「あのな、二会敷」
「なんだい?」
「私や上は、お前に所の監視を命じたはずだ。秘密を抱いている場合は暴き出せと。(ここで兼東司令はため息を吐く)………我々は。お前と所の同居模様を聞きたいわけじゃない」
「でも、全部報告しろって言ったじゃない」
二会敷は不思議そうに肩を竦め、両手を天井に見せるようなポーズをした。その外国じみたポーズに、それが様になっている二会敷に、兼東は思わず声を荒げる。
「私が言ったのは、”不審な点は全て報告しろ”だ! お前と所がスーパーに行こうが、定食屋に行こうが自由だ。勝手にしてくれ。それをいちいち私に報告してどうする!」
だが二会敷は怒声にも素知らぬ顔である。直属の上司であるはずなのにどこか馴れ馴れしいため、彼らはどうやら顔馴染みらしい。だから無遠慮なのか、二会敷は兼東の目を見た。
「だってそれなら諦めるかなと思ってさ。まだ国防軍の”おじい様”は息災なの?」
二会敷少将の”おじい様”という言葉に、兼東司令は眉を顰めたあと、その感情を全て飲み込んでため息に変えた。それを私に言わせるのか、と言わんばかりの口ぶりである。
「それはお前の祖父だろう。身内の事は身内でなんとかしてくれ」
「暫く会ってないからなぁ。でもさぁ化け物だよねぇ、宇宙大戦の生き残りなのに、まだ軍の中枢部に居座ってるんだからさ…」
「二会敷特別顧問のことは、私は何も言わん。それに今回の事に、国防軍からの見解は求められていないんでな」
「でもおじい様は気に食わないんだろうなー。誰よりも宇宙人を憎んでた人で、まだ憎しみの炎は絶えてないらしいからねぇ」
50年も経つのにだよ?と二会敷は言うが、人間が抱く情の強さは、人間の欲望の全ての原動力だ。そう簡単に火がつけば、消すことは容易ではない。その欲望や好奇心で、人体実験を自らに課すお前が言うのかと兼東は呆れ顔である。すると二会敷は何かを思い出すように、天井を見ながら呟いた。
「あーあ、ひいじい様がいたらなぁ…僕の研究手伝ってもらえたのに」
「お前のひいじい様は、科学者だったそうだな。軍の技術革新に協力したと、今でも功績がたたえられている。だがご逝去された方に思いを馳せていても意味は無い。…所の立場を守りたいのなら、もう少し賢く立ち回ったらどうだ。”家族を利用してな”」
そこで二会敷は、反撃とばかりに呟いた。
「そういえば兼東くん。兼東閣下はお元気だったりする?」
「父のことは私は知らん。住まいも別だ」
「そうか。でも、兼東くんも手伝ってくれたら助かるのにな」
二会敷の言葉に彼女は目を細めた。
兼東は若くしてEDF司令として着任し、将官は大将を国から賜っている。彼女の実力と冷静な判断力が認められた本人の努力の結果だが、人々は妬みか好奇心かで彼女について口にしてしまうことがあった。”この異例の出世は、EDFと国防軍を統括する国防省のトップである、兼東閣下の娘だからだ”とーーー。
だが何千回も聞いてきた陰口に、今更彼女は動揺もしない。
「閣下は閣下だ。私には関係がない。どうしようも出来まいよ」
「でも娘さんの信頼ある言葉ならさぁ」
「聞く人間であったら、とっくの昔に会話している」
「そうなの?」
「そうだ。…血筋などくだらん。私のこの立場は、全て私の力で掴み取って来たつもりだ。父上は関係ない」
二会敷はもう一度肩を竦めた。
「じゃあ、お父上にもおじい様にも諦めてもらうために、これからも兼東くんには下らない日常を聞いてもらうね」
「おい二会敷」
「それじゃ!」
「こら二会敷!」
兼東司令が引き留めようと思っても、二会敷はさっさと司令室を出てしまった。しかし夢見がちで若い銅矢といい、自分を昔から知るから気安い二会敷といい…。
「まともな部下はおらんのか、まったく」
その時都合よく、こんこんと司令室の扉を叩く音がする。入れ、と言うと所だった。義手に書類を手にしている。
「恐れ入ります、兼東司令。先日のR星人のレポートの件ですがよろしいでしょうか」
「構わない。しかし、もうレポートを任されているのか」
