爽やかな風が過ぎ去る、そんなある日の事だった
人気のない路地に、空気を切り裂くような声が響く
ハル「お兄ちゃん早く〜‼︎」
シルクで作られたワンピースを揺らし兄が追いつくのを待つハルは、その場でクルリと一回転した
水面に波紋が広がるように、ワンピースは風を受け取り綺麗に靡く
ハル「お兄ちゃんはホント運動できないんだから、動かなきゃダメだよ!」
遠心力をまるで無視しながらハルはピタリと止まった
アキ「お前なぁ、この荷物の量を見てからものを言え」
怨みがましくハルを見ているアキの荷物は、なんというか…重そうだ
ハルが肩掛けのショルダーなのに対して、アキはキャリーケースとボストンバックの二つ。荷物もそれなりに入っていそうで、所々中身の跡が浮き出ている
アキ「半分はお前が持ってくって言ったヤツだよな。なんだ?お前は3歩歩いたら物事忘れる、哀れな鶏の子孫か?」
ハル「勝手に鶏を哀れ認定しないであげてよ。それに私、鶏じゃないし」
アキ「だったら自分で持て。それとも自分が言ったことに責任持てないか?」
キャリーケースをハルに差し出すと渋々(本当に渋々)受け取る
引っ張ろうとしたが…
ハル「え、重ッ⁉︎」
鉄で出来たダンベルの塊でも引っ張ってるのかと疑いたくなる重さに、思わず叫ぶ
やろうと思えば普通に引っ張れる。だけども、自ら引っ張りたくなる訳ではない重さ
ハルはアキに助けを求める
ハル「お兄ちゃん無理なんだけど‼︎これ中身何入ってるの⁉︎」
アキ「オレとお前の服だよ。なんなら8割はお前のヤツ」
ハル「嘘でしょう?」
アキ「残念。素晴らしいことに全部事実…現実だ。ちなみにさっきまで俺、ずっとこれ持ってたんだよなー」
ニヤリとゲスみたいな顔で笑うと、いきなり真顔でハルに詰め寄る
そのままの勢いでボストンバックをハルに差し出す
アキ「こっち、記録な?今までの客全ての情報が載ってる紙。それが積み重なってりゃどんだけの重さになってるか、分かるよな?」
ハル「ごめんなさい‼︎だから持ってー!!!」
分かりやすくため息をつくと、アキはぶん取るような形でハルから荷物を奪う
アキが引っ張ると、さっきまでのアレはなんだったのやら、一切の抵抗もなく滑る
アキ「んでハル。目的の建物はどこにあるんだ?」
ハル「この道真っ直ぐで到着だった…はず」
アキ「おいおい、不確定なのかよ怖いな。道案内くらいしっかりしてくれ」
ハル「えっとね、うどん屋の看板がある店の正面が目的地!」
アキ「うどん屋か。飯には困らなそうな立地してるな」
ハル「そーだね。……ほらあそこに看板あるよ?」
「うどん尚正」と筆で書かれた看板は思ったより目立っている
距離が50mはありそうな所からでもはっきり見える
その代わり客の姿はほぼ見えない
アキ「あんま客はいないんだな」
ハル「それを言っちゃダメでしょ。私達だってそれほどお店が儲かってるとは言えないんだから」
アキ「まぁ、これ以上は言わないでおくか」
ハル「とりあえずほら‼︎ここがお店になる場所だよ」
意気揚々と言ったは良いけれども、2人は言葉を失う
多分思っている事は同じだろう
ハル「ねぇ、言ってもいいかな?」
アキ「奇遇だな。俺も言いたいことが出来た」
ハル「せーので言う?」
アキ「分かった、俺が言おう。…せーの」
ハル・アキ「「汚い」よね」
なんと言うか、全体的に埃っぽい
まず、古き良き古民家を想像してもらいたい
次に想像した古民家を廃墟に変えてみよう
至る所に蜘蛛の巣が張っていて、埃の量が冗談抜きで多く、到底人が住めるとは考えられない建物を思い浮かべてみると簡単だな
最後に、ここに人が住むと仮定しよう
結論、終わっている
ハル「掃除…しなきゃだね」
アキ「まともに家具もないだと?だから、駅近なのに値段が安かったんだ。俺達を鴨にして稼ぎやがった」
ハル「今から場所変える?」
アキ「それじゃ俺たちはともかく母は持たないだろ」
ハル「あーこんな遠出してまで掃除したく無いよー‼︎」
アキ「諦めろ。取り敢えず掃除道具買いに行くぞ」
適当に荷物を置いたアキはハルを引っ張り、連れていく
ハル「家具も買わなきゃだけど、そんなお金ないよー」
アキ「貯めてきた貯金使わなきゃいけなくなるのか。あークソ、目の前にアイツいたら、絶対いっぺんサハラ砂漠に埋めてやってたのに」
ハル「お兄ちゃん物騒だよ…」
お店の開店はもう少し先になる…かもしれない
失せ物屋「梟」
開店まで暫くお待ちを