮座したままだ。
がちゃり。
背後で音がして、よしこれを見つめ続けずに済んだとばかりにダグラスは振り返った。
牛乳のパックを抱えた相棒がただいま、とほにゃり笑う。
「うん。お帰り巡査」
「おぅ――って先飲んでたのかよ」
座ってりゃいいのに。立ったままの相棒に、彼は不満ではなく疑問をぶつけてくる。
「いや、アレがさ」
ダグラスは指差した。アレ。
――大体一・二人用と思わしき、テントである。
テント。アウトドアにおいてこれほど基盤になる商品もあるまい。
拠点となる場所だ。ケープのようなものはないが、寝袋ふたつも入れれば荷物はもう入らないくらいの小さいものでも、この面積が偏っている部屋では悪目立ちする。
そもそも室内で設置するものではあるまい。
「あぁテント?」
「そうだなテントだな」
「そういえば今日はダグがいっから、問題ないんだよな」
すぐ片づけるよ。へらり、と告げられた言葉にダグラスが更に混乱するのは普通だろう。
「あ、やっぱお前が設置したの?」
「え、そっから」
それはそうだろうというとそうなのか、と真顔で頷かれてしまった。そういうもんだろうか。おかしい。おかしいことを指摘した自分の方がおかしいみたいな展開がとりあえずおかしい。
「問題って」
とりあえず話題を換えてみると「あったかいんだ」と部屋主は教えてくれた。
「暖房代が勿体ないから密閉空間が欲しかったんだよ。段ボールハウスも考えたけど間違いなくポチの玩具と化す」
テントもそうだろう、とはいわない方がいいだろうか。
あのばりっばりに破壊が可能な段ボールと化成繊維とおもわしきテントでは勝手が違うのかもしれないし。
「だから丁度安売りのテントがあったのもあって買ったんだ。そして思った以上にあったかかったので常設した」
「――なるほど?」
「ぎりぎり二人は入れるからダグも入ってみる?あったけーぞ」
「いや、暖ならお前でとるし」
お前もそのつもりだったんだろう?というとそうだった、と相棒はカラカラと笑った。
「さっさと片付けて、くっつきてぇ」
「そうだな。流石に視界の隅にこんなもんちらちら映ると色々集中できない」
「できないの?」
オレだけみてろよとさらりと言われ、背伸びされて鼻を甘く齧られる。
間近な顔がにんまりと笑い、すぐに離れた。怒っているわけではないらしい。多分この負けず嫌いのことだ。テントにゃまけねぇという意思表示だろう。
買ってきた牛乳を冷蔵庫にしまい、すぐに手際よく片付けられていくテントをぼんやりと眺めながらビールをもう一口。
タイミングを見て奥にあるベッドの上で飲食するように買ったビニールシートを引いてやって飯としよう。そうと心に決めてはいたが、体勢を落としてこちらに向けられる尻をもうちょっと眺めていたいなと思っている内にそんな配慮も忘れてしまい怒られるのだが――ほんのちょっととはいえそれは未来の話だ。
おしまい。
カット
Latest / 25:34
カットモードOFF
文字サイズ
向き
チャットコメント通知
きょうのだぐきり(保温キャンプ
初公開日: 2020年04月08日
最終更新日: 2020年04月08日
ブックマーク
スキ!
コメント
いえきゃんきりさん。
※一応BLです
20211123 ワンライ参加リアタイ更新
ふぉろわさん企画のワンライ。#ダグキリ版深夜の創作60分一本勝負 日付が違う?いえっす。なぜなら昨日…
かがさん。
きょうのだぐきり(兄弟とカレー
リクエスト兄弟でというのもあったのでそれも踏まえてみんなー5月7日にはカレー食おうぜー!(気が早い…
かがさん。
20200409 きょうのdgkr
だぐきり。大体30分くらいです多分。
かがさん。