「あ、はい。二会敷少将だけでは手が回らないそうですから…過ぎた真似だと思いますが、公文書として少将が作成した物と併せての物ですので、私が手伝ったとは記録には残りません」
「貴殿は、それでいいのか」
「ええ。まだ疑いが完全に晴れない身ですし…何より気が紛れますから」
「そうか。まあ二会敷の指示に従ってくれれば私も問題はない。では受け取った」
「ありがとうございます、それでは」
所はそう言って深々と一礼して司令室を去って行く。他の職員も礼儀は当然身に付けているが、直属の部下とどうしても比べると…丁寧だ。所が部下だったら良かったのに、と思うのは贅沢な事だろうか。兼東司令は几帳面そうなレポートに目を落とした。
「妹さん?」
「はい、貴由にちょっと会って欲しくて」
銅矢に呼び止められ、世間話をしながら廊下を歩いていると突然の申し出である。所は思わず足を止めていた。
「しかし、一般の方は私には…」
「あーそれは、俺が説明してます。妹には所さんが来た日から言ってたんで」
「でも、なんで私に?」
「所さん、出掛ける時に変装してるって聞いたから」
おそらく二会敷から聞いたのだろう。言われた通り、所は出掛ける時には髪型を変え、マスクで特徴的な口元を隠している。サングラスまでするとかえって目立つからというので、今の所はそれだけだ。それほど、大衆の目が怖いのである。EDF本部に押し掛けて、デモまで起こして物を投げて来た民衆が、それが総意ではないと思っても街を出歩くのは怖くなっていた。二会敷は必要ないと言うが、変装してもどうも道行く人々の目が突き刺さるようで、すっかり怯えているのである。
だが銅矢は真向からその事実に向き合いたいようで、まっすぐに所を見つめた。
「この世界の人間も、あんな人ばっかじゃないって知って欲しいんです。だから妹に会って欲しくて」
「う、うん。銅矢くんがそう言うのなら…」
「やった! それじゃ」
「あ、でも、その。一人じゃ怖いから…二会敷くんも一緒にしてもらえると助かるんだけど…」
「少将もですか? もちろん、…いいですけど…」
含みがある言い方であった。銅矢は、妹の中のヒーローが自分ではなく二会敷に取られた苦い過去を思い出していた。もう仕事を一緒にしている為、二会敷少将のことを貴由に話す事もある。憧れはまだあるらしく、それでも主役は自分であり続けているので、かろうじて了解を出したのだ。
結局妹は、まだ二会敷少将に会った事が無いのである。もしかしたら再燃してしまうかもしれない、と思うもののそこは所の為だと、銅矢はぐっと堪えるのだった。だが苦い顔をしていたのか、所に心配されてしまう。
「あ、嫌ならもちろんいいんだよ? 無理しないで…」
「へ? あ、嫌じゃないです! 大丈夫です!」
はははと思わず笑ってごまかしたが、世界で一番大切な妹である。まだ取られるのは勘弁してもらいたいようだ。銅矢のその葛藤には気付かず、所は首を傾げるが、新しい人間にであるのも確かにリハビリとしては重要である。よろしくね、と銅矢に伝えて後日日取りを決めることになったのだった。
「緊張する?」
二会敷の運転する車の中である。ナビはあと10分で銅矢との待ち合わせ場所に着く予定だ。助手席の所は少し顔色が悪くなっている。
「ン…少し。ここに来てから、EDFや公安の人以外は顔を合わせたことないからね…ちょっと怖くなってきた」
「まあ、どちらかというとコミュニケーション取る感じじゃなかったからねー。敵意とか悪意とかばっかでさ。僕はいいアイディアだと思ったよ」
「うん分かってる。銅矢くんの事も信頼してるけど、やっぱり…」
「でも怖い、か」
「うん」
無理も無いことである。この世界に飛んでしまい、死ぬはずだった所は一生分の悪意や敵意を一身に受けた。二会敷にはその苦しみは分からないが、共感できないほどに鈍感であるつもりもない。ウソ発見器や自白剤の使用をしても、嘘の供述などを一度もしなかった気高い人間だとは思っている。だがその心はどれだけ傷が付いたことだろう。
