連続する爆発の隙間を縫うようにして間合いを離そうとするネグザルツだが、マルーンはフォーメーションを保ったまま相対的に移動し包囲を崩さない。
 ネグザルツは戦法を変えた。ダメージ覚悟で爆雷の爆発に自ら飛び込みつつ、自身を取り囲むマルーンの一体に急速に接近。至近距離からの太陽剣・徹(トオシ)での一撃必殺を試みる。
 フォーメーションの維持を最優先しているマルーンは、ネグザルツのこの行動への対処が遅れた。粒子弾の火線を接近してくるネグザルツに合わせられない。
 マルーンの至近距離に占位したネグザルツは瞬時に太陽剣の出力を一点に絞り、回避不能の必殺の間合いで太陽剣・徹(トオシ)を放つ。
 出力を一点に集中させ至近距離から敵を撃ち抜くその必殺の一撃はマルーンの装甲を粉砕――していない! 放たれた太陽剣のエネルギーはマルーンの装甲の表面を滑るように逸らされ、はるか後方の構造体に着弾した。
 必殺の間合いで放たれたはずの一刀が空を切った理由を知る前に、マルーンが至近距離から投擲した無数の爆雷の爆発がネグザルツの思考域を揺さぶる。数瞬前の自身の機動を逆行するがごとく逆噴射(リバース・スラスト)し間合いを離そうとするネグザルツ。連続して放たれた爆雷の爆発がその後を追う。
 間合いを離しつつネグザルツは思考リソースをフル稼働し、先程の攻撃が逸らされた原因を探る。マルーンの装甲を解析。解析完了。
 マルーンがまとっているのは通常の装甲ではない。生体装甲の表面はさらに不定形の透明なゲル状物質に覆われている。マルーンはこの不定形の第二の装甲によって、粒子弾だけでなく太陽剣のような大出力の光学兵器をも一時装甲に届く前にそらすことができるのだ。この三位一体の異形の敵は、いわば太陽剣の天敵とも言える存在なのだ。
 完全に同期した機動でフォーメーションを回復したマルーンは、再びネグザルツを包囲。網の目の如き粒子弾の弾幕と爆雷攻撃による圧倒的火力でネグザルツの逃げ場を奪いつつ押し包む。
 マルーンの不定形装甲は、防御のみならず熱光学的欺瞞効果も持っている。空間に滲むように姿を隠すマルーンに粒子砲の照準を合わせようとするたび、感覚機(センサー)はその姿を見失い、次の瞬間には凄まじい量の爆雷攻撃が襲ってくる。
 これまで刃を交えた相手とは全く異なる搦手を使う相手に、ネグザルツは攻め手に欠ける。唯一の攻略法はパープリティアス属に共通する制御中枢であり弱点でもある光核(コア)を狙うことだが、マルーンは三位一体の連携を活かして互いの死角を常にカバーしており、光核(コア)を無防備にさらしてはくれない。
 このまま持久戦に持ち込まれれば、いかに強力な自己再生能力を持つネグザルツと言えど先に消耗しきってしまうだろう。さらに、ここでの戦闘に時間を賭かけ過ぎればまだ生き残っているエクソダス内の戦力がネグザルツの居場所を感知して集結してくるだろう。
 手詰まりに近いこの状況を打破する術をネグザルツが見つけるその前に――それは起こった。
 一条の光撃が、空間の奥から疾(はし)る。
 無限長に伸びた光刃が、周辺の構造物ごと三機のマルーンを斬り捨てた。
 ――太陽剣!
 見紛うはずもない。自身がそれを遣っているのだから。
 そして、自分以外にこの力を持っている者は――。
 爆散するマルーンの残骸を押しのけて爆炎の中から現れたのは、見たこともない異形の巨躯。よく知っている殺気。
 驚愕はなく、ただ確信があった。必ず現れるだろうという確信があった。
 必ず決着をつける時が来るという強固な確信があった。それが今、現実のものとなった。それだけのことだ。
 ネグザルツは静かに太陽剣を抜刀(アクティベート)、八相(スターボード)に構える。
 対手もまた、鏡写しの如く太陽剣を八相(スターボード)に構えた。
 戦闘を前に、ネグザルツの思考域は静かに凪いでいた。退くことができないのなら、ただ刃を交えるのみ。――そう、昔のように。
 機首を巡らし、ネグザルツは正対する(ヘッドオン)。
 巨大な増加装甲に身を沈めた実兄、レインディアに。
(第3章終わり)
・幕間パート
 損壊した機体は、そのままレインディアのプライドだった。
 二次装甲をほぼ完全に喪失し、最大の急所である竜骨(スパイン)をも損壊させられ、擬似的にとは言え太陽剣を再現し、聖鎧リュミエールの制御を可能としたパープリティアス属としての姿は見る影もない。
 今は機動要塞エクソダス内の生産プラントで、かろうじて生命活動を保っている状態だった。竜骨(スパイン)をはじめとする神経網は生体活性を失い、機体を覆う生体装甲を回復するだけの自己再生能力も失われ、ほぼ休眠状態となっていた。
 しかし、その機体の裡(うち)に秘められた思考域はネグザルツとの戦闘を行った宙域から回収された時点から覚醒状態を保ち、激しく活動していた。ただひとつの思考を保っていた。
 それは憎悪。レインディアの思考域を、竜骨(スパイン)を、ただひとつの思考が満たしていた。
 己の力で太陽剣を練り上げ、危険を伴う聖鎧の所有権上書き(オーバーライド)を行ってなお届かない存在がいる。許せるはずがない。
 レインディアを責め苛むのは、ネグザルツに与えられた傷ではない。己が身の裡(うち)で燃え盛る憎悪の焔だった。思考域の内側から無制限に生じる憎悪が、無制限に己を灼き続ける。
 もはやレインディアの思考は先鋭化し、単純化し、あるひとつの目的のみを志向するのみとなっていた。
 すなわち――ネグザルツの抹殺。
 それを成し遂げることだけが自身の目的、存在意義。生体装甲の一片までもが、それを成し遂げるためだけに存在する。だからこそレインディアは、己の姿を大きく変容させる増強処置(アップグレード)をためらいなく決断した。
 聖鎧接続(アーマーコネクト)のような武装追加ではない。自身の機体構造を大きく変える処置だ。それは、自我を改変するに等しい行為。しかし、レインディアには躊躇はなかった。
 しかもレインディアは、かつてどのパープリティアス属も試みたことのない処置を希望した。
 光核(コア)の増設である。
 パープリティアス属は、その原細胞とも言うべき核体が成長した姿である光核(コア)をその中枢として構成されている。光核(コア)は、パープリティアス属にとってエネルギー源であり、神経束たる竜骨(スパイン)を通じて全身と各種武装を制御する思考中枢であり、自我の収められた器そのものだ。
 それを増設するということはどういうことか。確かにエネルギー源たる光核(コア)が複数あればそれだけ使用可能なエネルギーソースは倍増する。しかしそれは同時に、思考中枢が分散されるということを意味している。自我は断裂し、自己同一性も保持できなくなる可能性が極めて高い。
 
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初公開日: 2025年04月05日
最終更新日: 2025年04月06日
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