「ひさきと縁を切るのも無理で、りの先輩に関わらないというのも無理、ですか。」
「ええ。」
「はあ、、、お前はつくづく、、、羨ましいやっちゃなあああああ!!」
「ええ?」
テーブルを台パンみたいに叩きつけて、紙コップから水が飛び跳ねた。情報屋のたかしと今日は久々のショッピングモールに来ていた。フードコートにて、たかしに僕はある相談をしていた。ある相談とはもちろん、ひさきとりの先輩の事。しかし、二人の名前を出した途端に、たかしは顔を赤くしながら怒り出した。
「なんでそんな怒るんだよ?」
「お前はまず、そういう言葉が一番心に来るっていうのを覚えておいた方がいいぞ。なんで、って聞かなくてもわかんだろ、俺が彼女はおろか、女友達もいないからだよ!!」
「ああ、、そう・・・・・・。でもでも、真面目な相談なんだよ、たかしなら色々分かりそうじゃん。聞いてくれよお。」
「ふ、そうかい。じゃあ助言してあげましょう仕方ないですからね。どっちとも縁を切らなきゃいいんだよ。」
「え。まじ?」
「うん」
たかしの怒り狂った様子からは、想像もしなかったほどの冷静な回答だった。風船ガムが膨らましている途中ではじけて、顔に飛び散った時みたいなあっけなさがある。
「んーだってさどっちとも縁を切りたくないんでしょ?だったらそうすればいいだけの話じゃない?それとも、そうはできない理由がなんかあるわけ?」
「いやあ、ええっと・・・・・・。」
確かにどっちとも縁を切りたくないなら切らなきゃいい話だ。ただそれだけなのに、なんでここまで考え込んで、、、
「まさかいつきは、どっちとも関わるということ自体に罪悪感を感じているわけじゃないよな?」
「あ。」
「図星じゃん。完全にそれのせいで悩んでるよいつき。」
「確かにそうかも、」
もしかして僕はいらない心配をしてた?一途でいなきゃいけないと思って、りの先輩に一途だってそう思われたくて、僕はひさきを突き放そうとしてた。だけど肝心なのは、僕はひさきを突き放そうとしていること自体にすら、罪悪感を感じてたってことだ。
「罪悪感に挟まれてたよ。だから自然と何もできなくなってたんだと思う。」
「やっぱりそうだ。まあ、でも助かった。」
「ん?どういうこと?」
「話が早くて助かったよ。これはすぐに解決できる簡単な話さ。りの先輩に、告白しろ。」
「は!?え、今な、なんて!」
「だから、告白しろ。」
たかしのさっきまでの冷静さは一体どこに飛んでいったのか。急展開、それか奇想天外だ。まじでやけくそになっているんじゃないかな。だって告白だぞ。確かにりの先輩とは仲がいいけど、あまりに無謀じゃないか?
「さすがに無理だって。まだそういう関係値までいってない。」
「まあ一回座りなよ。」
「あっ。」
さっき驚いて立ち上がったせいで、周囲の視線に耐えながら椅子に座ることになった。少し足から離れた椅子の位置を横目に確認しながら、何もなかったかのように静かに着席。
「そういう関係値じゃないってのは俺も重々承知の上で言ってる。だからこそさ。そりゃさ、何も知らない人から告白されたら断る人も多いかもしれない。でもいつきはそうじゃない。文化祭のステージ係で君は十分に関わってきたはずだ。これだけでかなりのアドバンテージを持ってる、とそう考えられないか?」
関係値がまったく構築されていない人よりかは、僕の方が有利ってことか。でも考えてみたらそれって当たり前じゃ。
「はいっ。てことで解決!いつきはさっさと告れ!」
「えええーまじかあ・・・・・・。」
「明日の放課後!!」
「まじ!?}
「すぐ告れ!」
その次の日の朝。自分の部屋のカーテンを開いてリビングにいくと、珍しいことにまだ家族は誰もリビングにいなかった。それにいつもは嗅げない炊き立てのご飯の匂いもした。緊張で僕はいつもより1時間も早く起きたのだ。
いやだって告るんだぞ、先輩に。そうだ、なんかプレゼントとか必要かな。
ああどうしよう、どうしよう。
登校時も授業中も、なんだか体が落ち着かなかった。結局プレゼントも用意できなかったし、もう時間も迫ってきてるから気持ちを整理しなきゃいけない・・・・・。どうしよう。
「いつきくん!」
「わ?」
「あれ、なんか返事変だね。なんかあった系男子?}
ああうざい、絶妙にうざい。最近ひさきはこの○○系男子にハマっていてよく口に出してくるが、それが結構うざい。案の定今日も会話に出してきた。
「特になんもない。」
「そっか!じゃあ私の話!」
「え、」
「私今日ね、コンビニ行ったの。そしたらさあ!」
「ごめんひさき、そろそろ行く。」
「えっ!!ちょっといつきくん!」
ひさきにこれ以上構ってたら一生離れられなくなる。さっさと先輩に会いに行かなきゃ!
時間は既に放課後。廊下にでかい足音を響かせながら、りの先輩のいる教室まで急いだ。
「あ、ここだ・・・・・・。」
事前にりの先輩には今日の放課後、教室で待っていてほしいと伝えてある。りの先輩はそれを了承してくれたし、きっと教室にいるはず・・・・・・。
がらっ
いつもよりも数万倍でかく聞こえたドアの開く音。スマホを見ていた、りの先輩が髪を揺らしながらこっちに振り向いた。
「すいません、遅くなって。」
「大丈夫だよ!それよりどうしたの?なにか相談?」
「あの、、僕と、付き合ってくれませんか。」
教室の少しだけ開かれていた端の窓から風が流れて、髪がなびく。前髪だけを見ていたはずの視線が揺れて、心の安定を奪っていった。ただそれでも、必死に手を伸ばして頭を下げたまま動かさないでいた。
「ごめんなさい。私、好きな人がいるの。」