壁を頼りに一歩一歩を進んでいくと、すっかり闇に慣れた瞳がキッチンの食卓を捉えた。だぶつく袖を捲って入り口にあるスイッチに触れる。一瞬だけ考えて、結局押した。無機質な光にパッと照らされたテーブルの上に一つ、黒い革鞄が置かれている。彼のものだろうか──抜け出した寝室へ視線をやった。まだ眠っている。心臓がどん、どん、と規則正しいアラームのように鳴っていた。手が知らず胸のあたりを掴む。意識して深く息を吸った。
 鞄を手元に引き寄せて横倒しにする。光を反射している艶がチューブから出したばかりの絵の具のように濃い。メンズの鞄に興味を持ったことはほぼないが、なんとなく高そうだと思う。思いながら、蓋を留める小さな金色へ映りこむ窮屈そうな自分へそっと指をかけた。
 長い蓋を卓上へ流し、鞄本体の形が変わってしまうほどぐっと開く。中身へ手を突っ込んで、引っ掛かりのないさらっとした生地を滑る。中全体に手のひらを押し付けて漁る──何もない。ならばと少し窮屈なポケットの中身に指を入れる──やはり何もない。そうしているうちに爪の先が隅の行き止まりに辿り着き、ぶつかった。思い切って鞄そのものを持ち上げ、さかさまにする。舌のように長く落ちる蓋の金具がテーブルに当たらないように注意しながら、何度か縦に振ってみる──ホコリの一つも出てこない。数回繰り返して、やがて力なく机上に鞄を置いた。──ないんだ。呼吸が加速していく──これじゃないんだ…。その部分だけくりぬかれたように胸が痛い。おぼつかない手つきで蓋を閉じ、覚えている限りで元の状態に戻した。
 仕事用の鞄じゃないなら、外出用のものだろうか。ふと思いついた予想に、視線がリビングと地続きになっている廊下の暗がりへ動いた。ポールハンガーらしきものがある。そして、そこへかかっているリュックサック。少し大きめで外側のポケットが多い、アウトドア専門店でよく見るようなデザイン。在学中に何度も見たそれをじっと観察する。今も使っているとしたら、きっとその中だ。私は足を動かした。湿った素足の裏側をフローリングから剥がすような丁寧さで一歩一歩を進む。
 暗闇のなか手探りで見つけた長袖のTシャツはどうやら相手のものだったようだ。歩く度、太ももを長い裾の端がさらさらと中途半端に擦る。春の陽気は未明のマンションの一室には未だ届かず、暖房もついていない屋内は冷え切っている。寒さか緊張か、両足の骨と筋肉が今にも外れてしまいそうなほど震えていた。噛み合う角度を間違えたらそのままばらばらになってしまいそうな関節に、入らぬ力を懸命に込めて座り込むのを我慢する。照明が床に重く落ちているカーテンと自分の足元を照らしている。バレてはいけない。バレたら終わりだ。バレたら見つからないところに隠されるかもしれないから、その前に絶対見つけるんだ。早鐘のように鳴っている心臓が鼓膜をぐわんぐわんと覆っていく。脳内にまで響き渡るそれに視界まで揺らいでいくような心地がした。焦ってはいけないと呼吸を深く諫めながらも、しかし刻一刻と時間は経過している。
 ようやくたどり着いたリュックのチャックがなかなか掴めなくて、うう、と情けない声が喉の奥で鳴った。しゃくり上げてしまいそうなそれらを殺しながらほんのわずかな金属の板に縋りついて、ジッパーを何回かに分けて少しずつ開けて中に手を入れる。どうやらこちらにはいろいろなものが入っているようだ。様々な感触のものが手に触れる。ペンケース、ノート、財布らしきもの。私は思い切って吊りひもをポールから外して床に置き、自分もそこに座って上から中身を覗き込んだ。一番可能性が高いのは、きっと財布だ。
 逸る気持ちのまま財布らしき四角い入れ物を手に取った。フェイクレザーが手汗でぺたりとくっついてくる。ジッパーを操作すると、ぱかりと真ん中から開いた。開くなり現れた数枚の札にハッと息を呑み、顔ごと視線を逸らす。思い付きの希望に縋ってなりふり構わず行動している自分に、20数年を共にしている良心がここで歯止めをかけた。
