「ジュール君!」
「あ!アントワーヌ君!お疲れ様!」
「お疲れ様!」
初めての稽古練習が終わると、誰もが息をついていた。足や指先など体のいたるところに痛みと疲労感がある。ただ同時に、初めて本気で練習をしたことからの余韻にも浸っていた。体の痛みか余韻かどっちが勝つかの競り合いの中で、俺はジュール君に話しかけた。
「あのさ。ちょっとだけ聞きたいことあるんだけど、時間大丈夫?ごめん、引き止めたりして。」
「いや大丈夫。」
一つ気になっていることがあった。それはジュール君の若さからは思えないほどの落ち着きや自信はいったいどこから来ているのか。実際、今この場で息が切れていないのはジュール君だけだし、まさか子役とかそういう、、、
スタッフさんやマネージャーさんが今日のセッティングなどを片付けている中で、なんだか申し訳なくなりながら、楽屋前で静かに聞く。
「ジュール君はどうしてそんなに自信があるのかなって、、こんなつまんない質問でごめんね。でも気になるんだ。」
「えっ?そう見えた?」
「うん。すごかったよ本当に。みんな緊張してがちがちに体が硬くなってたのにさ、ジュール君だけはまったく緊張しないで演技してた。ジェスチャーゲームもそうだし、稽古練習でもそう。ずっと自信を持ってるように見えた。まるで、自分が失敗しないって分かってるみたいに。」
「・・・・・・僕はそんなに強い人間じゃないよ。自信なんてまったくない。どちらかって言えば不安症に近い方だと思ってる。だって常に失敗が怖いんだから。」
「それ本当?でも、じゃあなんであれだけ自分を貫けるの?」
壁に背を擦るみたいに、ゆっくりと腰を降ろしながらジュール君が俺に諭すように話し出した。
「ウィートンさんも言ってたでしょ?ほら、演技に嘘をついちゃいけない、ってさ。それって本当にその通りなんだけど、中々できることじゃない。じゃあどうしたらいいかって言えば、自分とは違う自分を新しく作るしかないんだよ。僕は今、演技をした僕とは全く違うんだ。」
二重人格のような話だろうか。もしそうだとしたならば、思いがけずとんでもないことに踏み込んでしまっているような気がする。
「キャラ。」
「キャラ?」
「そう、キャラ。鏡に映る自分が本当の自分だってことはわかる。それはいつだって変わらない。でも変わらないってわかるのは外側だけで、誰も内のことは分かんない。アントワーヌ君と話している僕は姿、形は変わってなくても、心がまったく違うんだ。いつものありのままのキャラで僕は今話してる。」
「色んなキャラを持てればいいってこと?」
「うん。先輩には敬語、後輩にはタメ。こういうありふれた会話の形式とかと、実は何ら変わらないことなんだけどね。」
あの人の前ではこうでなきゃいけない。でもあの人の前ではこうでいなくてもいい。そういう、姿、形だけじゃない変化ってのが演技にも必要なのかもしれない。確かに、演技をするときに世界観や主人公に内を任せれば、演技はより本当に近づく。
「ありがとう、ジュール君。参考になった!」
「そっか、なら良かった。じゃあそろそろ行くね。」
「うん!ありがとう!」
初めての練習が終わった。
ステージに立つまでの後1か月で、俺はどこまで変われるかな。足と指の痛みも、さらには余韻も、いつのまにか俺の体を離れ、ただ一つの向上心のみが心に残った。
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