教室の階が違う先輩。年齢が上の先輩には教室の距離も同じように遠いらしかった。
それだけに勇気が必要な恋。ゆっくり考えるべき恋。それを僕は段階を飛ばして真っ先に好きになってしまった。先輩との心の距離・・・・・・、教室よりももしかしたら遠いかもしれないよな。
じゃあどうすりゃいいんだよ、、どうやって話しかければ、
「よっ、と!!」
「うっうわ!!!」
体育館に入るまでの影が作る暗い場所で、鏡を見ながら先輩を思い浮かべていたところに、例の情報屋。たかしが飛び込んできた。
「あっぶねえなたかし!!ビビったあ、」
「なに黄昏てたのかなあって気になったんだよ。すまんw」
「別に?黄昏てないよ。ぼーっとしてただけです!」
「ふーん?さては誰か第三者のことを考えてたんじゃ?」
たかしはクラスの噂を操る情報屋であるのに加えて、よりによってかなり勘がいい。だから隠そうとしてもすぐにバレてしまうのだ。
「考えてないって!」
「いつもなら体育の時間ってだけではしゃぎまくってんのに、無言で鏡とにらめっこって珍しい・・・・・・。やっぱり、りの先輩のこと、
「ちょっ!!まじ黙れ、頼むから。」
慌てて周りを確認しながらたかしの口をふさいだ。
ひさきにでも聞かれたら本当にめんどくさいことになる、そんなん絶対むり、まじむり。
「冗談だよw冗談、それに周りには誰もいないはずだぜ?いつきも分かってるだろ?」
「そうだけど、だとしても一応やめろ。いつどこにあいつがいるかわかんないんだから。」
「あいつ?あいつって誰だよ。」
「ひさきに決まってんだろ!!」
「おいっ!」
「んぐっ。」
今度は僕の口を慌てて覆うたかし。目を何回も瞬きをしながらやけに大急ぎでふさいできた様子を見て、なにか都合が悪いことでも起こったのかな、なんてのんきに考えていた。だけど壁のちょうど死角になっている場所から出てきたひさきを確認して、思わずすでに覆われた口を上からさらに覆ってしまった。
嘘だろ、よりによって今!?いや、これは本当によりによってだぞ。あまりによりによってが過ぎる。悪い意味でタイミングが良い。もしもさっきの先輩の話を聞いた上、ひさきの名前が出たからここに来たのだとすれば、本当によりによって。
ていうかそうでもない限り今ここにちょうどやってくるなんてありえない・・・・・。
「終わった、」
どんなふうに話しかけられるのか身震いをしながら待っていると、その目の前をひさきは何事もなかったかのように素通りしていった。
「え、、あのひさきが話しかけてこない?どういうことだこれ、」
「おお助かったんじゃねえかいつき!」
「そう、か?てかお前のせいだろ元をたどれば!!」
「っはwごめんってw」
持つべきものは友達って、それってあってるのかな、時と場合によっては疑いたくなる時もある。たかしのせいだ。確実にひさきの様子がおかしい。いつもなら告白だって堂々としてくる、それなのに今日は告白どころか話しかけることもせずに素通りだぞ!?
やばい、絶対にやばい。相当キレてる・・・・・・・。それとも本当に聞いていない?
いやそれはないよな。だとしたら告白タイムが始まるはず。やっぱりひさきは聞いていたんだ、先輩の話から全てを。
そのあとの体育の時間はとにかく集中できなかった。ひさきのことでこんだけ頭がいっぱいになったのは今までで初めてだと思う。それくらいひさきがどう思っているか、何を考えているかがとにかく怖かった。
気が気ではなくなにを考えることも出来ずに気付けば、体育は終わっていた。挨拶が終わってテンションが上がりに上がりきった男子たちが超特急で体育館を出て行ったのにも関わらず僕はそれについていく気力すらなく、ただ一人廊下を歩くだけだった。
なんでだろう、まじで気力が微塵も残ってない。別にひさきのことなんだしなんとも思ってないってわかってんのに。わかってるはずなのに、、どっか心がムズムズしてすっきりしない。
ていうか冷静になって考えてみれば相手はひさきだぞ?なんであいつがキレてるかどうかとかいちいち気にかけてるんだろ。まさか心配とかそんなわけでもないし。
でもじゃあ、これはなんだ。
「あ!いつきくんじゃん!」
「ひさ・・・・・・。」
下を向いて歩いていたせいで相手の顔も見ることせず、ただなんとなく「ひさき」と口から名前が出た。でも僕の前にいたのは、「りの先輩」だった。
「えあ、え、と。りの先輩!こんにちは!」
「おはよ!いつきくん!今どうしたの?体育終わったところ?それにしてはなんか元気なさそうだけど」
「体育でちょっと疲れただけなので、大丈夫です!」
「そっか!私もこれから体育!バスケだから結構走らなきゃいけないの。それがめっちゃ辛くて・・・・・・。」
「わかります。まじでつかれますよね。」
やっぱり僕は正真正銘この人に恋をしてる。今だって胸がずっとドキドキして止まらない。ひさきのことばっかりだった頭の中は、今やたった1分くらいの会話でもう先輩のことだらけになっていた。
好きって間違って言葉に出てきちゃいそう、なんとか抑え込まないと。
「い、つ、きくんっ!!」
「えっ!?はっ!?ひさっ!!!」
喉で好きという溢れ出しそうな言葉を抑え込む作業に必死で後ろから突如現れたひさきにかなり動揺してしまった。てか、そんな作業をしなくとも動揺するだろ。だって今は、李の先輩が目の前に!!!
「ちょうど話したいって思ってた!なのにどこにも居ないからどこ行っちゃったのかなあって探してたんだ!」
いいやお前さっき素通りしただろ!!!いやこれ声にならない声っていうやつだ。さっきは必死に声を抑え込んだけど今ならもう大声で叫んでやりたい。できればこいつの耳元でぶっぱなしてやりたい。
なんで今、よりによって今なんだよ!!!
「あれ?いつきくん、この子は?」
「あ、えっと。ひさきっていう同級生です。」
「隣の席です!!」
頼むから黙っててくれないかな。
「ふうん・・・・・・。よろしくね!」
「はあい!!お願いしまーす!」
「あ、それじゃあ私行くね。そろそろ!」
「あ、はい!ありがとうございました!頑張ってください!」
「うん!ありがとう!二人ともばいばい!」
「あざしたー!」
「・・・・・・ひさき。」
「うん?どうしたの?」
「いや、やっぱなんでもない。」
「え。どういう、」
やっぱり僕には話しかけてこないでほしいなど、そんな言葉はどうしても出そうと思っても出すことが難しかった。本当にはっきりしなければひさきは離れてくれない可能性もある。だからもっと真剣に、無理って言わないと、ダメだよな・・・・・・。
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