そして、ファフニールもまたそれを理解している。放ってくる弾道と機動(マニューバ)はその言葉。ネグザルツの竜骨(スパイン)に染み付いた記憶が、ほかのどんな言葉よりも饒舌にしてシンプルなその意志を読み取る。すなわち――。
ここで倒れるようなら、この先に行く資格はない。
証明せねばならない。太陽の剣を継承するものとして、その資格を。
網目状に張り巡らされた遅延弾幕に絡め取られまいとすればするほど、自身の動きは単純化し高速弾に狙われやすくなる。かといって、大振りな機動(マニューバ)をとれば周囲に停滞した遅延弾幕に被弾してしまう。
そしてなにより、ここで足止めをされているわけにはいかない。ならば――。
ネグザルツは動きを阻害する遅延弾幕を掻い潜りつつファフニールに接近。襲い来る高速弾はあえて回避せずに装甲で受ける。衝撃に姿勢が崩れそうになるのを持ちこたえながら、あえてファフニールの正面に移動する。
今度こそ必中のタイミングで、ファフニールが砲撃形態に移行し始める。装甲の一部が展開し砲口が露出しエネルギーが集中する――その瞬間、ネグザルツはその砲口に向かって急加速、同時に太陽剣を抜刀(アクティベート)。
ほとんど砲口に体当りする勢いで加速したネグザルツの機体がファフニールと接触し、そのまま粉砕されると思われた瞬間、ネグザルツは全エネルギーを太陽剣に注ぎ込んだ。
露出した砲口、すなわち唯一装甲に覆われていない部分。そこから太陽剣の凄まじいエネルギーが、至近距離から流し込まれる。
太陽剣・穿(ウガチ)。
針のごとく絞られた極限の突きの型。邪竜の鱗の隙間を縫うがごとく機体内に突き込まれた太陽剣は致命的な器官をいくつも貫通し、ファフニールの左半身を内側から爆散させた。
しかし、ネグザルツの感覚機(センサー)が検知したのはファフニールの反応消失ではなく再度の次元震。爆光の中、ファフニールが次元転移によってこの場を去ったのがわかった。
あれほどのダメージを受けておきながら、まだ退避のための余力を残していたことに、ネグザルツは戦慄を覚えた。また、確実に戦うことになるだろう。
巡航しつつ、自己修復機能で装甲と機体構造を回復していく。回復が完了する前に、後方艦隊からの司令(オーダー)が入った。
『作戦司令(オペレーションオーダー)102。敵主犯格がフォートレス級一番艦へ侵入。ニューラル・リンクへの接触を確認。速やかにシステムを奪還、もしくは破壊せよ』
敵主犯格――すなわち、レーヴァテイン。偉大なる母。
その超干渉能力の前には、いかにフォートレス級のニューラルリンクが強力な侵入対抗防壁(ブラック・アイス)を備えていようともシステム全体が書き換えられるのは時間の問題だ。制御(コントロール)を奪われたフォートレス級との戦闘を強いられることは明白だろう。
可能な限り戦闘を避け、目標であるレーヴァテインのもとへ――その思考を切り裂くかのような警告(アラート)。現在地からフォートレス級までの航路を塞ぐように敵中型機の群れが結集しつつある。もはや艦隊全体ではなく、ネグザルツ単体のみを狙う布陣。
だからこそ、行かねばならない。(傍点)
ネグザルツは中型機を太陽剣で斬り裂きつつ活路を開こうと試みる。破断され飛び散った中型機の装甲を盾にして敵弾を防ぎつつ、フォートレス級までの直線経路を疾走。同時に、フォートレス級の状況(ステータス)を確認。ニューラル・リンク侵食度はすでに50%を超えている。侵食の阻止はもはや不可能。破壊するしかない。侵食がシステム中枢部まで到達した場合、ニューラル・リンクを通じて艦隊全てがレーヴァテインの制御下に置かれる危険性がある。さらにはフォートレス級の主機が侵食されれば、その暴走による自爆で周辺宙域が壊滅的な打撃を――。
瞬間、竜骨(スパイン)を灼くかのような殺気がネグザルツの機体構造を貫いた。ともすれば生体金属で編まれた装甲が分解されそうな圧倒的な殺気、その半瞬後に、その殺気そのままの光撃が宙域を薙ぎ払った。
ネグザルツはとっさにカウンターブースト、急激に機体を減速させた。軋みを上げる機体の鼻先を光撃が擦過し、その射線上にあった岩塊と中型機の装甲をまとめて蒸発させる。