「あ、着くね」
「う~怖くなってきた…」
「大丈夫だよシゲさん。僕がいるでしょ」
二会敷はつとめて明るくそう言う。銅矢が指定したのは、居住区内にあるコインパーキングだった。近くには公園や図書館があり、住民が落ち着けるような空間である。おだやかな場所であったらいいかと考えた結果だった。車ばかりの駐車場に、ぽつんと兄妹が二人立っているので、それは目立った。二会敷は空いている場所に停めると、所も意を決して降りる。ばたん、と扉が閉まり、ピッと鍵が閉まる音がすると、いよいよ所は隠れる場所が無くなった。もう銅矢の妹と対面するのである。土産に持ってきたお菓子の袋を手に、ごくりと生唾を飲んで頭を下げる。銅矢たちも頭を下げたようだ。
ぎこちない三人に、二会敷が陽気に入って来る。
「みんな、そんな緊張しなくても」
所は二会敷を恨めしそうに見た。
「二会敷くん。しょうがないでしょう…あ、これ。二人で食べて欲しくて選んだんだ。よかったら」
そう言ってお菓子の紙袋を差し出すと、兄妹は顔を見合わせたのち、お菓子に釘付けになった。
「え、そんな良かったのに…! いいんですか!」
「わーありがとうございます!」
きょうだいらしい反応である。喜んでもらえたなら良かった、と所はまず胸を撫で下ろした。贈答用のお菓子である。二人家族と聞いていたから、そこまで量はもたせなかったが、それでも十分喜んでもらえたようだ。妹が所を見上げてにこっと笑う。
「貴由です、よろしくお願いします!」
「所です、…よろしくお願いしますね。貴由さん」
「えへへ、貴由さんだって。大人の人みたい」
銅矢に照れながら報告する彼女に、久しぶりに人間らしい会話をした気がすると思った。だが年齢差がありすぎて、次は何の話題をすればいいものか。貴由の興味のあること、好きなことを聞いていくうちに、ふと貴由が所の両手を見やる。その大きな目が丸くなるのを見て、所は思わず右手で左手を庇うように重ねた。
「あ、ごめん。…怖かったかな」
両手が義手なのはこの世界でも珍しいだろう。だが貴由はにこっと笑うと、自分の右足を指差した。そこにあるのは義足である。
「同じですね!」
それからの二人は、打ち解けるのが早かった。互いのリハビリの話になり、共通の話題を持ったことで会話が弾んだようで、公園のベンチに座って苦労話をしている。銅矢と二会敷は離れた所で見守っているような形だ。休日であるが、10時なので人影もまばらである。これからもっと人は増えるのだろうが、今の所なら大丈夫だろうか。そう考えて銅矢がほっとした顔を見せた時だ。公園に、大量の子供用自転車が停まり始めた。わらわらと運転手の子供たちが集まって来る。所は貴由と談笑していたし、銅矢と二会敷は邪魔にならないように自販機にコーヒーを買いに行った瞬間だった。
びしゃっ。
冷たい物が唐突に投げつけられ、所は驚いて周囲を見渡す。本当に唐突だった。そのため、胸元に一つの泥団子が半分潰れて乗っていることに、しばらく気付かなかったのだ。気が付くと、おそらく小学校低学年ほどの子らが所達のいるベンチを取り囲んでいる。一瞬の出来事だった。その中でもガキ大将であろう一際からだの大きい子が、腕を組んでにやにやしている。所は呆然としていた。貴由も、状況に気付き、子供と所をなんども往復して見ている。そこで、ようやく銅矢達が戻って来た。
「えっ」
銅矢の目には、子供に取り囲まれた所のシャツが、投げつけられただろう泥団子で汚れているのが写る。誰の目にも明らかに、子供が投げたのだ。逃げ場を無くしての、一方的な暴力である。銅矢はふつふつと怒りが湧いてくる。所と貴由は、何もせずにただ公園で談笑していただけなのだ。それなのに。子供たちはスパイだ、スパイだと騒いでいる。公園にいる他の大人も、何事かと視線を見やって来た。このままでは騒ぎになる。大人も所を糾弾するかもしれない。
銅矢が声を張り上げようとしたその時だった。その前に、叫ぶ者がいた。
