セオはそれから時間を見て、何度かレイアに会いに行った。
長老から託された任務は、レイアを殺して、その遺体を利用させないように燃やすことにあった。
だから、まず彼女を連れ出し、どこかで殺す。
セオは、任務を念頭に置きながらも、ただ彼女と他愛のない話をする。
ある日お菓子の話題になり、彼女が食べたことがない揚げドーナツの話になった。
美味しそうだなあと言われてセオは、明日持ってくると言って、別れた。
「セオ。嬉しそうだな」
店で揚げドーナツを購入して、意気揚々と城に向かって歩いていると、声を掛けられた。
それはアーロンで、小さな革製の水筒を飲みながら、こちらにやってきた。酒臭い息を吐き、顔はほんのり赤い。だけど、酔ってないことをセオは知っている。
「ああ、これ、俺の大好物なんだよ」
セオは村では食べられないから、と小声で続けて笑う。
「そうか。ならいい。俺は十九年前のことを後悔している。だから今回は任務に参加した。セオ、よく考えろ」
アーロンは肩を叩いて笑いながら、近くの酒屋に消えていった。
「……任務関係なく、酒飲んでるだけじゃ?」
その後ろ姿を見ながらセオをぼやく。
けれども考えていることはレイアのことだった。
彼女のことを皆に話して、誘拐する算段を立てなければならない。
あの様子ではアーロンはセオがレイアと会っていることに感づいていた。
となると他の仲間も知っている可能性があった。
(みんな、殺したくないって思っているかもしれない。だから攫って、森に連れて帰ればいいんだ)
彼は安易に考え、皆にレイアの居場所、接触方法を伝えることにした。
★
「セオは純粋すぎるなあ」
「惚れたかもしれませんね」
赤毛に染めた髪をくしゃくしゃと触りながらリアムはぼやく。それに対して栗色の髪のテイラーは眼鏡を拭きながら答える。
部屋に残っているのは、アーロン、リアム、テイラーだけだ。この場にいないセオはレイアのことを話すと城に戻り、エディは明日の人足の仕事が早いと、港近くのねぐらに戻った。
「あいつも単におしゃべりをしていたわけではないらしい。これが娘の一週間の動きだ。血を採取するのは一週間に一度。採取した血も奪いたいところだが、そこまで欲張ると失敗する。採取した血を加工するためか、その後マルクは降りてこない。だが、夜に王が彼女に会いにくるらしい」
アーロンはセオが書き留めたものを二人に見せる。
「一応父としての愛情はあるのかな」
リアムは腕を組んでうなり、テイラーは綺麗になった眼鏡を装着して、二人に向き合う。
「どうでしょうか。愛情あるなら娘の血など採取しないでしょう。カルシア王国は強大になりすぎた。もう攻める国はありません。だけど、統治がうまくいっていないところがあるらしく、その鎮圧のために不死身の兵士を使っているみたいですね」
テイラーは集めた情報を分析する役を担っており、ずっと森の中で紙を睨みあっこしていた。
この機会に実際の目で見たいと、この任務に志願している。
「採血の日の真夜中に決行するのはどうだ?王もずっといるわけではないだろう。リアムの調べからも採血の夜、マルクは毒薬を作るのに忙しいらしいからな」
アーロンが提案する。
リアムはマルクの動きを調べていた。
けれどもそれだけで、具体的に彼が森の民の血をどのように加工して、毒薬にしているかは知らなかった。
長老も側近もその情報を求めないし、密偵の誰もが浅ましいと調べることもなかった。リアムも同じだ。’
テイラーは気になっていたが、それを一度口にして皆にゴミを見るような目で見られたため、探究心は胸の奥にしまっている。
「そうだね。そうしよう」
「明日リアムからセオに連絡。セオに娘を懐柔させましょう」
「懐柔……。セオにはそんな真似はできないと思うけど」
「抵抗しないように関係を作るだけだ。まあ、今の状態で十分だろうな。今日はセオの奴、娘のために菓子を買っていたぞ」
「あ、あれ。やっぱりその子のためなんだ」
「懐柔、されているのはセオですか」
「いいじゃない。まあ、余計なことはしそうだから。セオには娘を殺す計画は話したらだめだよ」
「そうだな。あいつは俺らが娘を助けると思って、娘の居場所を話したはずだから」
「胸が痛みますね」
「……テイラーってたまに白々しいよね」