今まで全く知らなかった映画をtwitter(頑なにXとは呼ばない)で知ることが多いんですが、本作もそのような経過で知ることになった一本です。
しかもなんかこぞってインド映画沼の人たちがレミングスみたいに次々に沼にハマっていくので「あっこれやばいやつだ」と確信し見に行かなくてはいけないと思っていました。
案の定というかなんというか塚口で来月に上映されるとのことだったのでそっちで見ようと思っていたものの、やはり見たい気持ちが募ってきたので、twitterにて「トワイライト・ウォリアーズはそろそろ見に行かないといけない気がしてきた。」とツイートしたところ爆速でいいねがつき始めて「こッ……これは『お前言った以上は見に行けよ? 言質取ったからな?』という意味ッ!!」といった感じで連邦の白い悪魔レベルのプレッシャーを感じたのでこれは速攻で見に行かないと最悪刺されると判断して見に行きました。
兄貴ィィィィィィーーーーーーッ!!
兄貴ィィィィィィーーーーーーッ!!
カッコよすぎるぜ兄貴ィィィィィィーーーーーーッ!!
突然失礼しました。クールダウンのためにシャウトさせていただきました。
さて本作なんですが、前述のとおりTLを賑わせていたというのもあるんですが、そもそも皆さん御存知の通りオタクには「九龍城」という単語には無条件で反応する習性があるので見る気満々でした。
そして例によって例のごとく初見感想を大切にするために前情報はなるべくカットして見に行こうとしてたんですが、TLからなんだか「硬直」「気功ギャル」「サモ・ハン・キンポーが出る」といった怪ワードが漏れてきたのでとても怖い。
しかしわたくし人形使いは知っています。名作映画の条件はたくさんありますが、その中には「ネタバレ防止のために怪情報が飛び交う」があると思っています。古くは「ガルパンはいいぞ」今なら「緑のおじさん」がそれに該当するでしょう。
なので本作も相当な作品だと判断し、期待値をかなり上げて見に行ったんですが……。
舞台は1980年代の香港。密入国者である青年・陳洛軍(チャン・ロッグワン)は黒社会での取引に応じなかったためその場で始末されかけますが、逆に組織の扱っていた麻薬を持って逃走。彼が向かった先は、要塞跡に建築された巨大なスラム街・九龍城砦(きゅうりゅうじょうさい)。
城塞内に麻薬を持ち込んだことが発覚したチャンは、城塞を仕切るリーダーの右腕的存在である信一(ソンヤッ)に襲撃されます。ソンヤッに追われながら逃げ込んだ理髪店でチャンは主人を人質に取りますが、強烈な反撃を受け逆に叩きのめされてしまいます。その理髪店の主人こそ、九龍城塞のリーダー龍捲風(ロン・ギュンフォン)でした。
ロンに気に入られたチャンは、九龍城塞で生活することに。そこで暮らしているうちに、チャンは仲間を得ることで、城塞を自分の故郷のように感じるようになっていくのでした。
いっぽう、チャンから麻薬を奪われた黒社会の大ボスは報復の機会を狙っていました。そこには報復以外にも、リーダーであるロンを倒して城塞を支配しようという意図も。斯くして、過去と現在、さまざまな思惑が絡み合った戦いが混沌の九龍城塞で巻き起こる!
