「そのステージなら、ちょうど先ほど紹介されたので出ようかと考えていました。あ、もちろん主人公として。」
「なに?本当か!ありがとう、本当にありがとう。」
何度も頭を下げられ、さらにはチャームポイントのように見えたサングラスをとって涙目すら見せてきた。ジョンケはアントワーヌにとっては大の先輩で、頭を下げられることなんてありえないはずだった。
しかし、ジョンケはアントワーヌの手を握って深々と礼を繰り返す。やっぱりおかしいんじゃないかと困惑はしつつも、内心結構喜んでいるアントワーヌの姿もそこにあった。
(これが社会か・・・・・・・)
「それじゃあちょっとついてきてほしい。時間はある?」
「大丈夫ですけど、どこへですか?」
「おじさんに会いに行く。」
ジョンケとともにオフィスを飛び出ると、すでに個人用のタクシーが手配されており、二人はその車に乗り込んだ。
「いつものところに。」
「わかりました。」
常連客のような言い方をして、「いつもの」という場所を指定する。たった一言だけの指示に動揺をする暇もないまま車が猛スピードを出して走り出した。
「すいません、フリアンさんはどこにいらっしゃるのですか?」
速度制限を知らないかのようなスピードで走る車。レースで一位をぶっちぎる名車のようだった。
「見てればわかる。」
窓を見ると横切る景色全てがブレていて、「見てればわかる」なんてよく言ったもんだと思った。大量のビル、無数のガラスに反射する車の動きさえまともに捉えることはできないまま、ただじっとその景色を見つめていた。
すると、たちまちビル群が姿を隠して無数のガラスが無数の扉に変わった。オフィス街を抜けた合図だった。しばらくすると大きな建物が見えてきた。
「よし、いつもありがとう。また今度お礼させて。」
「はい、ありがとうございました。」
カードを出しながらそんな会話をする二人を横目に、街に突然姿を現した建物を見て、アントワーヌは察した。
「よし行くよ。」
左右のドアが自動的に開けられ、ジョンケが先陣を切るようにしてアントワーヌの前に立った。
「フリアンは、毎日ここにきてるんだ。」
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