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神渡 真歩(みわたり まほ)には夢がない。大学在学中にもやりたいことが見つからず流れに身を任せるかの如くバイト、サークル、授業を適当にとっていた。社会人になった際も、なんとはなしに内定をもらったいくつかの会社の中から福利厚生が手厚いと言う理由で某一社に入社する。ホワイトとは言い切れない、ブラックでもないグレーゾーンな社会に揉まれている時に一通の手紙が集合住宅の自身の部屋に届く。内容は高校の時の同窓会を開くと言う知らせである。高校も無遅刻無欠席で通っていた身分であるため同級生たちとの蟠りなどなく出席の返事を幹事に返した。
同窓会当日、私服にしては少し硬めのジャケットにさらりとした素材のタートルネックを着て同窓会に参加する。昔懐かしい顔ぶれに雑談をしていた際、立席していた自身のテーブルに懐かしい影をひとつ見る。その男は霧島 冬一(きりしま とういち)であった。当日、高校の在学生は皆委員会に属していたが、その際同じ委員会だった男がこの男であった。図書委員という役回り故、活発な委員会ではなかったが冬一の本に対する向き合い方は素直で妙に印象に残るものがあった。その話題を肴に数杯のアルコールを摂取して今日の同窓会の中で真歩が1番楽しく感じた時間であった。冬一の話を聞いた限り、自身が自堕落な大学生活を送っていた間に小説を書く専門学校に通った冬一は掛けだしであるが小説家としての道を歩んでいた。ペンネームは武灯 冬和(むとう ふゆかず)。その名前を聞いて心当たりのある真歩。それは最近駆け出し中の売れっ子間違いなしと言われている恋愛小説作家の名である。それに瞠目する真歩にカラカラと笑う冬一。確かに、生半可な努力とは言えないほど努力は重ねたが驚き過ぎだ、と言われてしまう。それ以降、売れっ子小説家の先生と話す会話が楽しくて同窓会の中で連絡先を交換して、真歩が休みの日にたまに呑む仲になる。
神渡真歩
芯を強く持つタイプではなく、流されて〜流されて〜、まあ良いか〜なタイプ。柔らかい猫っ毛の持ち主。なお髪色はミルクティーの様な色に染めている。ブラックに片足を突っ込んでいる一般企業に勤めている。身長175センチ、痩せ型ではないが筋肉は付きにくい方。にへら、って笑う。嫌なことがあっても言う様なタイプでは無いため、生きづらい思いをしたこともしばしば。波を荒立てないのが1番。平和主義者。
自身に大きな夢や目標がないため生きている理由も死ぬ理由もないから生きているタイプ。嫌なことがあっても表には出さないが誰よりも傷つく。好きな食べ物は山賊焼←以外と大食い。ただ、料理は割と男飯なので下手の横付きって自称してる。仕事が忙しい時はコンビニ飯を喰らってて冬一がハラハラしてる。
霧島冬一
最近売り出し中の売れっ子恋愛小説家予備軍。処女作がそれなりにヒットして重版するかも…?って感じ。専門学校在学中は執筆、執筆、執筆…の生活。故に家事の能力は真歩ぐらいかそれ以下。ただ、凝り性の為料理をはじめとした家事は嫌いじゃない。多分、一人暮らしの時放っておくと食事を取らずしてそのままぶっ倒れる。担当さんがきてくれて救急車呼ばれかけた過去ありそう。
身長182センチ、標準体型だけどわりかし筋肉がついてる。(腹筋に筋入ってるぐらい)
意外と心配性、ただ口には出さない(眉間に皺がよる)
喫煙者。真歩と付き合い始めてから本数を減らしてる
・話の流れ
真歩の人柄の説明(小さい頃)→社会人時空→つっかれたーってところにポストに手紙→数日後の時間軸。立席パーティに向かう→冬一との再会→セリフ無しでその後の流れ数ヶ月分ぐらい→呑みの席のシーン。冬一の話を聞く真歩。そこで冬一の生活力の無さを聞けば良いと思うよ→
(冬一の名前の由来⇩)
霧 きり む
島 しま とう
冬 ふゆ とう
一 いち かず
武灯 冬和
【本編】
小学生の頃、流行りの芸人のモノマネをする同級生を側にニコニコと人好きする笑顔を張り付けていた。周りは大爆笑の渦だが、どこか1人その輪に入りきれずにいた。
