「……リアム、一生恨みますから」
「似合ってるよ。お母さん」
 散々設定を考えた上、セオとレイアは兄弟、その父にはエディ、母には女装したテイラー、アーロンは商人で、リアムは職を求める料理人に決定した。
 アーロンとリアムが衣装を調達し、それぞれが身に着ける。
 一番不服そうなのは女装を強いられたテイラーだ。
 夫婦と子供という設定がやはり無難なので、一番線の細いテイラーが女装することになった。
「美人な奥さんでよかったね。エディ」
 リアムの冷やかしはさらに進み、エディを巻き込む。
 エディは無表情で、テイラーは静かに怒りを表していた。
「髪を切ると処分が大変だから、とりあえず帽子の中に髪を纏めて入れよう」
 レイアは男装だが、標準の十四歳よりかなり幼い。問題は彼女の髪の長さだけだった。
 髪を切るとそれを燃やす必要がある。
 なので、帽子をかぶり、その中に髪を纏めて入れることにしたのだ。
「あ、これ揚げドーナツ」
 レイアが机の上に広げられた食料を見て声を上げる。
 リアムがセオに笑いかける。
「セオの大好物だろ?」
「そうだよ。俺もだけど、レイアも好きだろ」
「うん。一緒に食べておいしかったね」
 レイアは無邪気に笑い、セオは少し見惚れてしまい顔を赤らめる。
「さっさと食べろ。出かけるぞ」
 水を差すようにアーロンがそう言って、レイアとセオはいそいそと揚げドーナツを食べ始めた。
 先発隊ではないが、アーロンとリアムが先に地上に出て、港へ向かう。
 その後にセオたち四人が家族に偽装して、後を追う。
 城から逃げ出して、半日が経過しようとしていた。
 レイアの存在は一般的に知られていないため、捜索隊は公に組まれることはないだろうとテイラーは予測。
 けれどもセオたちのように精鋭が選ばれ、捜索されるのは予想できる。
 既にチャーリー側が捜索に動いている可能性が高いため、目立たず、素早く動くことが重要だった。 
 ★
 話は数時間前に戻る。
「レイアがいなくなった?どういうことだ?マルク」
「いないのですよ。煙のように消えました」
「ありえないだろう。そんな話」
「けれども目撃した者が誰もいないのです」
「ありえない」
 マルクから連絡を受け、チャーリーは王座から立ち上がった。
「レイアを探させる。目撃者がいないなどありえない。彼女は人だ」
「……不思議な血をもっておりますがね。あなたもその恩恵を受けて、身体能力が通常の人より高い。レイアもそうでしょう。きっと」
「そうかもしれないな。だが、訓練も何もしていない。普通の少女より多少足が速いくらいだろう。現にイザベラも特に異常なことはなかった」
 イザベラは確かに身軽で、力も持ちだった。 
 けれども、それは普通の人より少し、という程度で異常という範囲でなかった。
 森での生活を思い出し、チャーリーの気持ちが過去に戻る。
 その懐かしい記憶の余韻に浸っていたが、ふと森の民の村に連れていかれたことも思い出す。
 そしてそこで、排斥され、殺されそうになったことに思い至った。
「まさか、森の民がレイアを浚ったか?」
「……あり得ない話ではないですね。そう考えてると、協力者がいるはずです。手引きをしたものが」
「そうだな。それをまず洗い出そう。信頼の置ける口の堅いものを集めよ。その者達にまず探させる」
「承知いたしました」
 マルクは頭を下げる。
 チャーリーが背を向けたところで、マルクはにたりと不気味な笑みを浮かべていた。
 ★
「リアム。俺は嫌な予感がしてる」
「俺も。アーロン」
 四人から離れた二人は一足先に港町に向かって足を進めていた。
 森を抜け、そこから馬車を乗り継ぎ、港街に行く予定でった。
 街から街には駅馬車が走っており、定額を払えば隣町に運んでくれる。
 歩きながら、二人はセオやレイアの前でいなかったことを口にする。
「チャーリーは森の村に来たことがある。そして俺たちに排斥されたことも覚えているだろう。レイアが消えて最初に考えるのは俺たちのことだ。村に襲撃に行くのではないかと、恐れている」
「やっぱり、チャーリーは村に来たことがあるんだ。軍で来られたらまずいよね」
「ああ、やはり娘は殺すべきだったか」
「殺して一緒だよ。むしろ、新たな血を求めて、やってくるかもね」
「では、チャーリーやマルクも殺したほうがよかったか」
「うん。そうだね。彼らの周りを不死身の兵士?だっけ。それを俺たちが作って一気に襲撃すればいけるかもしれない」
「森にも念のため連絡しよう。だが、奴らが森へ動き出す前に叩く」
「セオたちはどうするの?」
「あいつらは四人で、不死身の兵士狩りをさせる。テイラーとエディ、セオでどうにかなるだろう」
 あの場でこの話をしなかったのは、レイアのことを考えたからだ。
 彼女が、自分のために、森が襲撃されると聞いたら、チャーリーの元へ戻ることを選択するだろう。
 そうなると元も子もない。
 セオも面倒なことを言いだしそうだった。
 エディもそれに手を貸すだろう。
 なぜか、エディはレイア側であった。
「そう、じゃあ、決まり。アーロン、森とテイラーへの連絡をお願い。集合場所についたら、俺たちがいないんじゃ、驚くからね」
「お前一人でやるつもりか?」
「うん。『不死身の兵士』を使う」
「俺は別に外の人間に情は持たないが、使うのは囚人にしろ」
「そうだね」
 城の機能をマヒさせる必要がある。
 手っ取りばやい方法として不死身の兵士を作り出し、混乱させる。
 その隙にチャーリーとマルクを殺す。
 
「……っていうか、俺たちやり方間違ったよね」
「そうだな。レイアを浚いながら、すればよかったことだ」
「精鋭とか、本当恥ずかしい」
「そうだな。俺もだ」
 二人は互いの顔を見て、自虐的に笑う。
 不死身の兵士を二人は初めてみた。
 人間とは思えない存在。
 それを自分たちの血が作り出す。
 おぞましいと内心思っていた。
 けれども、それを利用して城を混乱に陥れる方法が一番効果的だった。
 
 自分たちの血の悍ましさを身近で見るのは、いい気分ではない。
「じゃあ、始めよう。アーロン」
「死ぬなよ」
「死なないよ。っていうか死んだらマルクってやつに絶対にぐちゃぐちゃにされそうだ。それだけは嫌だからな。死なない。安心していいよ。アーロン」
「わかった。じゃあな」
 二人はそこから別れ、それぞれの目的地へ向かった。
 
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