「こらぁああああああ!」
貴由である。鬼のような形相で、立ち上がり、子供達を叱り付けるように声を張り上げたのだ。銅矢は驚いて声が引っ込んだ。二会敷もわあと声を上げる。貴由の剣幕に、子供たちは驚いてしまい、次に投げようとする泥団子を落としてしまっていた。
「何してるの!」
「だ、だって。スパイだって…」
「だからって泥団子投げてもいいの?! 大人がそう言ったの?! 誰が言ったの!」
「え、だ、だって…」
「その大人の人連れて来なさい、それとも自分で考えたの?!」
「じ、自分で考えました…」
「どうしてそんな事したの!?」
剣幕に気圧され、子供たちは加害者であるのに涙目である。宇宙人のスパイだから何をしてもいい、そういった親の言動が子供に影響を与えたのは間違いないだろうが、子供であるから影響を受けやすいのは仕方がない。子供は総じて残酷なものである。所は、貴由をおろおろと見やると、いいんだよと言った。
「だ、大丈夫だから貴由さん」
「所さんは黙ってて!」
「ハイ…」
「謝りなさい。勝手に泥団子投げたんだから、謝って!」
「え、あ…」
「謝りなさい!」
「ご、…ごめんなさい!」
ガキ大将が頭を下げた。周りにいた子供たちも頭を下げる。貴由はふんすと息を鳴らすと、大人を呼んで来てと言うが、それを所が留める。もういいから、と言うと子供たちはその隙に蜘蛛の子を散らすように逃げて行ってしまった。その背にも貴由の怒声が響き渡る。
「もうそういうことしちゃ駄目だからね!」
「はーい!」
怯え切った声が返って来た。そして自転車に慌てて乗ると、何故か自転車ごと転びかけながらもどこかへ走って行くのだった。貴由はふーっと息を大きく吐く。怒りに任せて怒鳴ってしまったので、体には血潮が巡り、ぽかぽかとしていた。顔は紅潮している。もう、とまだ怒っているようだ。
「所さん優しいから…クリーニング代くらい出してもらってもいいのに」
「いいんだよ。貴由さんが狙われなくてよかった。泥は、乾いたら落ちやすくなるんだ。今やらなくても大丈夫」
「むー」
こんなにいい人なのに、と貴由はあまり納得がいかないようだ。周囲の人間は偏見で、マスコミの報道を信じ切っている。銅矢が何度も良い人だ、と言うのを貴由も完全に信じられていなかったが、会ってみて良い人だなと感じている。それを踏みにじる形の事件だ。彼女が憤慨するのも無理はない。
「テレビって無責任だね」
「いいんだよ。貴由さんが分かってくれればいいんだ。少しずつ、分かってくれるよ」
「うーん」
貴由は悩む。それは銅矢が悩むときの顔で同じで、所は思わず笑ってしまった。その笑みに、貴由は思わず不思議そうな顔をする。
「どうしたの」
「ううん。銅矢くんの妹さんなんだなあ…って」
「なあにそれ?」
そこに銅矢の声である。貴由の剣幕に驚いていたが、慌ててやって来たようだ。
「貴由!」
「お兄ちゃん!」
「大丈夫だったか? あんまり無茶しちゃダメだぞ…驚いたから」
「ごめんなさい。つい頭に血が上っちゃって」
本当に驚いたらしく、銅矢ははあとため息を吐いた。妹の見知らぬ一面を見て、兄は驚いたようである。二会敷はといえば、兄妹の邪魔にならぬように所に近付いて、声を掛けて来た。
「シゲさん、汚れちゃったね」
「ああ、ごめん。でも胸だから車は乗れるよ」
「怪我はない?」
「うん。びっくりしただけだよ」
せっかくの時間だが、ここでお開きとした方がいいのかもしれない。所に怪我が無いのが幸いだが、汚れたままでは店に入るのもはばかられる。ちょうど昼前だしと解散することにして、今日はありがとうと何度も礼を言うと、兄妹は駐車場で見送ってくれた。ありがとね、と二会敷が手を振ると、貴由は顔を赤くさせて頬を両手で包む。え?!と銅矢が唖然としているのを見ながら、所は少し笑ってしまった。そうしているうちに、あっという間に車は家の方向へと走り出す。
「ごめんね、二会敷くん」
「ん? シゲさんは悪くないじゃない」
「そうだけど…でも、ちょっと疲れてしまって…」
