なあ聞いてや。信介ってヒドい奴やねん。俺のこと好きでもないのに抱くんやで。俺が抱いてって頼むからしゃあなし抱くねん。そのくせチンコはばっちり勃たせとんねんからなぁ。おんなじカラダやからエエとこもよう知っとるらしくて、俺がイってもイってもトびそうになったって許してくれへん。そうやってヒドいことしたら俺が懲りてエッチに誘わんようになると思っとんねんで。ホンマ、そういうトコがいっちゃんヒドい。
「何ひとりでブツクサ言うとんねん」
信介の冷たい声が飛ぶ。動かんでも汗かくくらいじっとり暑いのに、信介だけは涼しそうな顔をしとる。さっきまでパンツがぐちゃぐちゃになるようなセックスしとったのに、風呂から上がったらスンとしとる。温度差すごぉ。俺はまだケツん中ムズムズしてしゃあないのに。
「ひとりごとちゃうもんー。キンタローと喋っとるんやもん」
「誰やキンタローて」
誰や、やってさ。冷たいなぁ。青いポリバケツの側面をとんと叩けば水面に波紋が立つ。重なり合って訳わからんくなって消えていく。再び静かになったポリバケツの中を、赤くて小さな金魚が泳いでいる。
「金魚やからキンタロー」
「金太郎はまさかり担ぐやつやろ。海に行くんは浦島太郎や」
信介がようわからんことを言うから首を傾げたら、信介も微妙な顔をしてタオルで髪を拭いた。
「飼うつもりか」
「どうやろなぁ。キンタロー次第やろかなぁ」
「金魚は喋らんぞ」
「ウチ、北キンタローになりたいわぁ」
「何言うとんねん」
裏声を出してキンタローの気持ちを代弁したったのに、信介は心底呆れた顔になった。ほんまヒドい。俺は何も間違うてへんのに。キンタローはここの家の子になりたいって〝言うとる〟し、ほんまに飼えるかはキンタロー次第。聞こえんねん。俺、湖生まれ湖育ちやから、キンタローの言葉がわかる。あのとき俺に掬われたがっとったんも知っとるし、このポリバケツの中で明日まで生きとれるかわからんのも知っとる。俺がキンタローを掬ったんは祭りの帰りしなのことやった。こんな時間に店なんか開いてへんから、金魚飼うためのグッズを買うてくることはできんかった。苦しいやろな、ただの水道水は。俺も思うもん、ときどき。陸は苦しいわ、って。
「キンタロー」
信介がバケツの目の前にしゃがみ込んだ。日焼けした手が水面にかざされて、パラパラ、と何か細かいものが落とされる。
「何したん?」
「塩。ちょっとだけ入れたったら元気になるんやって」
「海の魚やないのに?」
「俺もよう知らん。さっきネットで調べた」
信介は相変わらず顔色ひとつ変えずにそう言って、小さな小さなヒレでせっせとバケツを泳ぐキンタローを見下ろして、元気で頑張りや、とエールを送った。
「ほんならおやすみ」
バケツの側面をそうっと撫でて、信介は立ち上がった。はだしの足の裏が畳をぺたぺたと踏んで去っていく。
ほらな、キンタロー、信介ってヒドい奴やろ。ああいうことすんねん。そのせいで俺は海の魚になってもうた。湖に戻りたいのに戻られへんくなってもうてん。えーんえーん、信介のせいや。まあ嘘なんやけどな。こんなに毎日オモロいのに湖になんて帰ってられへん。悪いけどキンタロー、湖の女神によぉ言うといてや。なあ?