十九年前、二五二年。
森の民の一人イザベラが、村に外の子供を連れてきた。
怪我をしていたが、森の民の掟では外の世界の人間は排除だ。
イザベラは皆の反対を受け、村を出て行った。
その後、彼女は森の中で外の子供の世話を焼いているということで、同情的であった民の一部は彼女に食料などを差し入れた。
彼女も森の民の掟を小さい時から聞いているし、子供を外に返したら戻ってくるだろう。
皆そのように考えていた。
まさか、彼女が外の子供と一緒に森を出ていくなど考えもしていなかった。
森の民は森の中で生きている。
けれども情報を得ることは必要であり、訓練を得た民が数年ごとに外の世界に行くことがあった。
外の情報を知る者は、長老とその側近の数名のみ。
十五年前から、不死身の兵士という言葉を噂に聞くことがあり、長老と側近は森を出て行ったイザベラのことを思い出していた。
十一年前、カルシア国王が処刑され、新しい王が立った。その名はチャーリー。妻は黒髪黒目のイザベラである。
その情報を得て、森の民の長老は確信した。
森の民の血が戦争に使われていると。
不死身の兵士を生み出し、イザベラが戦いに寄与していると。
百五十年前の悲劇をまた生み出そうとしているのかと長老も側近も激怒して、イザベラを殺害する計画を立てた。
その矢先、イザベラが殺された。
けれども、不死身の兵士は戦場に現れ続けた。
イザベラの死は偽物か、それとも長期保存できる技術でもあるのかと、長老と側近は密偵を送ることにした。
一人では足りないため、数人。
その中にはイザベラと一緒にチャーリーを見つけた男も入っていた。
訓練を繰り返し、外の人間に不信感をもたれないように変装する。
長く情報収集をしていた者が中心になって、数人の密偵を育てた。
そうして外の世界に数人密偵を送り、長老と側近は情報を待った。
数年かかり、彼れはイザベラの死を確認。そしてその娘がいることまで突き止めた。
「娘がいるなど、外の人間と交われば狂うはずなのに。それとも父親は狂ったのか?」
「……まれに外の世界でも我らの血を受け入れる者がいる。チャーリーとやらはそれだろう」
これ以上、不死身の兵士を生み出して、森の民の存在を気づかれては百五十年前の悲劇が起きる。
したがって、彼らは娘を即座に排除することを決定した。
そうして森の民の精鋭たちは外の世界に旅立つことになった。
★
「なんで、貴様のようなガキがいるんだよ」
十九年前に、レイアと一緒にいるチャーリーを見つけた若者の一人、今はすっかり中年であるアーロンも精鋭たちの一人であった。
「アーロンはさあ。そんな歳なのにこの精鋭の中に入っているわけ?」
「うまいこと言うなあ。セオ」
「なんだよ、うまいって」
セオの返しに、リアムは爆笑する。
リアムは二十五歳になる若者。素早い動きで相手を翻弄する。顔だちが整っているため、女性から情報を聞き出すのが得意だった。
精鋭は最年少のセオを入れて、五人だった。
アーロンは最年長で、精鋭のまとめ役。カルシア王国の王都の酒場で羽振りの良い客として、いくつもの酒場で顔を利かせている。
リアムは情報収集をずっとしていた者で、すでにカルシア王国の王城に料理人として入り込んでいる。
エディは三十歳。力が強く、無口だ。カルシア王国の王都では港で人足として働いている。
テイラーは田舎から王都に仕事を探しにきたという設定であり、今回は初めての王都だった。
最後にセオ。彼は変身が得意であり、体がまだ未発達のため、女装が得意である。王城では洗濯の下働きの一人だ。歳が近い方が、油断されると考え、今回セオが抜擢された。彼は体術も天才的で、走るのも得意。バレた時に最初に逃げ出せるだろうと十四歳ながら、精鋭の一人に数えられた。
全員が外の人間であるふりをしており、髪色は茶色、栗色、赤茶など色を染めている。また森の民の血は外の人間を狂わせるため、出血には気を付けており、最悪の場合は後に何も残らないように体を燃やすように長老から言われていた。
五人が王都に侵入し、それぞれがレイアの隠れ場所を探すために奮闘する。
セオは毎日花の鉢を大量に地下に運びことに気が付き、後を付けた。そこでレイアを発見したのだ。
黒髪に黒い瞳。
森の民の色彩であったが、その肌の色は真っ白でウサギのようだと思ってしまった。
一瞬で心を奪われ、口が開くのが遅くなってしまった。
レイアは警戒心がないまま、セオの問いに答える。
その純粋さにセオは心惹かれた。森の民の娘も外の人間に比べるとかなり純粋な部分もあるが、レイアの場合、それに輪をかけた感じだった。
誰かがやってくる音がして、慌てて会話を打ち切る。
名乗るなど馬鹿なことまでして、セオは地上に戻る。
精鋭としてはヘマをしているで、このことをセオは誰にも言わなかった。本当はヘマとかではなく、仲間に話して彼女が殺されるところが見たくなかったかもしれない。
そんな考えが過ったが、気が付かない振りをして、洗濯の仕事に戻った。