浜辺で波がぱしゃりと音をたてていた。爽やかな青い空と海は昨日の雨で見れはしなかった。久しぶりに君とまた海に来れたというのに。どんよりした灰色の空を見上げて、溜め息が一つ。砂浜の波が来るはずのない場所が濡れていた。泥で白いスニーカーが黒く汚れる。それを見て、君が笑った。だから、また出かけた溜め息が引っ込んで笑いに変わった。
 海は爽やかとは言えない、深い青になっていた。底が見えないほど深く深く、君を攫っていってしまいそうで、それが怖くて強く君の手を握った。
「もう、帰ろう?」
 僕がそう言うと君は首を横に振った。何も言わずに君は僕の手をそっと退けた。そして、海に入っていった。君の青いスカートが水を含んで濃く、深い青色に染まっていく。君はそれを気にすることなく、海の少し深いところまで行ってしまう。
 僕が追いかけようとすれば君は僕を追い払おうとする。それがなぜかわかった。君は波がつくる水飛沫の中で、ただ楽しそうに笑うだけだったけれど。
 風が強くなって、雨が降り始めた。それでも君はいつまでも海から離れない。
「そろそろ……」
 僕が君へと手を伸ばしたときだった。さっきよりも大きな波が、君を攫った。ように見えただけだった。
 本当はそこには君どころか、誰もいなかった。何も無かった。
 相変わらず僕は君の幻想を君との思い出の場所に描いていた。君はもういないのに。どうしてか、何年経っても君を失ったことが受け入れられない。
「帰ろう」
 誰に言うわけでもなく、呟いた。君の幻想すらかき消してしまった場所には長居したくなかった。君が見える場所へと、僕はまた足を運ぶ。
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初公開日: 2020年04月03日
最終更新日: 2020年04月03日
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コメント
今は色をお題に恋人との思い出の場所を巡る人間の話を書いてます
ちょっとだけ
気まぐれで始めたので気まぐれでやめます
胡桃野子りす
筋トレ
アヤカさんはミモザがこぼれるように咲く頃、動物園のペンギンの檻の前で懐かしいおもかげを見た話をしてく…
瀬をはやみ