「桓信の“おはようからおやすみ”まで書きます」
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PM6:30
「…ン、ぅん〜」
夏が過ぎて秋も本番。朝の冷え込みは布団から出るのを拒む気温にしては十分な気候になりつつある今日。
ふしだらな夜を越えて疲労と寝起きの心地よい温かさ、そして相手の肌の温もりを感じる布団の中で信は目を覚ます。
パチリ、と開けたアーモンド型の目には広い胸板。鍛えているはずの自分の腕よりも太いそれに包まれるようにして寝ているのだと気づく。もう少しだけ包まっていたいが今日はせっかくの休日。普段、二人揃って家でゆっくりする機会など無かった。だからといってデートをする予定もないが寝ているだけというのも些か勿体無い。
「ょぃ、しょ」
ゆっくりと質量のある桓騎の腕を退けようとすると悩ましい吐息が上から降ってきて身体を固まらせる。も、深く寝入っているらしく、抵抗はされなかった。鬼の居ぬ間に起きる前に。拘束から逃れ、頭を引っ込めるようにして脱出を図る。もう少し、というところで、
「ぅぎ」
ぎゅっと首の部分が締まって思わず呻いた。布団から中途半端に身体が抜け出た姿勢で相手の顔を伺えば、先ほどまで閉じられていた形の良い瞼がはっきりと持ち上がっていて内包された黒い二つの目が信を映していた。
「はよ」
短い挨拶に「ゔ」と猫みたく呻いてから同じ言葉を返す。
「もう起きるのか?」
動かなかった腕が信の身体を回り、外気の寒さから引き込む。連れ戻される布団の温もりの中に昨夜の熱を感じ取って踏みとどまる。
「なあ朝ご飯食べようぜ。桓騎、腹減ってねーの?」
「若いな…別に減ってねー訳じゃないが」
ぐい、引き込む力に負けて布団を抜け出ていた胴が戻る。引き寄せられた腕の中、額に落ちる柔い感触に嫌でも何を企んでいるか分かってしまって顔が熱い。
「き、のういっぱいヤッただろがっ」
「昨日は昨日だ。今日はまだシてない」
「ちょ、ゃめろ…、」
朝からサカるな。喚く唇を塞ぐように重ねられて呼吸の不便さに踏ん張っていた足の力が抜ける。その瞬間を見計らった腕が一層強く信の身体を引き寄せる。
「おま、本気か…ちったぁ懲りて………ぁッ」
裸の状態でいた為に無遠慮に触れられた胸の性感に思わず仰け反ってしまう。
「んだよ、案外イケそうじゃねーの」
「んな訳ある、かっ…!」
ーーかくして、抜け出た布団に逆戻りし、昨晩の熱の振り返しに信は悩まされることとなった。
*
PM7:20
「バカ桓騎」
「はいはい」
寝起きよりもキスマークが増えた身体でトーストを仏頂面で齧る信。噛まれた記憶も新しい。着る服に困るからやめてくれと言っているのに目の前の席で優雅にトーストにジャムを塗る男は毎度聞く様子が全く無い。
「…首じゃなくて、太腿とかにしてくんね?」
やめろと言ってないのだから我ながら譲歩した方だろう。そう思っての発言だったのに。
何かを勘違いした桓騎は笑窪を沈ませ、少々不気味な笑みを浮かべている。
何を考えているのか、考えるのも怖くなってトーストを含めた朝食を胃の中に納め、席を立つ。片付けを終わらせてしまおうと使い終わった食器を持ってキッチンへ向かうとその後ろを桓騎が空の食器を持って続く。
「……。…なぁ、洗いづれぇ」
シンクで食器を洗う後ろからピッタリとひっつき虫のようにされては気も落ち着かない。寝起きにつけられたキスマークの部分に吐息が掛かってそこから全身の肌が粟立つ感覚に襲われる。
「離れろ」
「なに、減るモンじゃない」
「邪魔!」
「はいはい」
ベタベタ触られては落ち着けない。どう振り払うべきか考えている間にも腰を回る腕は明らかな意志を持って脇や腹部の窪みを這い回る。
「っ」
「どうした、手が止まってるぞ」
誰のせいで。睨み、身体に力を入れようとすると足の関節の際どい部分を強めに太い触肢がなぞる。
「桓騎…ッてめ」
覚えていろ。水仕事の手前、暴れられない体制で精一杯の威嚇をするもどこ吹く風。洗い終わった皿が増える度に接触はより淫猥に、ズボン越しに刺激を与えるような動きへと変わっていく。
「お、ぃ、そこっ」
爪の先が兆していない部分へ。
「ン? ここか?」
やめろ、言おうとした口が下半身からから走った快感で強く閉じられた。
「っふ、うっ…! く」
どうにか喘ぐのだけは避けたものの、今ので朝の熱を思い出してしまった。今日はせっかくの休日。身体に触れるだけじゃなくやりたい事がたくさんある。本能的じゃなく、理性的な一日を。いつも通りに流されるのも気に入らなくて桓騎の腕を掴むとグッとズボン越しに性器を握り込まれて完全に腰が砕けた。
ガチャン! シンクの池に手に持っていた食器が落ちる。
とっくに洗い終わっていた最後の一枚。流れ続ける蛇口を止めて器用に片付けると桓騎は抱いた腰を抱え直しズボンをパンツごと引き下ろした。飛び出た性器と太腿の前側が汚れている。臀部に指を這わせ、まだ紅く熟れた色を残しているそこに挿し入れると熱いくらいに熱を伝えてくる。
「いい感じだな」
「ん、ぁあッ…♡」