 他人の貨幣、それも同じ屋根の下で学び、言葉を交わし、絆を育んだ相手の荷物を無断で漁り、財産に触れている。私は廊下へ落ちた視線の方向を改めて財布へと定めた。これの持ち主である、かつて友人だったその人物と出掛けるときは、いつもこの財布だった。
 ──罪悪感に苛まれながらすっかり温度の失せた指で薄いポケットに収納されていたどこかの店のポイントカードのような一枚を抜く。続けて、どこかの病院の診察券。図書館のIDカード。免許証。そして、ナンバーカードとクレジットカード。ぱらぱらと薄く硬い音が辺りに散らかっていく。
 ──多分、この部屋は鍵じゃなくてカードキーで施錠している。だったらこういうところに保管しているかもしれない。
 私は探した。それがこの状況から抜け出す唯一の道具になる、なるはずであると、確信ではなく希望、希望よりももっと頼りなく脆弱な、これはいっそ祈りかもしれなかった。私は一心に祈りながら、本当にそこにあるかどうかも分からないその一つを探す。そのカードキーとはここから出るためのもので、突然与えられた不自由さからの解放で、一方的に与えられる愛情、その肉体的および精神的苦痛からの救済で、それが生きている間に得られるかもしれないという明るい展望を持つことのできる唯一の希望だった。
 
 何もかもが制限された自由のない現状に残された唯一の光。未だ眠っているであろう、もはや友と呼べるかどうかも分からなくなった人物に気づかれぬよう、その吐息の震えが僅かでも空気に伝わらぬよう、身体中に力を込めて呼吸を繰り返す。──ない。ないかもしれない…。己の眼球がさあっと乾いていくのを感じながら、いやしかし、ととうとう札束を全て抜いてカード類と同様に廊下へ置いた。──ない。小銭のポケットも空にする。──ない……いや、まだ。はあ、はあ、と忙しなく荒い呼吸の音を聞きながら、またリュックの中身を見る。──まだ筆箱は見ていない。外付けのポケットだって確認していない。まだ可能性はある。まだ諦めちゃ駄目だ。もうちょっとだけ頑張ろう、まだチャンスはある──己を鼓舞し、希望を捨てないよう懸命に言い聞かせている私の後ろから、ふと、声がした。
「──何してるんだ?」
 心臓が凍りついた。
 瞬き、探る指先、思考回路、呼吸。生命として活動していたそれら全てが機能を止める。嫌な汗がぶわっと噴き出て、全身へじっとりと流れていく。急激に喉が渇いて、気道の奥が張り付いていくような感じがする。静止したまま動けない私へ、後ろからさらに声がかかる。
「誰もいないからびっくりしただろ」
 あくびで間延びしそうな声を噛み砕きながら、その人物が近寄ってくる。スリッパが軽く床を擦る一歩一歩がだんだん大きく聞こえてくる。そして、今度はすぐ後ろの頭上で声がした。
「何か探してるのか?」
 リュックの空っぽを見つめながら切り抜ける手段を探す。言い訳。説得。懇願。謝罪だけはできないと思った。だって、何も悪くないから。自らの取れる行動と取りたい行動と取るべき行動、その狭間で俯いている私の足元に財布とその中身が無造作に広がっているのを確認したのであろう人物は、「ああ」と納得したような声を出した。
「なんだ……何か欲しかったのか?」
 軽い調子で問われ、しかし真っ白な頭では何も返せない。途切れた糸の先が続かないように、思考回路が空白になっている。男の手が右肩を包んだ。広く厚い手のひらから伝わる重さと温度にぎくりと身体が強張る。それをなだめるように相手の手が私の肩を撫でる。
「何が欲しいんだ? 服? アクセサリー? 前、一緒に見た映画のBlu-rayは買おうと思ってたんだけど……あ、美容器具とか?」
