今日は昨夜の夜から頭痛が続いてて昼過ぎまでへばってました。気圧のせいか?
なんとか具合は良くなってきたものの、なんだか今日から明日にかけてまた天気が崩れそうなのでぐんにょりといった感じ。
しかしもう6月も終りが見えてきているので、ラスト2冊の例大祭新刊レビュー行きます。
・ムガムビル10(薬味さらい)
ついに来ました2桁の大台! 箔押しのタイトルロゴも眩しい、記念すべき10冊目の総集編です。今回も既刊5作+恒例の描き下ろし+カバー裏という構成。今回は今までと比べて異色作が多かった感じなので、描き下ろしでどんなふうにまとめられるのか楽しみに読ませていただきました。
それでは収録作ごとに感想を。
・さくにゃえ
なんだかんだで仲良しな印象がある早苗さんと咲夜さんですが、本作はそんな二人と一匹のネコチャンのお話。
まず最初に言っておきたいのは、本作は「薬味さらい」作品通して咲夜さんの照れ顔が拝める唯一(たぶん)の作品!! 本サークルさんの幻想郷における咲夜さんは一貫してクールかつ瀟洒、そしてなんか全体的に主たるレミリアお嬢様をナメ切ってるという印象でしたが、記念すべき節目たる総集編10巻の最初のお話で赤面顔を拝めるとはありがてえありがてえ。いわゆるギャップ萌えというやつです。でもまあ相変わらず猫の餌(人間型)作ったり猫耳装備してたり毛玉吐こうとしてたり変な人ではあるんですよね……。
本作では咲夜さんと早苗さんが1匹の迷い猫の世話をしつつ、その猫の将来についてそれぞれ色々考えるお話となっています。つまりは、このまま妖怪化してずっといっしょにいてほしい、あるいはただの猫のまま寿命を全うしてほしいというふたつの考え。これはもうそのまま二人の自身の立場の反映ですよね。人間としての一線を越えて現人神となった早苗さんと、人間としての一線を越える選択をせずに「一生死ぬ人間」であることを決めている咲夜さん。
もちろん、どちらかが正しいというものでもありません。しかし迷い猫はある時を境にふと姿を消し、その答えが出るかと思いきや――。
いわゆる神や妖怪といった者たちは人間の理外の存在であり、人の理に縛られていないからこそ神や妖怪たりえるわけですが、本作における迷い猫もまた、世話をしてくれる人間の思惑なんてどこ吹く風といった感じで生きている理外の存在なのだなあと思いました。マイペースな生き物だからなあネコチャンは。
あとナチュラルにヒエラルキー最下層に位置する諏訪子さまに幸あれ。あとパッチェさんが猫で虐待されててわろた。
・ビフォア・ザ・レインボウ
妖怪や神は確かに強大な力を持つ存在ではあるものの、その力は不変ではありません。時には信仰や力を失い落ちぶれてしまうこともあります。
本作では虹龍洞ラスボス・天弓千亦の力を失った状態の前日譚を描きます。
「力を失っている描写」はいろいろですが、本作における千亦の姿は、元の姿である派手派手なカラーリングを活かして「服はくすんで色を失い、さらにカラフルに色分けされていた衣装はツギハギ状態になっている」という描写でひと目で力を失っていることがわかるデザインになっているのが芸術点が高いですね。さらに千亦は市場の神であることから、それが落ちぶれ果てて仕方なく身を寄せる場所が貧乏神である紫苑のねぐらというのがまた説得力を感じます。二人でわびしい食事をもそもそ食べてるコマのわびしさたるや。
そもそも千亦は「市場の神」なので、考えてみればその強さ=市場価値が変化するのも当たり前という気がします。そういう意味でも、千亦は本作で「本来の姿」と「落ちぶれた姿」のふたつの姿があるのには作劇的説得力を感じますね。
そして、そんな力を失って落ちぶれた神である千亦が憧れるのが、やはり同じようにかつてはライバルに負けて力を失いながらも今は大いなる虹を背負う八坂神奈子というのも必然性がつながっていていいですね。この辺には二次創作の大きな楽しみである「原作では直接的な関わりのないキャラの絡みの面白さ」を感じます。
力を取り戻したあとの千亦が、「財禍から守ってくれる神」としての貧乏神である紫苑との暮らしを振り返るシーンが印象的です。
・三色市場
思えば市場、つまりビジネスというのもある意味ではバトルなわけですよね。というわけで本作では、神・人・妖の三者によるビジネスバトルが繰り広げられますがヤクザが介入してきたり幻想郷の暴力装置たる博麗の巫女がヤクザをしばきあげたりとにわかに漫画ゴラクっぽくなってきてわろた。あとケロちゃんが市場爆破を試みててわろた。
さて、東方二次創作においては各キャラの持つ「〇〇する程度の能力」の解釈をキモとする作品も多くありますが、本作ではミケの持つ「お金かお客を招き寄せる程度の能力」の解釈が実に見事。
薬味さらいさんの作品では、それほど強くないレベルの妖怪が能力の意外な使い方で騒動を巻き起こしたり大きな事件を引き起こしたりするイメージがあるります。しかるに本作ではこの能力を利用しようとした典の目論見通り市場では過剰な金の流通が起こり、それによる利益争いに発展しますが、後半では貨幣経済によって成り立っていた市場が物々交換という原初のビジネスモデルに戻ってしまったことでその目論見は外れてしまうというこの流れはしっかり「能力の解釈」という筋が通っていて見事。
あと改めて読み返してみると、この話においてミケは文字通りのマスコットとして担ぎ上げられ、文字通り座ってるだけで、別に能動的に事態を引き起こしてるわけではないんですよね。この辺に「招き猫」としての能力の大きさを感じたりもします。
・レインボーマカン
さすがは紅魔館の主レミリアお嬢様、おれたちにできないことを平然とやってのけるッ そこにシビれる! あこがれるゥ!