「眠る?」
「うん…ごめん」
悪意に触れない為の行動であったのに、結局悪意に触れてしまって、それ以前に知らない場所に行って疲れたらしい。助手席をちらりと窺うと、所は目を閉じて眠っていた。寝息は聞こえないが、これから少しずつ聞こえてくるのだろう。そうそう距離は離れていないが、10分でも眠れればいい。これが二会敷の車であるから、所の緊張が解けたということか。なんとなく二会敷はその事実に、少々気分を良くするのだった。
これから帰って着替えて、もし所が疲れているのなら出前でも取ろう。今日は冒険であった。その冒険を讃えて、美味しい和食でも食べさせてあげたいものだ。
所は結局昼食を取った後、眠ってしまった。どうにも緊張したらしい。ベッドで横になった彼が起き上がったのは、夕方の刻だった。所が髪を少し乱しながらリビングに向かうと、二会敷は学術雑誌を読み漁っていたらしい。雑誌を置くと、所を見た。
「んー…二会敷くん、おはよう」
「おはよう。といってももう夕方だけどね、よく眠れた?」
「うん。色々ごめんね…お夕飯は何か作ろうか」
「疲れたんでしょ、気にしなくていいよ、何か頼んでも」
「うーん…でも」
「シゲさん痩せ型なんだから、太らなきゃ」
「そんなに痩せてるかな…」
所は自分の体形を見やる。パジャマに着替えているからゆったりとしたシルエットだ。
「パジャマだと出掛けるのも億劫でしょ。もう家から出なくていいようにしよ?」
悪魔のような誘いである。夕日に照らされながら、にこにこと笑う二会敷はまるで怠惰の悪魔だ。だがその誘いに、所は乗る事にした。そうしようかと所が言うのに、二会敷はにこにこと笑う。
「…と、まあこんな感じなんだけど」
「知らんわ」
兼東司令は冷たい。ただ彼女の身としては、所と二会敷の、銅矢との一日を言われたところで何の感想を述べればいいのだろうか。あるいはそんな日常を、何食わぬ顔で上層部に報告する身にもなって欲しい。だが報告する二会敷は進歩でしょ?と誇らしげだ。
「お前は所の保護者か」
「似たようなもんでしょ。じゃ、報告終わるね」
「本当に何を聞かされているんだ私は」
「まあまあ」
二会敷の口にする言葉ではないのだが、窘めるように言うのに兼東司令はため息を吐く。やっぱり所みたいな従順な部下が欲しくなるのだった。
二会敷は喫煙所に向かった。所が第三研究室にいなかったのだ。人体実験に関しては、まだ完全に所属してる訳では無いものの、かつて部下だった者が手伝いに来ることがある。彼らに尋ねると、喫煙所に行ったのを見たと言う。礼を言って探しに行くと、喫煙所から誰かが出て来るのが見えた。同じEDFであろうが、知らぬ顔である。その人は当然煙草を携えていた。喫煙所に行くのだから当たり前である。だがその様子を見て、二会敷は胸に少々のざわつきを覚える。
かくして所は喫煙所にいた。誰に貰ったのか、一本の煙草を吸っている。二会敷の煙草とは違うものだ。メンソールが混じっている。先程の喫煙者にもらったのだろうか、そう考えると急に、二会敷は喫煙所に踏み入るように入っていった。所は驚いたようだ。
「わ、二会敷くん」
「シゲさん。…それ誰かにもらった?」
「うん。君を探しに来てて話した人にね。はは、EDFの人に嫌われていると思ったんだけど…いい人だったよ。話してみるもんだね」
「ーーねえシゲさん。貴由ちゃんと仲良くなったんだし、煙草は控えた方がいいよ」
「え?」
二会敷の声は少しトーンを落としていた。所は慌てて煙草を灰皿に落とす。反論も出来ない内容であるから、所は咄嗟に消したのだ。
「そうだね。…うん、控えた方が良さそうだ。ありがとう」
所は少し悲しげに答える。二会敷は思わず冷たいトーンになった事を悔いたが、所は先に戻ってるねとだけ返して戻って行ってしまった。残された二会敷は、自分の思わぬ言葉が飛び出したことに驚いている反面、この気まずさを煙に巻いてしまおうかと思った。だが、煙草を吸うような気分にもなれなくて、小さく息を吐くのだった。