共感能力が低いとは自身は思わない。周りの楽しそうな話を聞けばそれなりに幸せな気分になるし、他人があくびをすれば簡単に感染る。それでもどこか感情が乗り遅れる感覚に居心地の悪さを感じているが、輪を乱さないようにそっと心に閉じ込めて笑顔を張り付けた。
大学を卒業したら周りと同じ様に企業に就職する。そんなもんだと思っていたし、実際自分、神渡真歩(みわたり まほ)もその様に動いた。4年間の大学生活の中で幾つか貰った内定のうち、給料、ボーナス、福利厚生が1番良さそうな企業に就職。よくあるデスクワーク職で、決してホワイトでもなく、ブラックとは言えず、グレーゾーンのな会社に悩殺され、帰宅すればコンビニ弁当を喰らいシャワーを浴びて就寝をするルーティンをこなしていた。何か劇的に楽しい様な悲しい様な生活などそこには無く、ただひたすらに毎日を消費していっている。そんな生活にもそこそこに慣れ始めた頃、真歩の住むアパートの集合ポストにある1枚の手紙が届いていた。簡素な封筒に包まれた薄っぺらいソレの上部にカッターを当て中を見やる。二つ折りの質の良い紙を見開くと『同窓会のお知らせ』と書いてある。内容をよく見てみれば高校時代の同級生が地元の会場に集まって、と言う良くある内容であった。委員会や体育祭などそれなりにイベントがあった高校時代、深くはないが浅く広く交友関係を築いていた真歩としては断る理由も無く特に何も考えず出席の枠を円で囲った。
某日、地元へ戻る為に都内から電車で40分程乗り継ぎ、懐かしい光景へ解き放たれる。田舎と言うほどではないが東京ほどの煌びやかさはない真歩の古巣。ある程度の大人数を収容できるであろう空に伸びるホテルのエントランスへ足を踏み入れた。自動ドアが左右に開き、屋外よりも若干暖かい空気が身を包む。少し重装備だっただろうかと羽織っていた冬用コートを脱ぐ。サラリと心地の良いタートルネックのインナーの上に硬くなりすぎない様にタータンチェックのジャケットを重ねた。ボトムスはシルエットがハッキリと出るタイトで暗めのものを選んでみた。シャンデリアと柔らかな絨毯が続くエントランスで受付を済まし、フロントスタッフに会場の案内を受けた。愛想の良い笑顔とよく揃った指先が向けた奥の扉に手をかける。重厚感のある扉は見た目通り力を込めて持ち上げる様にして開閉した。艶やかな環境になんと無く居心地の悪さを感じするりと中に入る。会場内はそれなりに広く、幾つか転々と大きめの円卓が散らばっており、カウンターから料理を適宜取る立食式のパーティのようだ。
幹事を務めた同級生に歩み寄った。高めの位置に髪を纏め、ドレスコードに匹敵するドレスワンピースを身に纏った彼女は、指名と幹事と書かれたネームタグを首から下げていない限り当時の同級生だとは見分けがつかなかっただろう。
「久しぶり、佐藤さん」
「あ!神渡くん!お久しぶり!」
他愛もない話を数回交わして彼女の元から離れる。はつらつとした人間性はあの頃のままでなんと無く安心したのを覚えている。人間の根底はそう簡単には変わらない。良く、〇〇デビューと言う言葉がある様に自分もその波に乗るものだと思っていたが、どんどん周りが花開いていく中、自分は一生蕾のままなのでは無いかと言う焦燥感がないと言えば嘘であった。恋人ができた、夢の職に就ける、etc…。同じ年に産まれ、同じスタートラインに立って同じ様に走り抜けるものだと思っていたが、自分ばかり子供のままだと。遅れをとっている様な気分は社会人になった今でも呪いの様に纏わり付いている。
「(暗くなってはダメだ…せっかく呼んでもらったんだから)」
