夜の帳に包まれ、皆が寝静まった頃。いつもの決まった時間に寮監室の扉を叩く。静かに扉が開け放たれると、部屋の主人は普段とは違う色が差した頬を綻ばせて俺の腕を取った。俺からすれば極々弱い力のそれを振り解くには青臭い精神が邪魔をして、まるで蛇に捕らえられた蛙のように為す術もなくずるずると中へ引き摺り込まれた。
 それからは簡単だ。唇を合わせて、手を取り合って、足を絡ませて、肉の内側を暴いていく。俺が彼の身体で知らない場所などなく、それはまた彼も同じだった。お互いに欠けたものは同一で、埋めるために必要なものも同一。求めるものが同じだということは非常に好都合で、これからどんなものが彼を慰めに来たとしても、俺ほどに彼を満たせるものなど現れはしないだろう。
 たっぷりと唾液を纏わせた舌を同じ傷口に宛てがうと、無感情とは正反対の反応が返ってきて俺の傷口はじくりと熱を孕みながらも歓喜に震えた。悪魔と恐れられた傭兵が。教壇に立ち教え導く教師が。誰にも見せたことのないような感情を俺の下で晒している。独占欲とはこのような感情なのか、と身をもって学ばされるようだった。悲哀も、憎悪も、今この時だけはどろどろに吐き出しても構わない。他者から見れば汚泥でも、俺にとっては花の蜜だ。どんな味がするのか口にしなくてもわかるそれがどうしようもなく愛おしい。好ましく思っているものから溢れ出したのなら、なおさらだった。
 せんせい、ではなく、彼個人の名前を不意に呼べば、夜明け色の瞳は透明な膜を張り、じわじわと拡がってやがて決壊した。わざとだった。彼の名前を呼ぶかけがえのない人が一人、いなくなってしまったのだから。律動に合わせて何度も何度も何度も名前を呼べば、堪らないのかひたすらに涙を流し続ける。あぁ、彼でも泣けるのか。ひとの心があったのか。どれだけ女神の寵愛を受けていても、彼はただの親を亡くして泣いているひとだ。俺の腕の中でさめざめと泣くかわいそうなひとだ。だったら泣き止むまであやしてあげないと。ぐちりと身体の中から撫でられる感触は、きっと悲しみを洗い流してくれると信じて。
 行為が終わりに近づくと、彼は俺の首筋に歯を立てる。それは全く容赦がなく、痕を残すどころか皮膚を突き破って赤い血を滴らせた。痛みに顔を顰めるが、そんなことはお構いなしに血を啜る。じゅる、じゅる、と今まで聞いたどんな水音よりも恐ろしい音が間近に聞こえた。命を吸われている。与えているのではなく、奪い尽くされていく。いつの間にか立場が逆転してーーいや、もしかしたら最初から彼の口の中に閉じ込められていたのかもしれない。そう思えるほどに吸血は一方的で、官能的だった。
 彼が口を離すと同時に、俺も彼の内側から逃げていく。忌まわしいはずなのに、最も求めてやまない赤色に彩られた唇は艶やかに三日月の形を取った。
 ごちそうさま。
 こちらこそ。
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ディミレト
初公開日: 2020年04月05日
最終更新日: 2020年04月05日
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コメント
ディミレトのSS書きます。お試しです。
でみれと
でみれとの人魚姫っぽいパロのお話書きます。キリのいいところまで書ければ。
からたち
山の神、鹿の子
御形様フェスに参加したい。山の神様な御形様とディアケンタウルスな恵という自分の性癖詰めました。
あぼだ