 ショッピングを楽しんでいるような台詞に首を振った。耳鳴りがする。黒いリュックサックの空っぽから視線を動かせないまま、私は小さく呟いた。
「帰りたい」
 やっと発することのできた声は酷く上ずっていた。男の手が止まり、そうかとだけ呟いて、今度は背中を撫でる。外に出た感情と自分の内に残ったままの願望が繋がって、涙があふれた。
「帰りたいよ……」
 リュックの開き口と、それに縋っている自分の手の輪郭が滲んだ。喉が上の方だけ詰まって、う、とかひ、とか言葉にならない音が出てくる。ままならなくなった呼吸からひっきりなしに嗚咽が漏れ出した。水滴が一つ二つと目の前の暗闇へ吸い込まれる。男は「そうだな」と声だけで私の言葉に同調した。
「突然連れてこられて、出られなくて……そりゃ、怖いだろうさ」
「──うっ、うう、うああ……っ!!」
 感情をそのまま口から吐き出した。相手の不可解な言動に強い怒りと悲しみ、不信感を抱く一方で、不安や緊張、恐怖と絶望に寄り添う声に大きな安心感を与えられ、もはや何がなんだか分からなかった。
 大学を卒業して就職まで決まっていた自分をこの部屋に連れて来て、ここで自分たちと暮らすと言って、勤めるはずであった企業の契約を破棄したと言って、ここに、ここから出すことはできないと、そう言って、自分の疑問にも懇願にも応えず人としての尊厳を奪ったのは、誰だったか。
 私の身体は重みにしなだれる柳のようにへたりこんだ。リュックから離れた両手でとめどなく溢れる涙ごとその顔を覆う──こんな仕打ちをしておきながらどうして、まるで慰めるように感情を共有し優しい言葉をかけるのだろう。こんなに意味の分からない態度をされるならいっそ物のように扱われる方がマシだ。
 思いながら、涙で濡れた顔を持ち上げ、重みを感じる肩から背後を振り返る。共に学生生活を過ごした体格の良い黒髪の友人が、痛ましいものを見るかのような表情をしている。アルベルト、と私は友の名を口にした。
「なんでなの」
 困ったように微笑んだアルベルトの表情に、私はさらに混乱した。とにかく理由が知りたかった。友情。親愛。尊敬。信頼。自分とアルベルト、またかつて恩師であった人の間にあったかけがえのないそれらが脅かされるに値する恐ろしい出来事が彼らに迫っていると仮定したかった。それが理由で自分をこんな目に遭わせているのだと、そう思いたかった。
「先生も、なんで、なんで二人とも──」
 思い出す。二人とも止めてくれなかった。嫌だ、やめてと何度も言った。そのときも理由を探した。大きくて動かない暗がりと身体を這う手から伝わる感覚に目を回し喘ぎながら謝罪もした。自問から心当たりのない自らの罪を予測したからだ。自分が悪気なく彼らを傷つけてしまったのかもしれない、そう思って謝ると何故謝るのかと逆に問われた。絶句した。では、自分が受けているこれは一体なんなのか。
「わ、わたし、わたし」
「うん……大丈夫、大丈夫だ」
 アルベルトは少し前のめりになって横からこちらを覗き込んでいた。その口元は変わらず微笑んでいる。重たげな瞼の下の黒い瞳はやはり、こちらに同情の視線を向けている。少し困ったように──笑っている。努めて変わらない穏やかな雰囲気に恐ろしさがいっぱいになり、精一杯その身体を突き飛ばした。腕を突っぱねて、全力で相手の胸を押す。相手はよろめくこともなく、ただ「おっと」と少し驚いたような声を上げた。そのまま、軽い調子で私の名前を呼ぶ。
「話ならあとでゆっくりしよう。とりあえず一旦部屋に戻らないか。それ一枚じゃ寒いだろ」
 ──な。こちらへ語りかけてくる何もかもが怖くて、泣きながら肩を丸ごと包んでいるように連なっているアルベルトの指に爪を立てた。分かった分かったと相手が私を横たえるように解放する。力の入らない手足で必死に床を移動しながらやっと立ち上がり、たった数mの距離を一生懸命に駆け身体ごと玄関に張り付いた。