疎らな同級生たちに背を向けて壁に向き直り両頬を手で叩く様に包む。笑顔を貼り付けて会場へ振り向く。突然の奇行を目撃した人物はどうやらいない様でホッと息をつく。折角なら並んでいる立派な料理を堪能しようではないか、積まれていた皿を1枚手に取りいそいそとホテルパンの前に立つ。洋食を中心とした色鮮やかな料理たちにキラキラと目を輝かせて気になるものを片っ端から盛り付けていく。パスタ、ピラフ、ドリア、ラザニア…。この祭、栄養バランスなど気にするな、心の中で悪魔の格好をした自分に言われた様な気がした。成人した今では幼少の頃の様に機能しなくなった基礎代謝を鞭打つ様に食べたいものをどんどん取っていく。おかげであっという間に山を作った最初の皿をホクホクとした笑顔で両手気持ち適当な円卓に着いた。次はビーフストロガノフにしよう。カトラリーを適当に取り、待ちに待った料理たちを頬張る。
「(…うんまぁ〜!)」
声には出さないものの蕩ける顔面は幸せを体現していたと言っても過言ではないだろう。アルデンテに茹でられた少し塩味を感じるパスタにまろやかなベシャメルソースと卵黄が絡んでいる。アクセントでじっくり炒められた甘い玉ねぎと、香ばしさを感じるベーコンがたまらない。最初に口にしたものであるがおかわり候補第一位である。
真歩が料理に舌鼓を打っていると、真歩の着いていた卓に1人の男が近寄る。そのまま真歩の隣にシャンパンを携えた真っ黒な電柱の様な男が隣まできた。
「神渡…だよな?久しぶり」
人好きする笑顔で自身の名を呼ぶ電柱。シャンデリアの灯りを反射する黒髪は側面にワックスか何かで貼り付けられており、多少遊ばせた前髪と合間ってか整った顔がよく見える。細身と呼ぶより引き締まったと形容すべき体格をさらに引き立てる形のいい黒いジャケットとシャツは第一ボタンを寛げられており、冠婚葬祭と呼ぶには少し遊び心を感じさせた。矢鱈と高い位置にある腰から伸びる両足からはこちらもまた光を弾き返す程磨き上げられた革靴が鎮座している。控えめに言ってかっこいい、同性から見てもかっこいいなんて、なんともずるい電柱だ。
どうやらこのイケメン電柱は真歩のことを認識している様であった。正直こんな派手な知り合い真歩には居ただろうか。口いっぱいに料理を頬張っていたがそれどころではない。咀嚼する口は鳴りを顰め、かと言って喋る訳にもいかずに無言のまま彼を見つめ返した。
「っぶは!あ〜悪い悪い!」
顔を背けて吹き出した電柱は口だけの謝罪をして掌をひらひらと振っている。ジャケットの胸ポケットから取り出された太い黒縁のメガネをかけるとなんとなく現れる面影にハッとさせられる。ゴクリと咀嚼物を飲み込み、真歩は嬉しそうに破顔する。
「霧島じゃん!」
【2話】
霧島冬一(きりしま とういち)という男とは委員会が同じであった。数少ない席替えで隣になった際、ホームルームの一環で委員会を決めたことがあった。その時に冬一に誘われた図書委員会に真歩も属する事となる。優柔不断でぱっぱと物事を決められなかった事や、事なかれ主義だったことも相まって冬一に委員会に誘ってもらえたのは御の字で、必要以上に悩まなくて済んだ。真歩にとってはその程度の認識であった。
だがどうか、いざ蓋を開けてみれば図書委員自体の活動は盛んなものでは無く、委員会決定後に開催された図書委員の集まりで、ローテーションで月毎の受付係を決定した以外に主たる活動は殆ど無かった。
それ故に真歩と冬一は深い付き合いにはならなかったものの、係の際図書室で隣り合って仕事をこなしていた時のみはよく話す仲だった。「あの作家が面白い」「このジャンルはお前好きそう」一言本に対して口を開いた冬一は饒舌で、楽しそうに見開かれた頁に釘付けになっていつまでもいつまでも語尾の音をはね上げながら語るのであった。そんな姿に真歩は意外な一面を見た、と感じていた。容姿端麗と言われても違和感のない造形を持ち、交友関係も男女問わずな冬一は、平々凡々趣味も穏やかな自分とはかけ離れ、趣味は音楽、車、アクセサリーといった煌びやかな物を想像していたが…人は見かけによらないものだ。
