久くんと手をつなぐのが実は好きな矢ちゃんの話
ALIVEへ向かう日は、大抵久森が私を無理やり引っ張って連れて行く。それが彼女に対する扱いかよ、なんて思うけど久森以外に彼氏がいたことがないあたしには、他の男がどうやって恋人を扱うかなんて知らない。
なんだか暴れたい気分になった今日のあたしは、久森の言葉に素直に返事をし二人並んで合宿所への道を歩く。久森が「いつもこれくらい素直に来てくださいよ」なんて言っているけど、そんなのあたしの気分なんだからいちいち言われても困る。なんだか今日の久森には妙にイライラしてしまって、自分で自分が不思議だった。
そのイライラに気づいたのは、赤信号で立ち止まったとき。今日は自分で合宿所に向かっているから久森が引っ張ってくれていない。
こいつに言うとチョーシに乗るから言わないけど、あたしは久森と手を繋ぐのが好きだ。たまに学校からの帰りに恥ずかしそうに繋いでくる手も、家でごろごろしているときに楽しそうに繋いでくる手も、あたしがイキそうで頭が真っ白になっているときに優しく繋いでくれる手も、合宿所に連れて行くときに強引に繋いでくれる手も、全部。
むしゃくしゃしている原因がわかったので、久森の手を取った。志藤や戸上みたいにでかくないし、細くてすぐに折れそうだけど、あたしと違ってほねほねしているその手をすりすり撫でると、か細い声で「矢後さん、」なんて名前を呼ぶので顔を見てやる。
信号機みたいに真っ赤になってもとから大きい目をさらに大きくさせて、口をぱくぱくさせている久森の顔は女のあたしから見てもすごくかわいい。けれど、この握っている手は紛れもなく男の手で。なんだかこのギャップも、こいつの好きなところなのかもしれないな、と一人で納得してから「手、繋げ」と半分命令のように言って手を握り込んだ。
かわいー彼女のオネダリにも「自分からそんなこというなんて、矢後さん熱でもあるんですか?」なんていう久森は、やっぱり彼女の扱いがわかってないな、という思いを込めてその手を強く握ってやった。道路に久森の悲鳴とあたしの笑い声が響いたが、それは車のエンジン音にかき消された。
おわり
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向き
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