というわけで紅魔館は虹色に光り輝くレインボーマカンと成り果ててしまいました。なんでだよ?
そんな愉快な紅魔館改めレインボーマカンでは、めーりんがきゅっとしてドカーンされたりおぜう様がロイフレ食らったりパッチェさんがまたも猫で虐待されたりといつも感じとも言えますし、いつもの感じとも言えます。うぁぐぐぐぉおあぇ!
おぜう様が突発的になんかおかしなことやってはひどい目に合うor紅魔館爆発というのはもはや東方二次創作における様式美のひとつとなってしまった感がありますが、本作はその流れに忠実に描かれた作品だと言えるでしょう。
あと咲夜さんの主を主とも思わない言葉の数々は彼女にとっては一種の愛情表現なんだろうなあ……。そう思うと本作は濃厚なレミ咲なのかもしれない。
・ミートメイトミート
出ました広義のグルメ漫画。
今回はモキュメンタリーの形を取って、人間の里における「妖怪の配給食」をめぐる真実の記録を送りします。
薬味さらいさんの作品では、一貫して「幻想郷に棲む妖怪には、『人を喰う』という属性を保つために『配給食』として外の世界から確保されてきた人間を加工した缶詰が定期的に配給されている」という設定があります。しかしこの配給食は自我や意思を失った人間が原料なので妖怪たちにとっては「お世辞にも美味くはない」「義務で食べてるって感じ」「ノーコメント」というもの。
本作はその設定からさらに踏み込み、より料理としての質の高い配給食の開発を目指す天狗たちと、兎・鶏・人肉の食用に反対する食用動物の開放を謳う団体「肉類解放戦線」の対立を描いています。
映画「グリーン・インフェルノ」を見たときにも思ったんですが、「食人」というといかにもショッキングでグロゴアな題材なので残虐性・残酷性だけに着目されがちなところを、ちゃんと「食人という文化」として描いていたのに驚いた覚えがあります。
本作ではそれと同じように「食人」を単なるグロゴア、あるいはブラックなギャグとしてのみ消費するのではなく、そこから必然的に生じるであろう社会問題を描いていると感じました。架空の文化から生じるであろう架空の社会問題を想定して描いているという意味ではSFですらある。
そして両組織の緊張が極限まで高まり、最終的に早苗さんが配給食の原料となる人間の自我と意思を目覚めさせた結果起こったこの騒動の結末。この結末は、結局のところ意思や自我があろうとなかろうと人間もまた食物連鎖のひと鎖であることからは逃れられないし、なおかつ妖怪が真に「美味しい」と感じられる人の肉は、「活きて」いる人間のものでなくてはならないという、本サークルさんがこれまで描いてきた「人の肉を食うこと」のまたひとつの回答であったように思います。
あと久侘歌の頭のひよこがリアクション豊富でkawaii。
・ネコ神
さて皆さんお待ちかねの描き下ろし。
わたくし人形使いは「優れた作品はタイトルの時点ですでに勝ってる」という信条を持っているんですが、本作はまさにタイトルの時点で勝ってる、というかタイトルでおおよその内容が察せられました。
このブログのフォントだとわからないでしょうけど、「ネコ」の部分は「神」の字の一部を消して表現してるんですよね。もうこの時点で勝ってるし、もうこのタイトルを見た時点で収録作5本が脳内で繋がりましたからね。「不完全になった神」をこのフォントいじりで表現するこの発想よ!
そしてページを捲ったらいきなりの「ネコ魔館」で吹いた。なんなんだよこの博多どんたくみたいな紅魔館は。
紅魔館は主がアレなので、ある意味では幻想郷勢力の中でもっとも外部からの影響を受けやすいグループなのかも。そして早苗さん、ついに新興宗教「さにゃえ教」を設立! なんだよそのpixivにありそうな教団名は。
そしてさにゃえ教団の証は当然の如く猫耳カチューシャなので萌え萌えです。特に教団マスコットであるおぜう様とフランちゃんの猫耳カチューシャ姿は、そりゃあ信者が爆増するに決まってるだろといった感じです。
薬味さらいさん突然萌え方向に作風を変えたのか!?とか思いましたがそこは薬味さらいさん、一見ギャグに見えるこの展開の背後では、天弓千亦と管巻典のふたりの思惑が蠢いていたのでした。
総集編のこの描き下ろしは、収録作品を描いている時点では描き下ろしとしてまとめることは想定していないとのことですが、未だに信じられませんね。今回の総集編は特に個性の強い作品が集まっていると思いましたが、よくまあこうやって一本のストーリーラインにまとめられたもんだなあと思いますよほんと。
思うに今回の描き下ろしは、収録された5本の作品内の出来事で解決・消化されてなかったことをまとめてもっかいやり直し!とした形なんじゃないでしょうか。改めて読み返すと収録作5本は事件は終息してるもののやり残しは残ってるんですよね。それをもう1回まとめて再現したという。
東方世界における神や妖怪は強大な力を持ってはいるものの、決して万能不変の存在ではありません。信仰を失えば弱り果て、策謀を巡らせては些細なことで破られる。この描き下ろしでは、そんな人間と同じくらい不自由で滑稽な神と妖のドタバタ劇が楽しめました。
それに比べたら猫という生き物のなんとフリーダムなことか。
・カバー裏
あまりにも悲しき凋落した神の姿を見てわたくしは涙しました。まさに流刑の神々。強く生きて……。
今日はここまで。