死にかけた老人のように最後に息を吐きだして、その筐体はそれきり動かなくなった。筐体のスリットからはもう冷風は流れてこず、伸びたホースからはもう一滴の水もこぼれない。
「またひとつ……御神体が死んだか……」
 悲しみに頭を垂れる村人たちを代表するように村長が言う。
「これ以上御神体を失えば、もうこの村も……」
「神は、御神体は……正常に機能している御神体はあといくつ残っている?」
「もうあと十数体しか……。それらもいつ機能停止するか……」
 さざなみのように広がる村人たちのつぶやきはいずれも悲嘆を含んでいるが、涙を流すものはいない。――涙を流す余裕すらないからだ。彼らの体内には。
 ここに集まった数十人の村人たちのだれもが、十分な水分を採れてはいない。
 天からの恵みである雨はもはや過去の記録に記された「異常気象」であり、河は赤茶けて乾いた大地の上にその痕跡をわずかに残すだけ。
 かつて「日本」と呼ばれていたこの土地から――国としての機能はすでに失われている――四季が失われてから久しい。一年を通して40℃を下らない異常気象が日常となった、ここは不毛の地である。
 村長はまだかろうじて機能を保っているビルの壁を見上げた。そこにはこの集落(クーラント)が代々使い続け、合わせて周囲の廃墟からかき集め、場合によってはほかの集落(クーラント)から争いの末に奪い取ってきた空調機が、いつ途切れるともしれない低い唸りを上げながらかろうじて機能している。
 この空調機が、この異常気象の中でかろうじて人間日生活できる温度を提供しているのだ。
 そしてこの空調機の群れが人々に提供しているものがもうひとつある。
 すべての空調機からは長いホースが伸びており、血管のように絡まりながら壁の下に集まっている。そしてすべてのホースの先には金属製の容器が置かれていた。
 ぴたん、ぴたんと容器の底を叩く雫は、そのままこの集落(クーラント)に暮らす人々の命そのものだ。人々は空調機からもたらされる決して十分とも衛生的とも言えないこの排水を、貴重な水源としているのだ。
 容器に溜まった水をそれぞれの家に持ち帰るのは女の仕事だ。朝の定例集会が終わった後、女たちはこぞって空調機の下に集まり、祈りの言葉を捧げながら容器を運んでいく。
 しかし――女たちの表情は一様に沈痛だ。毎朝こうやって排水を運んでいる女たちがいちばん、次第に排水の量が少なくなっていることをよくわかっているのだ。
 村人たちが各々の家に戻っていく中、集会所には村長と副村長だけが残っていた。
「村長、このままでは――」
「うむ、わかっている」
 かつて多くの集落(クーラント)がそうであったように、空調機の機能停止はそのまま集落(クーラント)の全滅を意味する。今この瞬間も、この場所は廃墟へと成り果てようとしているのだ。
 副村長の言葉に、村長は深く刻まれた顔の皺をさらに深くして黙考する。
「――修理人を探してくるしかない」
「修理人ですと!? あの、失われた前世紀の技術を持って御神体を復活させてくれるという?」
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紅楼夢表紙お礼SSを書いていきます。
初公開日: 2025年10月18日
最終更新日: 2025年10月18日
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