そして冬一は話が上手い。冬一が勧めてくれた本の内容はどれもこれも興味を掻き立てた。以前冬一から勧められた推理小説は時間こそかかったもののなんとか読破したのだった。そのことを冬一に伝えれば嬉しそうに破顔して、鼻息荒く「誰が好きだった?」「どのシーンが面白かった?」と捲し立てられたのである。真歩はどちらかといえば本を読む性格ではなった。それ故に読書好き同士が語り合う様な高度な会話こそできなかったものの、目を通した台詞や情景ひとつひとつを自分の言葉で冬一に伝えれば、感慨深そうに双眸を閉じて「わかる」とうんうん頷いてくれる。そこに知的さや明敏な会話などは無くただひたすらに少年2人が楽しそうに会話をする空気だけが流れていた。真歩はそれが嫌いでは無かったし、寧ろ楽しいとすら感じていた。それ以来、真歩と冬一は委員会がない時は冬一から勧められた本をじっくり読み込み、委員会で隣の席に座る時に会話をする仲となったのだ。
決して派手ではない冬一との交友関係に終止符が打たれたのは大学へ進学したタイミングであった。
メールアドレスを交換するほど近くにいたわけではない2人はお互いの連絡先など知らぬまま、其々の道を歩む事となる。真歩も、恐らく冬一も高校3年間だけの付き合いになると言うのは薄々感じていたがそれを無闇に口に出すことはなかった。真歩は人と別れる事があまりない、というより別れが訪れる程深い交友関係を築いた事が無かった為〝別れる〟というカテゴリに分類したことある人があまりいない、が正しいだろう。しかし何故、高校でもっと冬一と話さなかったのだろうと大学に進学した真歩はぼんやり考えた。もしかしたらもっと近い友達になれたかもしれない、自分の内側の暗部を見せてもあの笑顔で吹き出して笑ってくれるかもしれない、そしてなんでもない様に「お前らしいな」と言ってくれたのかもしれない。たらればを重ねて行けば何故自分は動かなかったと後悔が後をたたなかった。いや違う、きっと真歩は冬一に拒絶される事が怖かったのだ。誰に対しても何に対してもへらりと笑う仮面をつけている事、事なかれ主義で波を荒立てない、善悪こそついているが誘われた悪に対して否ができない弱い自分を、冬一の芯が通った声で否定されるのが、期待を裏切るのが怖かったんだ。だから3年我慢すればいずれ忘れてくれると打算的に冬一とは未来の約束を交わさなかったのだ。
そんな汚い自分は鏡写しの様にそのまんまに成長した。おかげか真っ直ぐで綺麗な霧島は見事な〝大人〟へと成長していた。しかしながらそんなまっすぐな霧島との数年ぶりの会話は実に楽しかった。あの頃とは違う目線、履歴、声だけれど根本は矢張り霧島である事には変わりない。双方が共有している昔話に笑い合って気付けば同窓会は解散時間目前であった。
「なあ、神渡。正直お前とはまだ話し足りない。
今度飲みにでも行かないか?」
そう言ってスマホを取り出す霧島。操作している指先は恐らく通話アプリを呼び出しているのだろう。
以外な誘いだった。まさか自分が高校時代に避けていた道に霧島が突っ込んでくるとは、と。ここで連絡先を交換することを渋れば聡明な霧島のことだ、きっと何か変な勘繰りをされるに違いない。なにより霧島からの誘いを無碍にできるほど彼を知らないわけじゃない。嫌な音を立てる動悸を隠して顔に笑顔を張り付け、スマホをポケットから取り出す。
「勿論だよ、LMINでいい?」
「ありがとう。そう言えばなんだかんだ連絡先の交換初めてだな」
QRコードを読み込んで初めて見るアイコンが表示される。それを追加するのを少し躊躇った。かく言う冬一は真歩のアイコンを迷いなく友達追加する。そして霧島に痛いところを突かれてドキッとした。
「あ、…ああ!おれ、スマホ買ったの大学からだったから…」
「え!?マジかよ。今時小学生でももってんぞ?」
ごめんなさい嘘です。普通に高校時代には持っていました。苦し紛れの言い訳と苦笑いを貼り付けて藁にもすがる思いで流されてくれ、と心の中で永遠と暗唱する。
「…まあ確かに神渡って学校にスマホ持ってきてなかったよな。持ってなかったなら当たり前、か」
「そ、そうそう。はは…」
苦し紛れの言い訳だが、冬一なりに理解してくれたらしい。もしかしたらただ根掘り葉掘り聞き出すのを避けてくれた優しさなのかもしれない。しかし今はその優しさに甘えようと思う。さっさと次の話題を振ろうと頭を回転させる。
「そう言えば、霧島って今何してるの?」
「あ、俺今小説家やってる」
