映画やマンガのように都合の良い奇跡が起こるはずもなく、耳に押し当てたスマートフォンから聞こえてくるのは耳障りなノイズだけ。
 ……ノイズ?
 はっとして液晶画面を確認する。通話がつながっている!
「後輩くん!? 聞こえるかい後輩くん!」
 スマートフォンに噛みつくように叫ぶ。スピーカーの向こうから聞こえてくるのは相変わらずノイズだけだが、それはこの謎の黄色い空間に閉じ込められてからの初めての変化だ。それにすがりつくように、部長はスマートフォンに向かって繰り返し叫びながら走り出した。
 もちろん、どこかを目指しているわけではない。しかし、そこにとどまってはいられなかった。息を切らして黄色いカーペットの上を走りながら、部長はスマートフォンを耳に押し当ててノイズの向こうから行き覚えのある声が聞こえてくるのを祈った。
 周囲は相変わらず黄色い空間だけが続いている。しかし、恐怖よりも焦燥の方が勝っていた。このノイズが途切れてしまったら、そのときは今度こそ本当に絶望に囚われて動けなくなってしまう、そんな確信があった。
 曲がり角をでたらめに左右に曲がり、壁にぶつかりそうになりながら走り続ける。自分の喘鳴がうるさいが、それよりもスマートフォンから聞こえてくるノイズに全神経を集中する。
 そのノイズの向こうに、かすかに聞き覚えのある声がしたのを都合の良い幻聴ではないことを祈りながら、部長は耳にスマートフォンを押し当てたまま足を止めた。
「後輩くん、かい……?」
 恐る恐る聞き返す。聞こえてくるのは相変わらずノイズだけだったが、足を止めてゆっくり周囲を歩き回ると、ノイズが明らかに大きくなったり小さくなったりしているのがわかった。
 慎重に歩き回りながら、ノイズが小さくなる場所を探す。壁にぶつかってはその裏側に回り込み、再びノイズを探す。もう時間を確認することはしなかった。
 スマートフォンから聞こえてくるノイズは徐々に小さくなってきた。代わりに、明らかに人混みのざわめきのような音が大きくなってきた。まるでたくさんの人が集まったテーマパークのような――。
『……長! 部長! どこです!?』
 幻聴などではない。スピーカー越しにはっきりと聞こえたその声は、間違いなく後輩のものだった。馴染みのある声に一瞬で全身の緊張が解け、両足から力が抜けてその場にへたり込んでしまう。
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後輩への誕生日プレゼントSSを書いていきます。
初公開日: 2025年02月08日
最終更新日: 2025年02月08日
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