〇ワンライ「指輪」
・お兄さん視点、大学生×社会人
・以前、お兄さんが旗野くんの薬指を噛む話を書かせてもらったので、今回は指輪は物理、旗野くんが欲しがる、色気のない話?
・冒頭は思いついたけど、オチは書きながら考えます
集中力切れてきました、終わりかな?終わりでいいです???
これで誤字脱字だけまたチェックして終わりにします~!
ありがとうございました!!
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「今日、指輪を買いたくて」
背後で子供が走り回る音が先程からやまない。誰かが皿を落として悲鳴が上がった。
休日の昼前、賑やかなフードコートで向かいに座った旗野くんが突然言い出した言葉を、すぐには理解できなかった。
ゆびわ。指輪? 俺の知ってる、指にはめるあれで合ってるか?
「そうなんだ」
「はい、このあといいですか?」
いや、老若男女が騒がしく行きかうフードコートで、ラーメン半チャーハン付き、唐揚げ三個セット食べながら聞く話じゃねえんだわ。
平静を装いながら麵をすする。箸を持つ手が不自然に動かないよう細心の注意を払いながら、唐揚げを食べて時間を稼ぐことにした。旗野くんは平然とチャーハンをレンゲで掬っているが、麵伸びるだろ。
いや、なんでいきなり。指輪って、俺たちにはまだ早くないか? 結婚とか? パートナーなんとかとか? え、この子、大学生だろ、働いてもないのになにを一足飛びに、こういうことはちゃんと段階を踏んで、だな。
「東條が」
あ?
「この間言ってたんですけど、大学でちょっとあって」
なにを言われたって? 東條くんの名前に少し冷静になりながら、唐揚げを咀嚼する。
「大学で、ちょっと?」
「はい、大したことなかったんですけど。居合わせた東條が、指輪でもしておけば牽制になるって」
ちょっとの内容が大変気になるところだが、それはあとで聞くことにしよう。
ああ、はい、なるほど。話が見えてきた。
「ペアリング? とかっていうのがあるから、とりあえず指輪をしておくといいって言われて」
東條くんの思惑が透けて見えて幾分面白くない気持ちで箸を伸ばす。
「旗野くん、唐揚げとそれ、交換して」
「え、はい」
三枚ある油淋鶏を一枚、返事より先に取り上げる。
「東條くん、指輪でもしてた?」
「そうです。最近もらったとか」
完全に余計なおせっかい確定である。
しなびたネギとしょっぱすぎる味付けに眉を寄せながら、油淋鶏を飲みこむ。
俺も旗野くんも普段アクセサリーを付けるタイプではない。浮かれた東條くんを見て羨ましくなった? ただ、牽制のためにあったら便利そうだから言ってるのか? それとも恋人だからペアリングぐらい、っていう?
「それで、どういうのが欲しいの」
「とりあえず、付けられればいいので」
……うん?
「どこで売ってるかもよくわかんねえし、買ったことないから付き合ってもらえると有り難いです」
「予算は?」
「いくらぐらいなんですかね」
どうにも、先程から服でも見に行くみたいなテンションなので、確認しておくことにした。勘違いだったら居たたまれないので、確実にわかっていることから尋ねる。
「旗野くんが付ける指輪を、買いに行くんだよね」
「はい、そうです」
……俺の分はない、で正解らしい。
昼食を終えショッピングモールの案内板をじっくり見てから、ご所望の指輪を買いに行くことにした。
俺もまったく門外漢なので、フードコートにいるうちにスマホで大体の値段、学生が付けていておかしくないブランドを調べたうえでだ。なんで俺が調べてんだよ。
該当ブランドのショップが入っていたので、遠目に見てみたところ、さすがBL漫画の世界、男二人組も男女二人組と同数程度いたので、俺と旗野くんが入ってもなんら問題なさそうである。
数千円の、付けていて違和感のないシンプルなデザインのものを探してあげればいいだろう。
照明の強い店内に入り、ショーケースに並ぶ数えきれないアクセサリーに目が眩みそうになる。
ケースの端の一角に男性ものの指輪が並んでいた。そう大して種類はないし、選ぶのに時間はかからないだろう。
目立つ位置に置かれているリングをケース越しに指で示す。
「その辺の飾りもなにもないやつの方が、邪魔にならないんじゃない」
「そうですね」
どうでもよさそうな返事だ。特にこだわりはないのだろう。
「何色がいいとか」
「いや、特には。普通、何色なんですか?」
指輪をもらったことも贈ったこともない俺に訊かないでほしい。よく見るのはシルバーのリングだろうから、とりあえず試してみて違和感がなければそれでいいだろう。どうせ牽制であって、俺は関係ないわけだし。
近くにいた店員に声をかけ、シンプルなリングを見たい、といったところ、目に付いたシルバーのリング以外にも、色違いで三点ほどトレイに並べた状態でショーケースの上に置かれた。
サイズを聞かれた旗野くんは、口を開けてしばし考えこみ、隣の俺を見てきた。
「サイズって」
俺に聞かれても知らない。
俺が店員に視線を返せば、このあたりでどうでしょう、とシルバーのリングを旗野くんに差し出す。
旗野くんがその指輪を受け取り右手の薬指にはめた。まあ、牽制だからな。左じゃないよな。
さすがその道のプロの見たとおり、サイズはちょうどよいらしい。本人はなんの感動もなく、薬指にはめた指輪を眺めている。店員が、同じく飾りも素っ気もないデザインのゴールド系のリングをトレイに並べていく。
「とりあえず順番に付けてみなよ」
シルバーのリングを外して次に付けたイエローゴールドのリングは、ちょっと目立ち過ぎるな。
「次、そっち」
ピンクゴールドの指輪は少し女性向きかと思ったが、旗野くんの指におさまったところを見たら、意外と似合っている気がした。いや、シルバーが似合わないのか?
「こっちの方がいいんじゃない?」
「そうですか。よくわからないんで、アンタがいいって言った方を」
「いや、自分のでしょ。ちゃんと選びなよ」
トレイに置かれたままのシルバーのリングを取り、旗野くんの空いている人差し指にはめてみる。あれ、薬指より太いのか、途中までしかいかないな。
「あの……」
「やっぱり、そっちの方がいいって」
「……ど、っちですか」
「ピンクゴールドの方。旗野くん、シルバー似合わないよ」
気恥ずかしそうに視線を落とした旗野くんが、しばらくして、こっちを買います、と言ったので、買い物はつつながなく終了しそうだ。
旗野くんが外した指輪の値札がトレイの上で裏返る。思ったより安いな。
「予算におさまってる?」
「はい、大丈夫です」
「そっか。買ってあげるよ」
「は……」
「今度買うときはもっといいの買ってあげるね」
「……え、今度、って」
目を白黒させた旗野くんのことは放っておいて、カードを出しさっさと会計を済ませることにする。プレゼント用にしますか、なんて言われたけど別に牽制用だから要らないな。そのまま勝手に持って帰って勝手に付けてればいい。
固まったまま、今度って、と繰り返す旗野くんが顔を赤くしていたが、気づかないふりをしておくことにした。
後日、東條くんとばったり会ったときにやたら視線が手に向けられていた気がするが、そのことについては俺の預かり知るところではない。