恥ずかしそうに右頬を掻きながら、それでも楽しそうに形のいい唇を横に伸ばして笑う冬一。「意外だろ〜?」と恥ずかしさを隠す様に敢えておちゃらけてみせる冬一に対して、真歩は、そっか。と1人納得をしていた。元々委員会活動中であっても真っ直ぐ本に情熱をぶつけていた冬一には最善な仕事の様な気がする。造詣も深く、本から得た知識にも長けている冬一であれば小説家をしていてもなんらおかしくない。それ以上に、自身の創作物を世に打ち出す熱量と器量の良さに感心してしまっていた。
「え、そうなの?凄いね」
「凄いかどうかは分からねぇけど、まあ…それなりに努力はしてきた、と俺は思ってる」
徐に視線を上げて遠くをぼうと見つめた冬一はなんだか眩しく見えた。「努力してきた」そう言い退けてしまう冬一の目は今何を写しているのだろうか。過去の自分か、将又大成した未来の己か。どちらにしても真歩にとっては遠い存在であることには変わりなかった。胸を張って頑張ったことなど、おれにはあるのだろうか。過去を反芻しても、なし崩しに入学した大学、死なない程度に働いている今の会社。できる努力など星の数ほどあるだろうにそのどれもを無視してきて今の自分がある。もしかしたらその努力があれば真歩の思う〝大人〟になれたのだろうか。目の前の大人は可能性を1つずつ極めて星の様に輝かせて自分だけの宇宙を作ったのだろうか。キラキラと輝く努力の星々。大小あれど磨きをかけられたソレは誇りを持って空を照らしている。
じゃあ、おれは?おれの宇宙には何が残っているんだろう。
ただぽつんと真歩だけが取り残された空には武器と呼べるものは揺蕩ってはいない。前後もわからなくなる暗闇の中、道標となる輝きもなく途方の明け暮れて最後は果てる未来が想像できて、なんだか悲しくなった。そしてなんだか冬一の方を見る事ができなくなった真歩は冬一から目線を逸らす様に床を見た。
「あ、雪だ。」
「え?」
ホテルの出入り口である自動ドアを2人で肩を並べて出てくれば冬一がふとそんな言葉を漏らした。驚いてパッと顔を上げれば街灯に照らされてゆらゆらと不規則に白い結晶が降り注いでいる。どうりで寒いわけである。急いで腕にかけていたコートに袖を通す。多少マシになった寒さも人肌が移っていないコートでは暖かいとは言えず、この中を歩いて回るには心元なさすぎた。
「うわ〜寒みい…」
「本当だね…これは、早く駅まで行こう」
ずらずらと同窓会にいたメンバーが駅までの道を歩いているが、飲酒をしたものも多く体温が上がっているのかバグっているのかゆったりとしたテンポで歩き続けているが、真歩には寒さでその緩やかな歩調だと体が温まる前に凍死してしまうと本気で思った。
「はは!神渡寒そうー」
「寒いよ!霧島は平気なわけ!?」
「俺も寒い!」
コートのボタンを全て閉じてポケットに手を突っ込み首を縮こませてどうにか暖を取ろうと必死な真歩の首元に暖かい何かを感じた。男性物の香水と少しのタバコの匂いを感じるふわふわとした温かな感触。驚いて目を開ければ冬一ががやけに優しい笑顔で真歩に自身のマフラーを巻いている様であった。黒色でシックなソレをぐるぐると何度も顔の周りを周回させて先端同士を一回結ぶ。
「よし!」
「は?え?何?」
「見てらんねぇぐらい寒そうだから貸してやるよ」
「ほらほら頑張れ〜」なんて語尾を伸ばす冬一は踵を返して集団の後を追っていく。突然の事に動揺して歩みを止めてしまったが、ハラハラと舞う雪が冬一を攫っていってしまいそうな気がして急いで歩調を戻した。
「き、霧島!」
「お前さ」
突然、先ほどまでの楽しそうな声色は鳴りを顰め、悟らせる様に真っ直ぐ、でもどこか優しげな芯のある声で真歩の名前を呼ぶ。遅れをとってしまって冬一が今どんな顔をしているかは見えない。しかしきっと今の冬一は真歩に「努力をした」と告げた時と同じ顔をしている気がした。とくんとくん、と自分の心臓の音が耳に聞こえるぐらい周りの音が掻き消された心地である。そしてその冴えた耳は一語一句冬一の声を聞くために働いている。