言うまでもないんですがまあ書きたいことが山ほどあるので思いつくままに書いていきますね。
まず言いたいのは「現役」の九龍城塞の姿。
九龍城塞は1993年から取り壊し工事が開始され、現在は九龍寨城公園となっています。なので2025年現在九龍城塞は廃墟すら存在しない場所となっています。
そんな九龍城塞にたくさんの人が暮らしていた頃の姿が見られるというのは、間違いなく本作の見所の一つでしょう。
自分の頭の中のイメージというかカテゴリーの話なんですが、九龍城はどちらかというといわゆる「奇景」の中でも「廃墟」寄りのイメージがあったんですよね。それが本作でチャンがたどり着いた九龍城には、むせ返るほどの生活臭がある。読んで字のごとく、人が「生」きているという「活」力があるんですよね。
そして九龍城に転がり込んだよそ者であるチャンに、住人たちが食べ物や飲み物をあげるシーンがいいんだ……。この時点ではチャンは九龍城に来たばかりで、なんなら麻薬を持ち込んだトラブルのもと。それでなくてもこういう身内が強固なコミュニティではよそ者はそれだけで排除されそうなもの。でもここで九龍城の住人たちは、そんなよそ者であるはずのチャンに決して十分ではないはずの食料をわけてあげる。こうした行動の背景には儒教思想があるんだろうなと思うんですが、それ以前にこういうところに「人の情」と書いて人情を感じました。
同じ九龍つながりでクーロンズゲートの話なんですが、あのゲームにおける九龍城の人々にも人情を感じるんですよね。主人公は超級風水師ではあるもののやはりよそ者。しかし九龍城の住人たちはそんな主人公に「勇者だから」とか「世界の運命がかかっているから」ではなく親切心で協力してくれる。そのへんにあの異様な世界の中での人情を感じました。
次にキャラ。まあ言うまでもないことですが本作、キャラが立ちすぎ濃すぎ。
もう最初の理髪店のシーンでア”ッ!!!ってなりましたからね。わたくし人形使いは清く正しいおとこのこなのでカッコイイおっさんが大好きなのだ。しかも最初人質に取られたので一瞬一般人と思わせるのがまたうまい。
そしてまあ強い強い。フィクションにおいてこういう立場のキャラクターは一線を退いていたりあくまでアドバイザーとしての立場だったりして直接は戦わないことも多いものですが、ロン兄貴はまだまだ現役というのがまたカッコイイ。あの腰を落としたパンチの姿勢が実に絵になる。
そしてさあ……タバコ吸ってる姿がまたカッコイイんだ……。この手の映画が魅力的になるかどうがを左右する要素はたくさんありますが、その中でも特に重要なのが「タバコを吸う姿をどれだけカッコよく撮れるか」であることはつとに知られています。(※要出典)
しかるにロン兄貴のカッコよさはタバコとセットと言っていいでしょう。タバコ弾く→パンチ→タバコキャッチのシーンだけでもう元が取れますね。
そして他のメンバーもしっかりキャラ立ってて、名前こそ慣れない中国語(広東語?)なので覚えづらいものの埋もれることなく活躍しててよかった。
ロン兄貴の右腕で甘いマスクの信一(ソンヤッ)。
顔の傷を隠している医者の四仔(セイジャイ)。
虎兄貴の手下でもある十二少(サップイー)。
この3人とチャンの交流がまたいいんだよな。
そもそも舞台となる九龍城塞の建て増しに建て増しを積み重ねた姿は、そこに暮らすたくさんの人々の人生が折り重なった場所とも言えます。そこでチャンは人の情に触れ、若者たちと交流することでそれまで失ってきた人生を再生してきたと言えるのではないでしょうか。このパートが実に丁寧に描かれてるのが好き。
当初チャンはその境遇もあって全然笑わないんですよね。それが九龍城塞に来て前述の3人と関わるようになってから素直に笑うようになっていく。この変化で、九龍城塞はただのスラム街ではないことがわかります。少なくともチャンにとっては。
そして、帰るべき家(ホーム)を持たないチャンも最終的に、九龍城塞を「どこにも行きたくない」とまで言うようになるわけです。
また、城塞内で死亡した娼婦の仇を打つシーンで、お面で顔を隠して集まるあのシーン、「悪童4人組」といった感じの悪ふざけ感があって好き。
しかし、歴史が証明しているように九龍城塞はいずれ取り壊される運命にあります。つまり、チャンの帰るべき家(ホーム)は失われることが決まっているというのが悲しい。
けれど、3人を結んだ友情は失われなかったというあのラストいいですよね。
そして本作の目玉キャラの一人である、かのサモ・ハン・キンポー演じる大ボス。
サモ・ハン・キンポーが出るということ自体は前述の通り噂で知ってたんですが、事前情報をカットしてたのでどのキャラかまでは知りませんでした。それでどのキャラなんだろうなーと思いながら見てたんですが、まさかあの大ボスだったとは。
