ピクニックに行くのは久しぶりだった。僕は君が公園の広場へと走っていくのを眺めながら、その後ろ姿をゆっくり追っていた。無邪気に、君のワンピースの裾が、お弁当の入った手提げが揺れる。
「ねぇ」
 君が、僕のほうへと走り寄って、手を取る。きっと僕の顔は驚きを隠せていなかったのだろう。君が笑った。そして、君はまた広場へと走っていった。
 僕は君が発した短い言葉を頭の中で繰り返した。『ねぇ』という言葉の先にも続きがあったような気がしたけれど、僕にはそれを聞き取ることはできなかった。君の声を久しぶりに聞いた気がして、考えようともしなかった。
「どうしたの?」
 君が振り返って、誰もいない緑色の広場の真ん中で、僕に問いかけた。
「なんでもないよ」
 笑って君に言葉を返す。レジャーシートを敷いて、お弁当を広げて、座った君は隣に座るよう促してくる。まだ少し肌寒いようで、君は風が吹くと震える。僕は、着ていたカーディガンを君の肩にかけた。
「ありがとう」
 君の声が、心地良く響く。
 寝転んで、ゆっくりと目を瞑る。どれほど経っただろうか。
 次に目を開けたときには何度も聞いた声、何度も見た姿、それが消えていた。
 いつもの幻想よりも長く、君が存在していた。それでもこの場所に初めて独りで来たときよりも幻想が存在するのは声が聞こえてくるのは少なくなってきた。
 --そろそろ潮時だ。
 わかっているけれど、諦められないのが、僕の悪いところだろう。いつまでも君が笑って僕と話してくれるを求めてしまう。
 だから、最後にあそこへ行こうと思った。最後に君をもう一度見ようと思った。君の幻想を。
カット
Latest / 31:21
カットモードOFF
文字サイズ
向き
チャットコメント通知
7時まで書く
初公開日: 2020年04月04日
最終更新日: 2020年04月04日
ブックマーク
スキ!
コメント
今日は「緑」