「誰か助けて! 助けてください!」
 精一杯、拳でドアを叩く。ばんばんと手の平を打ち付け叫びながら、どうしてこんなことになったんだろうと頑なな隔たりの前で泣きじゃくった。私たちは仲のいい友人で、先生は本当に良い先生で、幸福だったのに。アルベルトと比べてちょっと理解の遅い私は、彼や先生に爪先の数センチでいいから近づきたくていろんな本を読んで、そんななかでばらばらに得た知識が繋がったときが嬉しかったりして、それを二人に話して、楽しくて、充実していた。お互いがお互いを尊敬して、下に見たり変に捩れた見方なんかもしなくて、ただ本当に本当に、私たちは楽しい時間を共有していただけだったのに。どうして、どうして。
 思い出は未だ暖かく色づいている。本と天球戯の研究室。等間隔に並ぶ湾曲した講義机。その近くにあった自動販売機。そう言い出したわけでもないのに、三人のうちの誰かが疲れているように見えたときは、それとなくその人へ飲み物を差し入れした。缶コーヒーは先生。炭酸系はアルベルト。私はミルクティー。おつかれと言って、頑張ってるねと互いに励ましあった、その善意に。これまでの信頼に。ここまでの私たちの交わした親愛に、私が見つけられなかった不満や不備が生じていたのだろうか。二人が、私に対してここまでの加害を与えようと思ったきっかけは、どこにあったのか。次々に沸いてくる疑問と推測、疑念と後悔。濁流のようなそれらに成す術なく沈み込んでいる私の名前をアルベルトが鋭く呼んだ。バン!と金属を強打する音と同時に、腕がじんとした。
「やめよう。怪我するぞ」
 ほんの少しの切実さをにじませた声と共に私の片腕が掴まれた。同時に、キッチンの明かりで照らされているドアに影がかかる。怖くて逃げたくて、阻むドアへ額を押し当てる。助けて、と口の中で繰り返す。アルベルトが参ったな、と背後で軽くため息を吐くのが聞こえた。ため息だ。これだけ絶望に浸っている私の苦しみも痛みも、彼にとってはため息程度でやり過ごせるものなのだ。悲しみと怒りでやりきれない。ドアに腕を滑らせながら、土間の上へと膝から崩れ落ちた。下着のないままの尻や太ももが無愛想に冷たい石の土台に落ちた。
「うっ……うう、く……!」
 拭っても拭っても止まらない涙を拭い続けている私の傍らにアルベルトが膝をついて、また名前を呼んだ。控えめな声量として調節されたそれはどこまでも優しい。彼が改めて背中に手のひらを当て、ゆっくりと上下させる。
「部屋に行こう。まだ早いし、一度眠ったほうがいい」
「やだ……! いやだ……!」
「そうか……うーん」
 気は進まないけど、仕方ないかな。続いた言葉に嫌な予感がして顔を上げると、いつの間にか手にしていたコップで水を仰ぐアルベルトが視界に入る。その様子に困惑していると突然、私の顎全体が相手の親指と人差し指に掴まれて、そのまま顔をぐいと上げられた。そして恐怖と驚きで中途半端に開いているこちらの唇に吸い付く。
「う……!!」
 厚みのある唇から流れてきた生暖かい液体で口腔内がいっぱいになる。顎に与えられていた圧迫感はいつの間にか後頭部へと位置を変えていた。髪の毛に埋まる骨ばった指先が、この頭蓋を地肌ごと固定する。懸命に顔を振って離れようとするが、つむじから首に全体を覆う広い手のひらがそれを一切許さなかった。
 息ができなくて苦しい。我慢できず喉いっぱいに溢れそうなそれを反射的に嚥下すると、小さい粒のようなものが舌の奥のほうへ流れていくのを感じとった。何かを飲まされたと気づいたそのとき、ようやく片手が自由だったことを思い出した私は思い切りそれをアルベルトの重い体躯に叩きつけた。
「んん! んう…!
