レトロゲーム /  羽玲
「誰か1人とだけ過ごしたら、その子以外のみんなが可哀想でしょ?」
だから毎年誕生日でも仕事してるかな?と、去年のバレンタイン、羽鳥さんは言っていた。
私は、
「せっかくの誕生日なのに仕事なんて可哀想ですね」って言い返した。
その言葉に、どこかホッとしながら。
今年もバレンタイン。いや、羽鳥さんの誕生日が近づいている。
去年から比べると、羽鳥さんと私の関係は変わった、と感じている。
羽鳥さんは「会いたい」と言われても言葉で「俺も会いたいよ」と返すだけで、本気ではないんだろうなって思うことが多かった。
でも、羽鳥さんから用事を作って会ってくれる機会が増えたり、
私が休みの日に『今から会いたい』と言って、実際に来てくれたりすることがあって、一緒に過ごす時間が多くなって、口先だけじゃなくて、実際に行動をしてくれることに特別を感じてしまうようになっていた。
けれど、『可哀想』にはなりたくなかった。
期待してはいけない、ほかの子にもそうしていると思い、必死に気持ちに蓋をしていた。
なのに、
「羽鳥さんは明日もまた仕事ですか? 」
2月13日。仕事で会った羽鳥さんにそうたずねてしまった。
羽鳥さんが今年も『可哀想』で、だれかが『特別』ではないっていう答えが欲しかった。
「今年は違うよ。旅行にでも行こうかなって思ってる」
そう言って羽鳥さんが微笑んだ。
その子以外が可哀想だって、1人とだけ過ごさないって、言ってたのに。
数ヶ月前。羽鳥さんに「バレンタインは休み?」って聞かれて、有給を取っていた。もしかしてって、少しでも特別に思ってくれているんじゃないかって、自惚れていた自分が恥ずかしい。
可哀想なのは羽鳥さんじゃなくて、やっぱり私の方だったんだ。
「そうなんですか。じゃあこの資料、確かにお届けしましたから。」
そう言って立ち去ろうと、身を翻す。
溢れた涙は瞬きひとつで零れそうだ。
足早に立ち去ろうとした腕を、掴まれた。
「ねぇ、俺のこと可哀想だって、去年言ったよね。」
「だから明日、君なら俺を可哀想にしないでくれると思ったんだけど、帰っちゃうの?」
傾けた顔。横髪が揺れる。
隙間から覗く瞳が、私の返事を急かす。
『可哀想にしません。一緒にいてください』なんて、羽鳥さんが求めているであろう答えを素直に言うのが悔しくて、でもそれ以外なくて。
「私も、可哀想なんですよ。好きな人に作るはずのチョコレートの準備ができてないのに、旅行に誘われちゃったんですから」
と得意げに言い返す。
羽鳥さんは困った表情をしたあと、私の腕を引いて抱きしめた。
「じゃあ、一緒に作る?」
「お願いします」
そう返事をした私たちの間には、もう勝ち負けはなくなっていた。
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stmyバレンタイン羽玲

プロットから完成させたい気持ち
執筆開始 : 2020年02月13日 21:15
最終更新 : 2020年02月13日 21:47

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