離れろ触るなの態度は何処へやら、抱かれ過ぎて浅ましくなってしまった身体は頭の理性に反して陥落が早く、一度達してしまえばなお弱いのは桓騎も知っていた。
「っ…きょうは、どっか…でかけ、た」
「分かった分かった」
可愛らしい要求をする口を塞いで舌を差し込めばちゅるちゅると小動物が水を飲むように伸びてくる舌。それを甘く噛んで咀嚼した後に口内に引き入れてより強く、絡めて噛んだ部分を啜る。すると、腕に抱いていた腰が物欲しそうに揺れるのだから桓騎は笑いが止まらなかった。
「ここで“一回”な」
「っ……ん」
焦る事はない。まだ休日は始まったばかりだ。
*
PM9:00
「デートするとか! どっかで美味しいご飯食べるとか! 俺はしたかったんだっ!」
なしくずしに朝風呂。そして朝日の射し込むバスルームにて。湯槽に並んで入ると縁のギリギリで水位が揺蕩ってから少しだけ溢れた。
「クク、悪かったって」
キスマークに続き、噛み跡が増えた首筋に桓騎は謝罪の意を落とす。
「反省してねーだろ」
剥れた信の頬。湯気でしっとりと濡れている所へもう一度、キスを落とす。
「デートね…どこか行きたい場所があんのか?」
「……いや、特には」
「ねェのかよ」
「すぐに思い浮かばなかっただけだしっ」
「そうかい」
ああだこうだと真っ赤になった顔で考える信。桓騎は青くなったり赤くなったり忙しいそんな顔が面白くて、湯槽からあげた指先で頬を突いては遊んでいた。
*
PM9:30
「少し浸かりすぎた…」
「だからほどほどにしろと言った」
「うっせ」
悪態をついた後、信はのぼせた身体をソファに横たわらせて息を整える。髪が濡れたままだが、少しだけ休もう。乾かすのはその後にして目を閉じる。
「寝るな。流石の馬鹿でも風邪引くぞ」
「今、バカっつった?」
「言ってない」
「嘘こけ」
軽口を叩き合っていると頭の上からドライヤーの温風。手櫛で頭部を触れる手の感触。程よく温かい風がシャンプーの香りを乗せて額を滑って行く。
「おーサンキューな」
ドライヤーの音のせいか桓騎は何も言わない。さわさわ、さらさらと髪が乾いていくにつれて頭皮に触れる指と温風の心地がより良いものに変化する。暫くすると、自堕落に横になったまま、信の短髪はしっかりと乾かされていた。
ドライヤーの音が止む。
「終わったぞ」
「ん」
美容室の施術後のような妙な仕上がり具合にコイツ、いろいろと器用なんだよな、なんて感心する。が、ポロリ言ってしまった日には調子に乗るのは目に見えているので信は口を閉じる。
そんな様子を見て男はニタァ、と口角を吊り上げた。
「…惚れ直したか?」
「言ってろ」
顔に出てたらしい。今度から気をつけねば。
信はぐっと表情を引き締めた。
*
PM10:00
デートにいくなら候補はいくつかある。
水族館。
「この間行ったろ」
動物園。
「それも行った」
植物園に広い公園。
「お前の趣味じゃないだろ」
お祭り。
「今日はどこもやってねー」
び、美術館。なんかの展示、とか。
「無理すんな」
「桓騎!」片っ端からあげた案を却下されて信の頭に血が昇る。「さっきっからてめー! 否定ばっかすんなよ!」
対して艶びた顔は冷静だ。「どうせ、同じ場所に行ってもつまんねー顔してるだろ」
「しない!」
「いいや。する。何回行っても良いって連れてったデート先でつまんねーって呟かれてみろ。萎えるどころの話じゃなくなる」
「俺はそんな事言わな、」
「てめーが言ったんだぞ」
信。笑みを引っ込めた桓騎が語気を強めた。
「………まじ?」
「まじ」
*
PM10:25
いいデート先が見つからないのなら仕方がない。発想を転換するべきだ。この際、どこへ出かけてもデートになり得る。
例え、それが近所のスーパーで買い出しすることであっても、重要なコミュニケーション足り得るのである。
「桓騎も来て良かったぜー。一人一パックの卵が二個買える!」
「さようか」
喜ぶべきところがずれている恋人に桓騎は深いため息を吐いた。「あ!」と何かを思い出したように声をあげ「ついてきてほしい所がある」と言われついてきてみれば、ただの数合わせ。期待した己が馬鹿だった。
何にせよこんな日があっても良いだろう。買い出しを済ませてからはゆっくりと家で“休め”ばいい。波立つ心を鎮める為にもう一度ため息を吐いていると後ろから信が肩を叩いた。
背の低い顔がまっすぐに桓騎の顔を見つめた後に、冷凍食品の売り場を親指で指し示す。
「小腹減ったしアイス買っていこうぜー」
ニカっと。太陽のような笑みにつられて笑ってしまう。
「昼が食べれなくなってもしらねーぞ」
「大丈夫だって!」
*
PM11:35
信が観たいと言った映画作品をレンタルする為にスーパーから脚を伸ばしていたら思ったよりも時間がかかってしまった。
時計を見ればすっかり昼前。先程食べたアイスも腹から消えたのか昼飯は何にしようと信はキッチンに立って買い出しで得た食品を冷蔵庫に詰めながら議論中。
「なんでもいい」
「それが一番困るんだよ」
「美味いやつ」
「はいよ」
直接信に言ってやる事はないが、信は料理が上手い、そして一緒に食べる料理は格別、と桓騎は密かに思っていたりする。
*
AM12:30
「