「お前って、自分が思っている以上にしっかりと生きてると思うよ。少なくとも俺はそう思ってる。だからさ、そんな悲しそうな顔するなよ。人っていうのは案外子供だけど憂いを帯びる程大人になれてねぇ訳じゃねえよ」
「だからさ」そう言ってこちらを振り返る冬一の双眸には、間抜けな顔を提げた真歩が写っている。雪の中互いに鼻を赤くして、口から漏れる息遣いが白く可視化されている。でも、それでも冬一はなんだかんだカッコよくて笑っていて真っ直ぐ真歩を見つめていた。
「諦めるにはまだ早ぇんじゃねぇか?」
神渡真歩には夢がない。大学も会社も今の自分が入れる所をなし崩しに選んで、〝いい人〟の面を顔に貼り付けて過ごしていた。その生活は真歩が死ぬまでずっと続いていくものだと真歩自身も思っていた。
だけど、それも今日限りなのかもしれない。雪が運んできた思いも寄らないきっかけと言葉に真歩の心が揺れ動いてしまったのだ。
【2話】
同窓会から2ヶ月ほどが過ぎようとしていた。冬は鳴りを顰めるどころか厳しさを増し、水を得た魚のごとく勢いを増している。
あれから霧島とは適宜連絡を取り合う仲となった。大体の連絡と言えば霧島からの飲みの誘いが専らで、『次の金曜日あって飲みに行こう』だとかに1、2を返して了承する。見返したLMINといえば、霧島の提案、真歩の了承、時刻の共有、真歩の了承…の繰り返しである。実に味気ないシンプルなものだった。かく言う本日の夜半も霧島との飲み会の日である。デスクワークもそこそこにしたいがどうにも区切りが悪くズルズル仕事をしていればあっという間に定時は過ぎ、花金に浮き足立つ同僚達を恨めしげに見送った。
やっと真歩が解放された頃は、定時から1時間程過ぎた時刻。霧島に指定された時刻は15分後に迫っていた。元々酒類が強くない真歩は、どうせ飲むのであれば自宅付近が良い。霧島もそれを承知しているからか毎回通っている店は会社から離れてはいるが真歩の自宅からはそう遠くはない。つまり、決して15分では居酒屋に付かない距離である。油断した。霧島との飲みの際は遅れる事なく合流する事が常だっただけに今回の残業は予想外もいいところである。慌ててスマホでLMINを呼び出し霧島へ連絡をする。
『ごめん、残業した。30分後に着きます』
怒っているだろうか、と不安になりながら暫しスマホを両手に携え画面を睨む。するとあっさり既読が付き、霧島からの返答が返ってくる。
『お疲れ。先始めてるから気をつけて来いよ』
そのメッセージの後によくわからない犬のようなモノがどえらい笑顔でサムズアップしているスタンプが送られてきた。良かった、怒ってはいないようだ。霧島はマイペースだが、変なところで気がきく男である。このまま真歩が着くまで外で待っていると言えば、寒空の下で待つ霧島を案じて真歩から「室内に居ろ」と言われるのは目に見えている。その手間を省いて一手先を見越した行動をとる、ついでに真歩を労わる方ができる男である。気性な奴と苦言を呈したいがこれも僻み故でしかないのだろう。真歩はひとつ鼻を鳴らしてからスマホをポケットに仕舞い駅まで急いだ。
自宅最寄りから急行で2つ程離れた駅で下車をする。居酒屋までの道のりこそ心得ているがそれ以外の場所はあまり良く知らないため、脇見せずに一直線行き慣れた道を進む。暗く足早な人たちが行き交う路地をひとつ曲がると急に明るい雰囲気を醸し出すこの瞬間が案外嫌いではない。冬ならではか、外気とは裏腹なオレンジ色の優しい灯りが両脇を点々と煌めいており、何処からともなくいい匂いが漂う。暖簾を引っ提げた家屋が左右に並びその中から「商い中」と書かれた分厚い看板が立てかけてあるひとつの扉を横にひいた。
「いらっしゃいませェ!」大きく伸びやかな店員の声に木霊する様に店内の所々から迎え入れられる様な元気な声が聞こえた。冷えた外の空気を忘れさせてくれる様なアットホームさが真歩と冬一は気に入り贔屓店へとなった。そのうちの1人が真歩の方へ駆け寄り愛想のいい笑顔で「1名さまですか?」と小首を傾げて微笑んだ。周囲の雑談に掻き消されない様に少しばかり声を張って店員と会話をする。
「待ち合わせです」
「かしこまりました!どうぞ」