ラストのロン兄貴との大バトルの迫力よ! 「肥満体」「敵組織の大ボス」「一連の事件による利益を一気にかっさらおうとしている」ってポジションは普通に考えると表立って肉弾戦をするようなキャラじゃない事が多いですが、考えてみればジャッキー映画をはじめとする香港映画って敵の大ボス自ら戦うことが珍しくないよな。
調べてみると、サモ・ハン氏は御年72歳。以前見た「ライド・オン!」のジャッキー・チェンにも同じことを思いましたがどう考えても70超えてる人の動きじゃありません。ロン兄貴とのバトルはまさに達人、巧者どうしの戦いといった技巧あふれる戦いで思わず目を奪われました。
そしてみんな大好き王九(ウォンガウ)の兄貴。
気功術を操りどんな攻撃も「硬直!」で無効化するうえに点穴での攻撃も強烈という強敵なんですが、強烈なのはそのキャラクター。あまりにもキャラが濃すぎる。
サングラスに長髪にヒゲというビジュアル、狂騒的なヒャハハ笑いといういかにもチンピラ的なビジュアルで見た目こそ真っ先に死にそうなのにメッチャクチャ強い、というか本作のラスボス。もうこの強烈なキャラクター性のため、なんか見てて「日本語吹き替え版の声優は千葉繁氏かはたまた高木渉氏か」という命題が生じて右脳と左脳が泣き別れしそうになりました。あのヒャッハー具合は千葉さんか……? いや千葉さんはあえて大ボスか……? みなさんの意見求む。
「面白い作品の条件」は色々あると思うんですが、その中には確実に「強烈な悪役がいる」というのがあると思います。しかるに本作の最強の悪役(あえて「ヴィラン」という言い方はしない)であるウォンガウは実に強烈な悪役でした。見ててえらく強いけど中ボス的な立ち位置だろうと思ってたらもう最初から最後までヒャッハーでやりたい放題でラスボス戦では4対1で暴れまわるというとんでもない強さを発揮してくれました。あの攻撃の通じない異常な硬さと強さには久しぶりに「こ……こんな化け物どうやって倒すの……?」というフリーザ様の戦闘力53万宣言と同等の絶望感を味わえました。あんな絶望感久しぶりだった……。
本作を語るうえではバトルシーンに触れないわけにはいきますまい。本作は全編通して大迫力のバトルシーンが展開されますが、そのほとんどが九龍城塞という入り組んだ閉所で行われます。この「閉所でのバトル」というのが本作独自の魅力となってるんですね。
冒頭の逃げるチャンと追うソンヤッの「狭い街なかを逃げる/追う」というシチュエーションは香港映画でもおなじみのシチュエーションですが、本作で再現された九龍城塞の迷路のように入り組んだ街なかでの追走劇は緊張感があってよかった。
また建て増しを繰り返して拡張された城塞内でのバトルは横方向だけでなく縦方向にも展開するのがこの作品ならではのバトルでした。これ意外とないシチュエーションだと思うんですよね。落っこちたと思ったら上に登る、壁に手をついて急ブレーキ、家々の庇を伝って上下に移動しつつ戦うというシチュエーションはまさに「アクション」映画の面目躍如といった感じ。
また本作のバトルシーンはスピード感あふれる素早いカンフーといったイメージがありますが、キメるところはしっかり止めで魅せるのがたまらん。というかロン兄貴のシーンはキメキメにキマってるのでもう最高。ことバトルシーンで飽きさせないという点においては本作は最高峰と言えるんじゃないでしょうか。
そして本作の表題である「トワイライト・ウォリアーズ」に込められた意味。
「トワイライト」とは「日没後や日の出前の薄暮」という意味ですが、調べてみるとそのほかに「黎明期」「終末期」という意味があるそうです。
本作が世代交代の話であるということを考えると納得ですよね。
そも本作の一連の事件の裏には、チャンは実は九龍城砦の大地主の一人である秋兄貴の妻子を殺した陳占(チャン・ジム)の息子であったという、いわゆる「親の因果が子に報い」的な真実があるんですが、古い世代であるロン兄貴はそれらの過去の因果をひとり飲み込んで、次の世代にあとのことを託して死んでいく。そして舞台となった場所であり数々の人々の人生が折り重なった場所でもある九龍城もまた、香港返還を期に取り壊される。
積み重ねられた因果や人生、時代は遠大なものですが失われるときはほんの一瞬。本作はまさに、そんな薄暮の時がすぎる一瞬を戦い抜いた戦士たちの物語と言えるでしょう。
いやー面白かった! そして過去の因果が現在に深く影響すると言う点でインド映画沼の人たちがことごとくハマるのもわかります。あとやっぱウォンガウの兄貴のインパクトがあまりにも強すぎる。キャラが濃すぎるわいくらなんでも。ウォンガウの兄貴のスピンオフとか作られないかなあ。