しとしとと雨が降る中、僕は矢後さんとステンドグラスが綺麗なチャペルにいた。男子高校生二人でこんなところにいるのには訳がある。
ブライダルの会社から、ジューンブライドの季節にヒーローを使ってイベントを行いたいとの依頼があった。何を思ったのかその企業は僕ら風雲児を指名していたそうで(バレンタインのイベントを見ていた、と聞いている)、指揮官さんは何度も「頼城や御鷹と間違っていないのか」と聞いていたらしい。
「ヒーローとはいえ高校生の僕らに結婚のイベントなんて無理ですよ!」と参加をごねる僕は、「俺に結婚観、なんて聞くの。へえ」と少し怒っている矢後さんと共に、指揮官さんに宥められるように打ち合わせへと連れて来られていた。
結婚式場はキラキラと輝いていて、僕にはとても眩しい。梅雨の時期だからか色とりどりのビニール傘が吊り下げて飾られていて晴れの日には光が当たって綺麗なんだろうなと思う。
衣装合わせやリハーサルも終え、指揮官さんがALIVEの広報担当と企業側の広報担当と最終確認をしている間、僕らはチャペルの中を見学させてもらっていた。
ヒーロー活動の一環ではあるけれど、矢後さんと一緒に結婚式場にいるなんて正直夢のようだ。矢後さんは先のことを話したがらないし、僕らは恋人でこれからも彼から離れるつもりはないけど結婚できるとは思っていない。だから少しだけど自由時間を貰えて僕は嬉しかった。チャペルの中のベンチに座って隣の彼の肩へと頭を預ければ、不機嫌そうな声が降ってくる。
「重い」
「いいじゃないですか」
「……なんでこんな雨んときに結婚したがんのかね」
「えぇ、前に説明したじゃないですか。六月に結婚するお嫁さんは、幸せになれるって考えが海外から入ってきたって」
どうせ説明してもまた忘れられるんだろうな、と思いながらイベントのためにスマホで調べた知識を彼に披露。聞いてきたのは矢後さんのくせに、僕の説明には興味がないみたいでステンドグラスをじっと見つめていた。
「別に、いつ結婚しても幸せなんじゃねーの」
「え……」
矢後さんがそんなことを言うと思わなくて驚いて凭れていた身体を起こす。ステンドグラスから視線を外した彼と目が合う。
「俺なら、いつ結婚しても幸せになれるやつと一緒にいるけど。ちげーの?」
「違わ、ないと思います」
ゆっくり矢後さんを自分の腕の中へと引き込んで抱きしめた。僕らはお嫁さんにはなれないけど、もし僕たちのどちらかが女の子だったとしても、きっとこの季節に結婚しなくてもそれなりに幸せに過ごしていけるような気がしている。
「僕は矢後さんとならいつだって幸せだし、僕があなたを幸せにしたい、です」
「はは、それプロポーズってやつかよ」
少しだけ声を弾ませたような彼の腕が僕の背中に回る。きつく締められて少し痛いけど、この時間がもう少し続いてほしいと思う。矢後さんがプロポーズと取ってくれるのなら、それでいいし抱きしめ返してくれるのは肯定だと捉えておくことにした。
指揮官さんから連絡が入り、チャペルから出てもまだ雨は降っている。傘も差さずに歩き出そうとする矢後さんを引き留めて、会場で貸してもらった紺色の傘を開いた。
「梅雨の時期の結婚式では、傘もアイテムとして取り入れることがあるみたいです」
「ああ?」
「例えば、こうして」
傘で僕らの姿を隠すようにして、軽く矢後さんへとキスをした。驚いた様子が、なんだか猫みたいでかわいいなと思っているとキッと矢後さんに睨まれる。
「……お前がしたかっただけだろ」
「あ、はは……。でも傘を取り入れてるのは本当ですよ」
一つの傘を差して、矢後さんとともに歩き出す。こうやって相合い傘をして写真を撮ったり入退場をするカップルもいるらしい。それは僕の心に秘めたままにて、内緒で少しだけ結婚式のような気分を味わうことにした。
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ジューンブライド
初公開日: 2020年06月27日
最終更新日: 2020年06月28日
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久矢ワンライ