半身を引いた店員の前を歩き冬一を探す。後ろから「お待ち合わせ様ご来店です!」とこれまた元気の良い溌剌とした声が聞こえた。待ち合わせと言う単語に顔を上げる男がいた。そちらを見やればにこりと笑みを携えた冬一が片手をゆるゆると振っている。冬一の方へ歩みを進めて着席がてらに軽く謝罪が口から出た。
「ごめんね、遅くなって」
「だから気にすんな。先初めてっから。ほら、神渡もなんか食え」
邂逅の辞もそこそこにメニューを手渡してくる冬一に苦笑いを浮かべる。僕ってそんなに食いしん坊に見える?まだ訴えかければ先に注文していたであろう焼き鳥串を頬張る冬一がフッと笑った。無言は肯定、か。
手渡されたメニューにはズラッと料理やドリンク、アルコールが記載されている。何を頼もうかと吟味する。酒を入れる前に先にソフトドリンクでご飯を食べよう。ここは焼き鳥が旨い。しかしながら居酒屋と言えばなだし巻き卵や梅水晶なんかも捨てがい。あ、こっちの炒飯、ここの焼き鳥入ってるんだ…これは、旨いんだろうなぁ…。あれやこれやと商品に目移りしていれば、目の前の冬一が吹き出す声。何かと思って目線を上げればタバコを持った手で口元を覆っている。
「…?なに」
「いやぁ?神渡ちゃんは百面相が上手だなって」
「あ、お願いします!」と半笑いの霧島が店員さんを呼んだ。その仕草こそスマートであるが、真歩を揶揄うのが楽しくて仕方ないと書かれた顔面に細やかな苛立ちを覚えた。
「霧島がちゃん付けしてくるのって、僕を揶揄う時じゃん!なんだよ!」
「まあまあ、そうかっかしなさんなぁ。褒めてるから」
「…褒めてないだろ?」
更に言い返そうとした時、ちょうど店員さんがこちらへやってきて片膝をつく。「オーダーお伺いします!」ささやかなる戦争の終止符が打たれた瞬間である。にやけ顔の霧島をじっとりとした視線で睨み返しメニューに向き直る。
「炒飯と焼き鳥の…つくね、かわ、もも、ぼんじりを…全部タレでください。あとー、だし巻き卵、餃子、手羽先、梅水晶、韓国海苔。あ、あと烏龍茶でお願いします」
「おいおいおい。頼み過ぎだろ?」
驚いた、という視線を向けてくる冬一にふふんと鼻で笑ってやる。僕を誰だと思ってる。
「万年お家から出ない人とは、体の作りが違うんです〜」
「お?喧嘩か?買うぞ?それに、俺は家から出ないんじゃない、出なくても仕事に差し支えないから出ないんだ」
「どうだ…か!」
「あ!おい!」静止する声なんか全部無視して冬一の目の前にあった美味しそうな焼き鳥を一本拝借する。うん、うまい。「大事に取っといたのに…」と項垂れる冬一に「先に喧嘩売ってきたのはそっちでしょー?これでおあいこ」と言って焼き鳥を貪る。もちろん笑顔は忘れない。
「全く」顔を上げた霧島が軟い瞳でこちらをみやる。頬杖をついて形のいい顔を男らしい広く節のある掌に乗せる。造形の良い唇がゆるりと歪みなんとも言えない端正な表情で小さく呟いた。この騒がしい居酒屋の中では何を言ったかまでは聞き取れず聞き返すと、「なんでもない」と一蹴してタバコを灰皿に押し当てた。
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【一次創作】「神渡真歩には夢がない」の執筆【BL】
初公開日: 2025年01月31日
最終更新日: 2025年01月31日
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外部サイトに掲載している、「神渡真歩には夢がない」の執筆してます。
前作が気になる人は→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=23680953
を見てくれ。
一次創作です。
BLです。
尻叩きソイヤです。
今日会員登録しました。
駆け出しもいいところ。
アンチコメNG。
対応方法がわからないので。
CoC6『レプリカントの葬列』二次創作 タイトル未定
CoC6『レプリカントの葬列』二次創作。私はHO怪盗をもらいました。 我が家の怪盗・四谷千影の昔話。…
唯代終