ハッピーエンドとは、少しばかり縁遠い。
 冬も真っただ中の十二月後半。寒いね、と言えば寒いと言い、夏が恋しい、と言えばそうだという。しかし今年の冬はまだ雪が降らない。中旬ともなれば、ぱらつく白いものも見ることができるが、それも上旬の殊更寒い日の朝に一度だけ。それ以来、電波に乗せられて届くのは平年より暖かい、という情報ばかりだ。
 試しに最近暑いな、なんていうと、隣の人間は少しばかりいぶかしんで、こちらを見た。どうやら一辺倒な返事をしているわけではないらしい。雨宮左近は、恋人が予め温めておいた布団の中でうつらうつらとしていた。
「戸締りお願いね」
 長い髪の女は、良く似合う黒縁眼鏡をかけなおしながら言う。少しもこちらを顧みる様子はなく、布団の中からその横顔を眺める。昨晩はぐんと気温が下がった。自転車しか交通手段のない雨宮はコンビニから自宅まで帰ることを諦めて、恋人の家に身を寄せたのだ。
 真川誠は、誠実な女性だ。仕事は町役場の職員。彼女にぴったりの仕事だ。一方の雨宮はコンビニのバイト。三十路の男が勤めるには少々、期待外れと言われるだろう。事実、真川の両親からは白い目で見られている。
 それでも付き合っているのは、きっと愛があるからなどと、雨宮は呑気に思っている。
「今日バイト休み。夕飯作って待ってる」
「ごめん、今日忘年会」
 冬の風物詩として田舎に根強く残っている忘年会。忘年会が忘年会として機能していたのは、大学生頃だけだと、雨宮は鼻白む。忘年会と言われれば、この家ですることはない。
「じゃぁ、帰る」
「そうして」
 真川はもう一度鏡を確認して、さっさと自宅である町営アパートから出ていった。すぐに外から車の排気音が聞こえてくる。
(今日もか……)
 部屋のいたるところに感じる他の誰かの気配。自分がもしや間男になったのでは、なんて思うこともあるが、自分が本命だとなんども言い聞かせた。視線の先にあるのは、雨宮のものではない、知らないトランクスだ。雨宮はボクサー派で、頭の金髪とは裏腹に下着は地味だ。
 根が生えたように動かない体を叱咤し、なんとかベッドから抜け出す。田舎のボロアパートに暖房は設置されていない。だからといって、灯油ストーブを使う気にはなれない。下手に動かして火事になっては、シャレにならないからだ。
 寒い中、スウェットから昨夜着ていた普段着に着替えた。窓を風が叩く音とスマホを鳴らす着信音が重なった。画面を見てみれば、よく知った名前が表示されている。おもむろに取り上げて出ると、男にしては少しばかり高い声が聞こえてきた。
「今日は、来るの?」
「行く」
「あっそ。路面凍ってるぞ」
 すぐに通話は切れた。彼なりの気を付けて、に自然と頬が緩みそうになる。雨宮は真川のマフラーをわざと首に巻いて、外に出た。
「土産は?」
 尋ねられるがままに、手に持っていたケーキを掲げる。鳥岡雪は、自称フリーランスのイラストレーターだ。無類の甘党で、寒さで凍えそうな朝でも額に冷たいシートを貼っている。どてらとの対比が病人のようだが、これが通常運行なのだ。
「コンビニの最新ケーキ。チョコとクリームだぜ」
「まぁ、いい」
 アパートの部屋の奥へ通されると、ここはエアコン暖房が完備なので、暖気に包まれる。暖かさに思わずため息が出る。部屋のあちこちに飾られているポスターやフィギュアは落ち着くまでに時間がかかったが、いやま、それが当たり前となっている。
 鳥岡はローテーブルの上にケーキを置いたので、さっそく食べるようだ。そっけない返事の割には、嬉しそうなので、雨宮も浮かばれる。
「ちょこ」
「……クリーム」
 本当はチョコがよかった。だが、避難させてくれるだけ、ありがたいので、甘んじてクリームを選んだ。雨宮の部屋には暖房が一切ない。昔、暖房器具でのボヤ騒ぎがあったようで、使用禁止になった。
「彼女は、また他の男の所か?」
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ハッピーエンド
初公開日: 2019年12月18日
最終更新日: 2019年12月18日
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BL恋愛小説が書きたいな。
『天木町男子排球部』
天木町の男子バレーボール部は中学生にも負けるほど、とにかく弱かった。
丸井
年賀小説案をかきだす
年賀小説案をかきだし、あわよくば書いてやろうというライブ配信です。気軽にコメントくださいませ。
丸井
異世界は遠い
年賀用の小説を書く。BLかブロマンス。
丸井