 アルベルトは唇の角度を変えてさらに深く口腔内へ押し付けてくる。舌でゆっくりと歯列を舐め取り、こちらの舌に絡みつく。ちゅう、という吸引音と自分の吐息の混じった声が聞くに堪えないほど恥ずかしくて、悔しい。すっかり力の抜けた片手はもう何の抵抗もできなくて、ただ相手の胸元を掴むことしかできなかった。
 どちらのものとも取れぬ吐息が重なる最中、アルベルトの唇がふと離れる。それ以上の行為を回避するために顔を真横に向けると、今度は露わになった首筋にアルベルトの顔が沈み込んできた。忙しなく湿った息づかいが熱く皮膚に染みこむ。ちゅ、じゅっという水音と同時に、ちくりとした痛みと甘い痺れがそこに走る。それが行為の始まりになるとよく教え込まれた身体のせいで、素直に肩がぴくんと跳ねた。
「ひっ、うっ、うぅ〜……!」
 アルベルトはもはや姿勢を保つことも難しくなった私を上手く支えてその身体に抱いた。薬のせいか突然の刺激のせいか、頭がぼうっとしている。顔が熱い。瞼が重い。肩で息をしていた忙しない心音が、だんだんゆっくりになっていく──眠い。
「うん。ちゃんと飲めたみたいだな」
 指先でこちらの顎を上げ、胡乱な私の瞳を見たアルベルトがそう告げる。途切れそうな意識のなか、せめてとそのにこやかな顔を睨みつけた。閉じそうな瞼に力を込めて、眦をぐっと吊り上げる。アルベルトはしばしそれを眺めると、うっそりと重たい瞼をさらに落として笑みを歪ませた。
「あまりそういう顔をしないでくれ」
 何かしたくなる。耳から侵入した吐息と低い声が身体中に痺れて肩が竦む。押し当てられた唇の弾力から伝わる熱が脳髄に甘く流れ込んできた。ひいと喘ぐ呼吸が早くなって、でもすぐにゆっくりと落ち着いていく。こんな急激な身体の変化は確実に薬のせいだ。浮遊感とも呼べる強い眠気に逆らえないまま目を閉じる。よりによってアルベルトの胸に寄りかかる姿勢に落ち着いてしまう。しかしもはや指先の一本も動かない。
 アルベルトの手がくたりとしている私の頭を自分の胸に寄せる。指らしきものが頬を行ったり来たり撫ぜるような動きをしている。拒みたい反発心とは裏腹に、相手の指から伝わるささやかな刺激や温度がじわっと身体の内側に広がって、意識はどんどん落ちていく。
「『怖い』か……」
 呼吸はほぼ寝息に変わっていた。すう、すう、と規則正しい息の音をバックに、アルベルトの声がちょうどよくこちらの鼓膜を震わせる。少し身体が持ち上がり、何か温かいものがこめかみに触れた。
「こんなやり方しか選べなくて悪いな。でも時間が経てばそのうち慣れる。僕たちはただ君を愛しているだけなんだ」
 だから今はおやすみ。そんな囁きに耳を澄ませる。あれほど感じていた焦燥も恐怖も混乱もすっかりなくなって、意識がただ深く沈んでいくばかりだった。肩から落ちるように投げ出された手が丁寧に腹のあたりへ戻される。その手の触れる優しげな刺激にまた眠くなる。瞼は糊で閉じられているように開かなくて、全ては暗闇に包まれている。それはまるで棺桶に入れられる直前のよう。アルベルトが歩く度に伝わる振動が心地よい。もはやどうすることもできない。私は諦めてその体温に額を寄せ、吸った息を深く吐いて意識を手放した。
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chi.のアなどに監禁されてふと夜に目が覚めた夢
初公開日: 2026年01月01日
最終更新日: 2026年03月19日
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コメント
chi.のアなどに監禁されてふと夜に目が覚めたときの夢小説です
名前固定夢主:佐々木百合
100字書いたら終わります