しかし、敵は間断なく次の戦力を送り込んでくる。雲霞の如き敵影を増強された粒子弾で薙ぎ払いながら、ネグザルツは目的地への最短コースを突っ切っていく。
その行く手を阻む敵艦隊はほとんど格子状に密集し、その隙間をすり抜けていくことはほぼ不可能だ。さらに無数の砲口から放たれる光撃が暗黒の宇宙空間を縦横に切り裂き、ネグザルツの逃げ場を奪っていく。
回避が困難と判断したネグザルツは強行突破を選択。しかし、強力な防御能力を持つ聖鎧をまとっているとは言え、宙域に密集した艦隊の集中攻撃すべてに耐えることはできない。
ネグザルツは装甲表面に――否、感覚機(センサー)に思考リソースを集中。今や全方向を取り囲んだ艦隊から放たれた光撃、それらの中でも特に致命的な威力を持つものをナノセコンドのうちに判断、分類する。同時にそれらの着弾タイミングをも予測。
聖鎧と接続したことで拡張された潤沢な思考リソースを費やして初めて可能となる防御法(ディフェンス・メソッド)、「見切り」である。
ネグザルツの研ぎ澄まされた思考力は「予測」を越え、ほぼ完全な「予知」を実現していた。低威力の質量弾は機体を細かく制御し聖鎧の装甲が特に厚い部分で受け、危険度の高い光撃は装甲表面に張り巡らされた防護フィールドを集中させて受ける。そうすることでダメージとエネルギー消費を最小限に抑えつつ、ネグザルツは反撃に転じた。
鋸歯状の軌道を描きつつ、追撃してくる突撃艦に光子縛鎖(フォトン・チェーン)を伸ばす。高速で接近してきた突撃艦を絡め取り、そのまま敵艦隊に放り投げる。巨大な質量弾と化した突撃艦が迎撃しきれなかった補給艦にめり込み、半瞬の後に爆沈。その余波を受けて隊列が乱れた艦隊の隙間をすり抜けざま、うねる光子縛鎖(フォトン・チェーン)が艦橋を貫き装甲甲板を引き裂く。
集結した艦隊を次々とデブリに変えながら、ネグザルツは一直線に疾駆する。その前方に位置した輸送艦の射出口が大きく開き、一対の鋼の腕(かいな)を備えた巨大な機体が姿を現した。
識別、パープリティアス・ブラスター。出現したのは、量産型中距離支援機として各種戦線に投入されてきた中でも標準的な武装で高い汎用性を誇るマスター級(クラス)だ。
聖鎧で増強された火力を持ってすれば撃破が困難な相手ではないが、聖鎧接続状態での戦闘行動時間は限られている。加えて、ブラスターは一般的に複数機を以って戦域を制圧する戦略(タクティクス)の上で用いられる。今この瞬間にも後方の輸送艦から継続的にブラスターが投入されつつあると見て間違いないだろう。
もはや思考と行動の間隙はないに等しい。全力を以って即滅する。
ブラスターが攻撃行動に移るのに先んじて、ネグザルツは誘導弾を連射。会敵(エンゲージ)と同時に相手の感覚機(センサー)を潰し、先の先(アドバンテージ)を取る。対パープリティアス属戦の定石(セオリー)だ。
出鼻をくじかれたブラスターが体勢を立て直す暇も与えず、ネグザルツは太陽剣を抜刀(アクティベート)。聖鎧によって増幅された太陽剣が虚空を割り、大上段(アヘッド)に振りかぶられる。対するブラスターは瞬間の判断で攻撃行動を中断、防御姿勢を取った。光核(コア)級の証であり機能中枢でもある光核(コア)を両腕で防御。
直後、ブラスターの両腕部の積層装甲に太陽剣が食い込んだ。次いで積層装甲は赤熱、白熱、溶解。切断されれた両腕が空を舞う。振り抜かれた太陽剣はブラスターの光核(コア)を両断。余剰エネルギーが本流のごとく吹き出し、ブラスターは爆散。
しかしそのときには、2機目のブラスターが警戒範囲にまで接近していた。両腕部の砲口が展開し、光撃のエネルギーはすでに充填されている。
両側から挟み込むように光撃が放たれた瞬間、ネグザルツは急加速。ブラスターが放った光撃が交差したときには、ネグザルツはすでにブラスターの至近距離まで肉薄していた。ほとんど体当たり同然の太陽剣での突きが、正確に光核を貫通。2機目のブラスターも巨大な爆光となった。