「では、移動中ですが改めてこの仕事について説明し直しましょうか」
「は、はい」
ガタガタと揺れるトラックのコンテナ部分内部。こんな場所に置いていて壊れやしないのか、簡易的に設置された机のパソコンで器用に画面を操作するのは、このチームのリーダー的な存在の先輩。
「我々は祓魔特化型組織『にじさんじ株式会社』の特別調査隊のメンバー。本日はとある物件に住み着いたゴーストの種別特定を行います。種別特定については事前に聞いていますね?」
「はい…一応、説明は受けました…」
「宜しい。では、こちらの壁にある機器の使い方は?」
「それも説明書は読みましたが…」
「言うて実際使ってみな分からんやろ」
「説明書と結構違う部分あるしね」
「ですね。詳しい性能や使い方は実際に使って覚えて頂きます。まぁ、習うより慣れろ、です。本日は我々も全力でサポートさせていただきますので、安心して下さい」
安心しろ、と言われても。事前に聞かされている仕事内容は明らかに危険なもので、死人も出ているらしくて、今のところ不安と恐ろしさしか無いんだけど。
元々貧しい家に産まれて、アルバイトに明け暮れる日々だった。体力が要る仕事もたくさんしてきた。…まさか両親が借金を残して国外逃亡するなんて、その金で少しでも借金返せよ馬鹿野郎。…あぁダメだ、思い出したら腹が立ってきた。考えるのやめよう。
とにかく僕は、この危険度に比例して時給がすこぶる良い仕事に集中しなければ。下手をすれば命を落とす、気を抜いてはいけない。
「よ、宜しく、お願いします」
程なくしてトラックは停車し、暫く。コンコンとコンテナをノックする音が聞こえると、パソコンを見ていた人、リーダー的存在の加賀美さんが立ち上がった。
「準備が出来たようなので、開始しましょうか」
「は、はいっ!」
「そんなに気を張らずに。まずはこれを」
「……十字架…」
「それから温度計と、懐中電灯。不破さんと剣持さんはいつものように」
「はいよー」
「了解です」
十字架は、ゴーストからの攻撃…ハントを二回まで防いでくれる。温度計はゴーストがいる場所を見つけるため、懐中電灯は明かりの確保…だっけ。
「えっと、僕はこの温度計で室内の温度を計って、特に寒い場所を見つければいい…んですよね?」
「その通り。ゴーストが拠点とする場所は温度が急激に下がります、氷点下の温度まで下がるとゴーストを特定する条件にもなりますね」
「頼むぞ新人」
「最初ですからゆっくりね」
コンテナから外に出ると、すっかり夜も更けて空には満月が輝いている。目指す家は、…真っ暗だ。
「……っ…」
「…怖いですか?」
「……すみません…」
「それでいいんです。常に恐怖心を持ち、いち早く異変を察知出来るよう感覚を研ぎ澄ませなさい。その恐怖心は貴方の身を守る武器になります、忘れないで」
不破さんの誘導で、鍵が開けられた室内へ踏み入る。ブレーカーが落とされているおかげかひんやりとしていて、思わず身震いした。…この中にゴーストが居る。僕らの命を簡単に奪える、凶悪なゴーストが。
「…ん。今」
「音したね」
「えぇ。奥ですかね、今の聞こえましたか甲斐田さん?」
「え?音?いや…」
「今、この家の奥の方から扉を開ける音がしました。ゴーストが触っているのかも知れません、奥の方で温度を確認して下さい。ちゃんと我々も着いていきますから安心して」
言われるがまま、温度計のスイッチを入れて懐中電灯の明かりを頼りに家の奥まで進む。構造的には一般的な建売住宅と同じだ。棚や机に所々元の住人が残していったのであろう写真や置物が置かれていて、なんだか不気味に見える。
「…あ…」
「今のは流石に?」
「はい、聞こえました」
カチャ…と、静かにドアノブが回った音がした。僕ら以外にこの家には居ないので、当然僕ら以外の『何か』が触った事になる。…うわ〜、嫌だなぁ…本当に居るんだぁ……。
ビビりながらもゆっくりと家の奥へ足を進める。奥へ行くほどどんどん体感で気温が下がってきているのが分かり、その時点でもう帰りたい気持ちでいっぱいだ。
「温度どうです?」
「……七度…」
「時間的にも体感的にも、現場はここで間違いなさそうですね。ではゴーストが居る部屋を特定しましたので、次はゴースト自体の特定を始めましょう」
「先ずは設置物を各種です。はい、これは?」
「え?えっと、…ライティングノート…?」
「正解。じゃあこれ」
「緑色の光…は、DOTSプロジェクター」
「正解です」
「んじゃこれは?形はプロジェクターと似てるけど?」
「モーションセンサー」
「ええね、完璧やん。俺ら居なくても出来るんじゃね?」
「不破さん、無茶言わない。…さて、では温度計は預かりますので、このライティングノートを設置しましょうか」
渡されたのは分厚い羊皮紙の本。ライティングノートは確か、特定のゴーストが干渉によって文字を書き込むものだ。パラパラと捲る感触は結構気持ちいい。
「加賀美さん、プロジェクターとモーションセンサーの設置終わりました」
「俺カメラ類持ってくるわ」
「じゃあ僕は紫外線ライトかな」