僕らのデートでどこかに出かけるなんてことはほとんどない。僕の家か矢後さんの家、もしくは合宿所の寮に用意されているどちらかの自室で、時にお互いが好きなようにだらだら過ごし、時に普通の恋人のようにお互いに触れて、その、やることやって一緒に寝たりして過ごすのが僕らのデート。僕もアクティブな方じゃないから、矢後さんと一緒に過ごせるのならお部屋デートで十分だった。
「そろそろ帰るわ」
自宅に帰らないのが僕の中の不良のイメージなんだけれど(実際に風雲児にはそんな生徒がたくさんいる)、意外にも矢後さんは違っていて、ヒーロー活動のない平日は僕の家に遊びに来ても夜には帰ることが多い。自分の体のこともあるが、彼は家族を大切に思っていて、心配をかけないようにしているんじゃないかなと僕は思っている。本人に聞いても素直に答えてくれないと思うから実際に聞いたことはないけれど。
立ち上がって玄関へ向かう矢後さんを追いかけて、矢後さんの名前を呼ぶ。振り返ればいつもの何を考えているのか分からない瞳が僕を捉えた。肩を掴んで少しだけ僕より高い位置にある唇へ自分のそれを押しつければ、受け入れるように目を閉じてくれて胸の中が彼への愛しさでいっぱいになった。名残惜しいけど、気持ちいいそこから離れて、肩に触れたまま僕は目を閉じる。
矢後さんと付き合うようになってから変わったこと。その一つが僕の「未来視」への考え方だ。
ヒーロー活動で限界まで未来視を使わなかった日は、「明日の夜の矢後さん」を見ることを僕は許すことにした。未来は見えなかった。ああ、またかと苦笑しながら目を開ければ明らかに不機嫌そうな矢後さんの顔。
「おい、勝手に見んなっていつも言ってんだろ」
「大丈夫です、何も見えなかったんで」
見えなかった、つまり明日の夜の時点で矢後さんはこの世に存在しない。六割がこんな状態なので、僕はもう慣れてしまっていた。ちなみにジャンクを読んだり、ご飯を食べたり、寝たりと日常を過ごしている映像が三割、まさに死亡する瞬間の映像が一割というところ。死ぬ瞬間や死んだ直後の矢後さんの姿は付き合う前から散々見たことがあったので、今更見たところで驚きはしないけど、好きな人のそんな姿を見るのは気持ちいいものではない。
血まみれで意識のない矢後さんの姿を思い出して、勝手に少しだけ辛くなったので目の前の体に抱きついた。帰るから邪魔、と文句を耳元で言われるけど僕のことを剥がさないんだから矢後さんも抱きしめられて満更でもないんだろう。
「矢後さん、また明日」
「その言葉も、いつも言うなって」
「いいじゃないですか。この言葉を矢後さんに言えるの、恋人の僕の特権にさせてください」
矢後さんの未来が見えない日。明日も、あさっても、これからもずっとこの人と一緒に居られますようにと願いを込めて僕はこの言葉を口にする。いつもこのやりとりをしているからいい加減鬱陶しがられてるかも、と彼の表情を伺うため少しだけ体を離せば、そこにはむすっとしながらもなんだか嬉しさを滲ませる矢後さんがいた。それがかわいくてもう一度ぎゅうと抱きしめた矢後さんから「……やっぱ今日泊まる」という言葉を引き出せたので、僕は心の中で密かにガッツポーズをした。おわり
恋人の特権で「明日」って言葉を使うのを許される久森くんが書きたかっただけ