「ここまでくれば大丈夫か」
「ふう、死ぬかと思った」
 城から必死に抜け出し、二人は作戦を立てたあの地下まで戻ってきていた。
 
「完全に、娘の失踪が俺たち森の民の仕業だとバレてしまっただろうな」
「うん。やっちゃったね」
 
 軽口で二人は言い合うが状況は最悪だった。
「アーロン。なんで戻ってきたんだよ。村から援護も、警告も出せない」
「知らせは飛ばしてある。それよりリアム、お前が捕まって利用される方が最悪だ。死ぬときは必ず痕跡を消さないといけない」
「……そうだね。確かに。今後考えられるのは、俺たちの捜索、もしくは森の民への襲撃かな」
「両方に兵を割くことはないだろう。娘を取り戻したいだろうから、最初は俺たちを捜索するだろうな。俺のツテは王都を逃げ出しているが、足切りはしていない。そこから情報を割り出すことはできるかもしれん」
「この場所まではわからないよね?」
「ああ、多分な」
 今いる場所の情報を外に漏らしたことは一度もない。
 しかし、味方だと思っていたツテが保険に探っていた可能性も捨てきれず、アーロンは断言できなかった。
「こっちから撃って出る?娘を引き渡すから見逃していくれって」
「引っ掛からないだろう」
「そうかもしれない。だけどやらないよりはましだよ。時間を稼ぐ必要があるから。少ししたら、セオたちの活躍も王都に伝わるだろうから、色々警戒するだろうし」
「セオか。うまくやれるか」
「大丈夫。信じてあげようよ。テイラーもエディもいるし、うまくやるよ」
「だったら、俺たちは時間稼ぎのための、娘人質作戦を実行するか」
「そうだよ。まずは作戦を練よう」
「おう」
 二人は悲観主義ではない。
 できることはしてみようと、作戦を練ることにした。
「……あれは森の民だ」
「髪色は違いましたが、そうなのですね」
 城に突如発生した不死身の兵士のすべては片付けることができた。その代わり城を守る兵士たちは逃げるアーロンとリアムを見失ってた。
 とりあえず行方を探させて、チャーリーとマルクは今日の襲撃について話をしていた。
「あれは私を狙っていた。イザベルを奪い、レイアの血を利用した私を殺す気だろうな。レイアは今頃どうしているか」
「私であれば、すぐに処分しま、」
 マルクが言いかけて、すぐに口を閉じた。
 殺気の籠った目でチャーリーに睨まれたからだ。
 マルクは彼が親としての情を持っていることに少しだけ驚いていた。
 週一で娘から血を採取し、それを利用して不死身の兵士を作り、治安維持に当てている。
 愛情があるならそんな行為は普通はしないだろう。
 マルクの感情は麻痺していたが、人間の感情を予想することはできた。
「レイアがあの者達と一緒にいる可能性は高い。なので、早急にあの者達をとらえるのだ」
 レイアのことは伏せているが、今日城を襲撃した賊の捜索という目的であれば、公に兵を動かすのは容易い。
 チャーリーはアーロンたち捜索にかなりの兵を割いていた。
 マルクは、森の民をとらえれば更なる実験ができると、ほくそ笑む。
 チャーリーは採血すること以外で、マルクがレイアに触ることを禁じていた。なので、マルクは他の森の民になら、何でもできると期待に胸を躍らせていた。
 
 ★
「気持ち悪い」
 港町に到着して、一行は船に乗り込んだ。
 出航して、数時間で根を上げたのは、テイラーだった。
 家族用に当てられた一室のベッドで桶を片手に、横になっている。
「エ、いや。父さん、母さんのことよろしく。俺は弟と外を見てくる」
「ま、」
 セオがそんなことを言いだし、エディは頷いたが、テイラーは止める。
 だが彼は無視して船室を出て行ってしまった。
「『オイゲン』、子供たちのことをお願いします。私は一人で大丈夫です」
 部屋の中でも安心できない。
 テイラーは母親として演技をしつつ、エディにセオたちのことを頼む。
 彼は頷くと、セオたちの後を追って船室を出て行った。
(リアムは無茶していないといいのですが)
 ベッドで仰向きになって、テイラーは考えを纏める。 
 テイラーも、チャーリーがレイア失踪が森の民が原因であること見抜き、村を襲う可能性を考えなかったわけではない。
 しかし、森の民の村は普通は見つけずらい。
 だから楽観視していたのだ。 
 だけど、過去にチャーリーが村に連れていかれた記録を思い出して、少し焦っていた。
(一番いい方法は兵が森へ出立する前に、叩くこと。そうなると、城に侵入してチャーリーを殺すのが一番早い。二人もきっとそう考えるでしょうから。無理しないでほしいものです)
 クルスナラハで娘の存在を匂わせて、不死身の兵士を排除すれば、チャーリーの興味はクルスナラハに向く。
 そうなれば、村を危険から遠ざけることができる。その間に城のチャーリーを殺すことができれば、完璧だった。
(酔ってる場合ではないのですが……。う)
 そう思っていても体は言う事を聞いてくれない。
 テイラーを桶を抱えると胃の中のものを吐き出した。
 ★
「すごい!」
「すごいだろ!」
 レイアは初めて見る海にはしゃいでいた。
 セオはこの大陸に来るために、船に乗っている。
 なので、慣れたもので少し偉そうにしていた。
 端からみたら仲の良い兄弟がはしゃいでいるように見えるので、その後ろでエディは「父親」らしく、立っている。
「でも変な匂いがする。あと風がちょっと違う」
「そうだな。確かに」
 良い風がなびいていくが、風は湿っていて、潮の香りを運んでくる。
 テイラーは揺れるだけでなく、この匂いが苦手なのだが、セオたちはその違いに新鮮さを覚えるだけで、気分を悪くすることはなく、航海中、何度も看板に上がって、海を眺めていた。
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